4 不思議な青年
「ふう~・・」
神官はトンと地面に桶を置くとニコニコしながら私に言う。
「どうもありがとうございます。お嬢さん。お陰で命拾いしました。」
「は、はあ・・・。」
それにしても驚きだ。この神官・・・今まで見たことが無いくらいの美形だ。しかし・・・頭から水桶に突っ込んで水を飲むようなおかしな男だ。一応神官の姿はしていけれども剣を2本も所有しているなんて怪しすぎる。見ると、彼の首からは大きなロザリオがぶら下がっている。
「あの~・・・。」
私は地面に正座しながら尋ねた。
「貴方は何処の町の教会の方なのでしょうか?教会の所属名とお名前を教えて頂けますか?」
すると彼は照れ臭そうに言う。
「いや~・・・・実は・・僕は神官では無いんですよ・・。」
「え?だ、だって・・・どう見てもその服装・・・神官様ではないですかっ?!そんな立派な法衣を着て・・しかもとても豪華なロザリオをぶら下げているじゃないですかっ?!大体それ・・・・水晶ですよね?」
「ええ、そうです!よくご存じですね?でも・・本当に神官では無いんです。」
彼は申し訳なさそうに言う。
「あ、貴方・・・神官でもないのに・・そんな法衣を着ているなんて・・は、犯罪ですよっ?!警察を呼びますよっ?!」
私は立ち上がり、ニセ神官を指さした。
「わーっ!お願いですから、大声でそんな事言わないで下さいっ!」
ニセ神官は必死になって頭を下げる。
「頭を下げるって事は・・聖職者でもないのに、神官の姿をするのは犯罪だと分かっていてやっているんですよね?!その服を着ていれば、人々から寄付を募れますものねっ?!」
そう、神官は家々を回って寄付を募れる。そして訪ねられた家は寄付を断るわけにはいかないのだ。
「ですから、僕は寄付を募る為にこんな格好をしているわけでは無いんですよっ!」
「それじゃあ一体何故、そんな姿をしているんですっ?!」
「そ、それは・・・。」
神官が言いかけた時・・・突然、林の木々がざわざわと騒ぎ出し、辺りの空気がひんやりしてきた。次の瞬間・・・突如、頭上で声が聞こえた―。
< ついに・・この街までやって来たか・・・?フェイクのくせに・・。>
「え?一体何ッ?!」
慌ててキョロキョロ見渡し・・・
「ヒッ!」
私は悲鳴を上げた。すると林の奥から今まで見たことも無いような真っ黒な狼のような生き物がノソリと現れたのだ。その大きな口からは牙が見え、真っ赤な舌が伸びている。身体には不気味なオーラのようなものがまとわりついている。
「あ・・・な、何・・?あの生き物は・・?」
「し・・・静かに・・危ないから下がっていて・・。」
突如、彼の雰囲気が変わった。それまでのどこかおちゃらけた態度から一変、凛とし佇まいで腰の剣を握りしめて低く構えている。
< 全く・・しつこい男だ・・・だがいくらあがいても無駄だぞ・・? >
獣は頭の中に語り掛けて来る。
「さあ・・それはどうかな?君たちを倒し続けてきたらかお陰様で大分自分の記憶を取り戻せているよ?」
ニヤリと笑みを浮かべながら彼は言う。
< だまれ・・所詮その身体などフェイクのくせに・・! 死ねっ! >
「あいにく・・僕はまだまだ死ねないのさっ!僕自身を奪った全ての『ブギーマン』達を倒すまではねっ?!」
え・・?何?僕自身を奪った?ブギーマンって・・・一体何?
私には何の事かさっぱ分からなかった。
獣が彼に向って走って来る。そして剣を鞘から引き抜く彼。
< 死ねえっ!!>
勝負は・・一瞬でついた。彼は頭上からとびかかって来る獣の攻撃を素早く避け、剣を大きく振り払い、獣の身体を横に大きく切り裂いた。
ザシュッ!!
彼に剣で切られた獣は一言も声を発することも無く、チリのようにかき消えた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます