第41話 魔導士の町ウインド

 船に乗り、俺達はウインドの町にやって来た。

 そこはとても長閑な町で、果樹園あちこちにある傍らに魔道士の家が建ち並ぶ。


 果樹園農家と魔道士の仲はとても良く、みな協力して生活している様だ。


 町に着くとヴァレス達は用事があるとかで一旦そこで別れた。

 クレスはヴァレスとマーレから生まれ故郷の国について色々と聞いていた。


 いつかはそこに行く事にはなるだろうが、そこに辿り着くには長い旅になる。

 急ぐ事では無いので、色んなものをクレスに見せてやりたいと思っている。


「うちの村とはまた違った長閑さだな」


「サイハテはここ迄豊かな土地じゃ無いからね。ここの人たちは、みんな裕福な感じだね」


 風景は長閑だが、殆どの人は生活に困っている様子はない。

 ここの特産品であるフルーツ類は高価な物ばかりらしく、農家の人々もかなり裕福なのだとか。


 また、農家に対して魔道具や魔術品を売って生活している魔道士が殆どでそのおかげで魔道士も生活に困らないらしい。


 何より…


「この町には守り神様がいらっしゃいますから、魔物におびえることもないんですよ。いざとなれば魔道士様方が助けてくれますから、安心して暮らせるんでさぁ」


 と、おしゃべりが好きな農民に教えてもらった。


 何にせよ、しばらくここに滞在する予定なので宿屋を探さねば。


「宿屋ですかい?それならこの先に大きな宿屋がありますぜ。そこなら馬車も馬も預けれますから、あんた方ならそこがいいでさぁ」


 と教えてもらった。


 港から馬車で目的の宿屋を目指して走らせる。

 それほど時間が掛からずに、言われた宿屋を見つけた。


【宿屋 フルーツ亭】


 うん、まんまな名前だな。

 だけど教えて貰った通り大きな宿屋で、部屋も綺麗になっていて申し分無かった。


 クレス、マリア、レイラの3人は大きめの部屋に3人で泊まり、俺は一人部屋にした。

 エースも俺と同じ部屋になら入って良いと言われたので、一緒に寝泊まりする。

 床に毛皮を敷いてあげたら、尻尾をブンブンさせてとても喜んでいた。


 泊まるところが決まったので、次に冒険者ギルドに立ち寄る。

 どこの町にも必ずあるので、冒険者になったら立ち寄れとカンドのギルドマスターに言われていたからだ。


 もちろん、ここでクエストを受けておけば稼ぐことも出来るので、言われなくても普通は立ち寄るのだけどね。

 ギルドカウンターに行き、今日ウインドに着いたことを伝えて、早速何か依頼が無いかを確認した。


「そうですねー、今は討伐の依頼はないですが収穫の手伝いならありますよ?」


「冒険者の仕事で収穫の手伝いですか?」


「はい。この町には守り神様がいますから、滅多な事では討伐依頼なんてこないんですよ。なので主に魔術師ギルドに納品する薬草採取か、魔術用の鉱石採取なんですよ。それよりも報酬が良いのがこの収穫のお手伝いになるんですよ。今の時期にしか無いので、オススメですよ〜!」

 

 受付嬢は慣れた様子で説明をすると、クエスト書を渡してきた。

 きっとこの時期になると恒例のやり取りなんだろう。


 しかし、言うだけあり報酬はかなり良い。

 討伐ほどじゃ無いが、危険がなくて肉体労働だけでこの値段は凄いね。


 それだけこの果樹園の果物が高級と言うことなんだろうな。

 しかも、手伝ったらこの果物をお裾分けしてもらえるらしい。


「お父さん、私これやってみたい!」


「肉体労働は得意では無いですが、高級な果物が食べれるのは良いですね…」


 クレスと、マリアはやる気だ。


「うん、いいんじゃない?でも、私は師事出来る人を探さないとだから…」


「ああ、レイラは魔法を教えてもらえる魔術師を探すといい。安心しろ、レイラの分も貰ってきてやるからな」


「本当っ!?やったー、ウードさんありがとう!じゃあ、わたしは先にいってくるね」


 レイラは満面の笑みを零すと、軽い足取りでギルドを後にした。

 どこの女の子も甘いものには目が無いようだ。


 

 この町で買えば都市で買うよりは安いのだけど、それでもタダで食べれるのは嬉しいみたいだ。

 しかも今回の収穫を手伝う果樹園だが、ここでしか採れない『ウインドスター』という果物を育てている所だ。

 この『ウインドスター』というのは、高級果物の中でもかなり高価なものらしく、一般では売られていない幻の果物と言われているのだとか。


 それだけ高級品なので、傷があるものや形の悪いものは出荷しないらしい。

 そういう粗悪品扱いされた果物は、この『ウインドスター』を含め自由に持ち帰って食べていい事になっている。

 勿論、それを食べずに転売でもしようものなら違約金が発生することまで細かく書いてあるので、かなり拘り持って作っている事が伺えた。


「それだけ美味しいんだろうね!さ、お父さん、マリア行こう!」


「うん、行きましょう!」


 二人の後について行く形で俺は果樹園に向かうのだった。

 一緒に付いてくるエースの尻尾が、なぜかご機嫌にブンブンと振られていたのは気のせいではないだろうな。


「しょうがない、お前にもちゃんと分けてやるからな?」


 ウォンッ!と元気よく返事をするエース。

 お前も甘いものが好きなのか、可愛い奴め。


 ──その頃


「さっきギルドの人から教えて貰ったのはここかな…」


 レイラは魔術師ギルドの前に来ていた。 

 冒険者ギルドの職員に聞いたところ、教えてくれるような人は冒険者ギルドには来ないから、魔術師ギルドで聞いた方が早いでしょうという事だった。


 入口に入ると、少し暗めの内装で作られたロビーになっている。

 受付する場所であろうカウンターには、初老と思える人が座っていた。

 こちらを見て、一瞬眉間にしわを寄せるもすぐに顔を元に戻し小さな声で「こちらに…」とレイラを呼ぶ。


「ご依頼ですか?」


 レイラの恰好から、魔術師ではないと判断したようだ。

 確かに腰に剣を指す魔術師は、そうはいない。


「ええと、はい。私に炎の魔法を教えてくれそうな人を探しているんですが…」


「魔法の師事ですか。…魔術師の中でも、人に魔法を教えれる者は殆どいません。なぜなら、皆まだ現役で自分の魔術の研究に没頭しているような者ばかりですから…」


「えぇっ!?そうなんです…ね。現役を引退しているような方はいないですか?」


「いない事はないですが…、そうなるとかなり高額になりますよ?失礼ですが、お金はありますか?」


 いくら冒険者風に見えるとはいえ、年の頃15歳の少女が高額な指導料を払えるとは思えないだろう。

 普通ならまだ駆け出しで、日々の生活に精一杯というのが殆どだ。


「金貨5枚くらいまでならなんとか…」


「き、金貨5枚!?えっと…、失礼しました。どこかの良家のお嬢様でしたか、それなら…」


「いえ、お嬢様というわけでは…。いえっ、なんでもないです。もしかして、紹介してもらえるんですか!?」


 すると受付の人はさささっと羊皮紙にペンで地図を描く。

 さすがこういう所にいる人は、ペンで書くことに慣れているようだ。


 レイラも文字を書くことは一通り出来るが、ここまで綺麗には書けないだろう。

 図も分かりやすく、この魔術師ギルドの教養の高さが伺える。


「ここに行くといいでしょう。この方は、とある王宮の魔術師をされていた方です。気難しい方であるが、技術は超一流です。きっと貴女のお力になってくださるはず」


「有難うございました!いってみます!」


 仲介料として、銀貨1枚渡して教えて貰った場所へ向うレイラ。

 そこは見晴らしの良い高台。

 そこから見えるのは『ウインドスター』の果樹園であった。


「あのー、魔術師ギルドからの紹介で来ましたレイラといいます~。ガルム老師はいらっしゃいますか~?」


 そこでギィーっと扉が開く。

 中からは、聞いてた素性とはかけ離れた質素な暮らしをしている老人であった。


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