第5話 いざ、お仕事開始!

「マチスさん、こんな上等なレイピアと革鎧まで用意してくれるなんて、凄いねお父さん」


 打ち合わせのあと、マチスさんから装備一式を渡された。

 明日出発する時にはこれを装備してきて欲しいとのことだった。


「ああ、俺のも同じ素材で作られているようだ。あの人はこの町の豪商だからお金があるとはいえ、よっぽど今回の護衛に力を入れているんだろうな」


 いくら娘のお出かけの為とはいえ、ここまでする必要はないと思うが、『念には念を入れる。これは商売人の鉄則でもあります。我々は賭け事はしない質ですのでね』という事だった。


 俺は御者として雇われるのだが、念のためという事で上質な弓矢とダガーが与えられた。

 どちらも駆け出し冒険者が持つような品ではない。


「しかも、今回の仕事が無事に終わったらそのままくれるっていうんだから、まさに太っ腹だよな」


「だね!でも、娘さんってどんな人なんだろうね?会うの楽しみ!」


 マチスさんの話では、娘さんはクレスと同じくらいの年らしいのでクレスも楽しみにしているようだ。


  クレスを拾う数年前までは、しばらく子供が生まれていなかったので、村にはあまり同い年の子はいなかった。

 もちろん下の子達はいるが、面倒見のいいクレスは友達というよりはお姉さん扱いになってしまう。


「ああ、明日に備えて色々準備をしておこう。うちの子達としばらく離れるし、村に人に世話の仕方とか話をしておかないとな」


「うん、そうだね!…エースは連れて行くの?」


「ああ、連れて行くさ。一応俺も冒険者としてついて行くからな。狩人は相棒として狩猟犬や狼を連れて行くのが許されているから問題ないさ」


「そうなんだね、それなら安心」


 俺一人では心配だが、エースもいれば安心という事だろう。

 父親としては情けない話だが、いつも狩りをしているときにエースの活躍が大きいので仕方ないのである。

 決して、俺が頼りないからとかじゃないよ!?


 話は逸れたが、帰ってからクレスに剣の試し切りをさせてみた。

 細めの丸太に藁を適当に撒いて作ったものを敵に見立ててやらせてみる。


 ヒュウウウンと風切り音と共に、刃が舞い標的を斬り抜けた。

 ヒュンと空を斬ってからするりと鞘に納める。


 すると、ドサッと綺麗な切り口を残して標的が斜めにズレて落ちた。


「…え?す、すごいぞっクレス!いつからそんな才能が!?」


 あまりの凄さに俺も興奮しながらクレスを褒めちぎった。

 それに照れながらも、


「これが初めてだけど?でも、今日の訓練で使い方教わったからだよきっと」


 そんなので、ここまで剣の腕が良くなるなら誰でも一流になれるぞ。

 なるほど、あのギルド職員が逸材というのも納得できる。


「でも、実際はこんなじっとしててくれるわけじゃないから、こんなにうまくはいかないと思うよ」


「まぁ、確かにそうだけど。こんなの父さんには出来ないぞ」


「それは…、得手不得手があるからしょうがないよ」


「それはそうなんだけどな…」


「さ、ご飯の用意しておくから、お父さんは皆のお世話お願いね」


「お、そうだったな、じゃあ皆に餌をあげてくるから頼んだな~」


 そんな会話をしつつ、家畜や相棒たちの餌を準備してあげにいった。

 キッド(とその奥さん)と一緒にエースも寛いでいた。


 俺が餌の肉を持っていくと、喜んで食べていた。

 キッドは現役こそ退いているが、いまでも牧畜の見回りや、害獣の撃退などはやっている。


 ただ長時間移動する狩りだと体力がもたなくなってきたので、息子のエースに代わったのだった。


「キッド、しばらくエースを借りていくからな。留守の間は頼んだよ」


 ウォンッ!と返事をするキッドを撫でてやり、すこしブラッシング等も済ませてから小屋を出てきた。


 他の家畜や販売用の馬などの世話にやってきた村人に任せて家に戻ると、とてもいい匂いが漂う。

 その匂いを嗅ぐと同時にお腹がぐうっと鳴った。


「ただいま~!」


「あ、お父さんお帰り。丁度出来たところだから手と顔を洗ったら食べよ~」


「ああ、ありがとう」


 そういって、水を桶に組んで手と顔洗ってからタオルで顔を拭き食卓に座った。

 ここ最近は、クレスが良く料理を作ってくれる様になった。


 男の俺が作るとどうしても焼いただけとか、煮ただけとかになりがちだが、流石に女の子だけあって彩が豊かなものが並んでいる。

 サラダや自家製ドレッシングなど、様々なレシピを人から聞いては試しに作っているみたいで、本当に助かる。

 

「「いただきまーす!」」


 その日の夜も二人で仲良く食事を取り、明日の仕事のために早めに就寝するのだった。



 次の日の朝、護衛とはいえ人に付きっきりになるので、流石に身綺麗にした方が良いだろうという事で沐浴をしてから出発した。

 

 移動のため自分用の馬に乗って、クレスを前に乗せる。


 エースはダッシュでついてくるが、体力が有り余っているので若干こちらが追いかける形になってしまった。

 そんなエースのはしゃぎっぷりを笑顔で眺めるクレスを見ると、この子の親になれて本当に良かったと思うのだった。

 うん、今日も可愛い。


「ウードさん、来てくれましたか。お待ちしておりましたよ」


 マチス商会に到着すると、既に馬車が用意されていた。

 専用の馬車馬がいるので、俺の馬はマチス商会で預かってもらう事になっている。


「はい、今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 俺とクレスは、待っていたマチスさんに挨拶をする。


「はっは。そんなに緊張しないでください。な~に、隣町までの移動です。2日もあれば着いてしまうからね。そんなに緊張しないで大丈夫ですよ」


 冒険者としては初めての仕事に、なぜか俺の方が緊張してしまっていたようで、それを見たマチスさんが笑いながらそう言う。

 それからこっちが・・・と一人の少女が出てくる。


「娘のマリアです。どうぞよろしくお願いいたします」


 可愛らしい顔の少女が、綺麗な姿勢で挨拶をした。

 さすが商家の娘だ、作法が整っている。


「お父さんには、いつもお世話になっています。私はウード、そしてこっちが娘のクレスだ」


「娘のクレスです、マリアさん今日からしばらく護衛として一緒に居させてもらいますのでよろしくお願いします」


「わぁーっ!貴女がお父様の言っていた子ね。綺麗な色の髪~、羨ましいなぁ」


「ふふ、ありがとう。そう言って貰えてうれしいわ。マリアさんの髪も素敵なオレンジ色ね。素敵だわ」


「うふふ。ありがとう!みんなよりも少し明るい色だけど、私も気に入ってるのよ」


 やはり同い年のせいか、女子同士だからなのか、身分は違えど話は合うようだ。

 その様子を見て親二人は安堵する。


「思った以上に問題なさそうですな」


「ええ、私も安心しました。では、早速出発しますか?」


「ああ、待ってくださいね。まだ他の護衛が来ていない。もうすぐ来るはずなのだが…」


 そう言っていると、丁稚さんに連れられて3人の男達がやって来た。

 見るからにガタイがしっかりしていて、屈強そうだ。


「やあ、マチスさん。お待たせしてしまったようで申し訳ない」


「おお、来たか!今日はよろしく頼むぞ」


「もちろんです、任せてください」


 3人の中でリーダーと思しき人物がマチスさんに挨拶と握手をしていた。

 男達は、リーダーがドリスで剣士らしい。

 他の二人が、体が大きめでガッシリした斧使いがタルトス、筋肉は引き締まっているが細身に見える槍使いがサントと言うらしい。


 俺は警護兼御者で、クレスは警護およびマリアの世話係だと説明された。


「なるほど、警護は俺らだけで充分ですが、お嬢様のお付きは女性の方がいいですからね。まぁ、俺らがいるから安心して任せてください」


 ドリスは、一瞬子供の剣士だと?と顔に書いてあったがマリアの護衛と聞いてすぐに察したようだ。

 ドリス自身もそれなりに有名な冒険者らしいので、下手な事はしないとマチスさんも言っていた。


「じゃあ、ウードさん。御者はうちのものにもやらせますが、よろしくお願いしますね」


「はい、マチスさんは馬車の中でマリアさんとゆっくり寛いでいてください」


 こうして、俺とクレスの冒険者としての初仕事が始まるのだった。

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