第77話:手遅れ

 慌てて最前線に向かおうとしたが、王都内では全速を出せない。

 ソニックブームを起こしてしまったら、王都に大損害を与えてしまう。

 だからギリギリの速度で王都内を駆け抜けようとしたが、その間にも状況は刻一刻動いていて、歯ぎしりする思いで鳥から伝えられる情景と音を見聞きしている。

 

 敵はこちらの鳥攻撃をバリアで防いでいる。

 俺が鳥に魔術士を攻撃させる事を予測していたのだ。

 デザートワームを支配下に置いてから解呪するためには、莫大な魔力が必要だ。

 いや、魔力だけでなく集中力も必要になる。

 そのためにバリアを張れるだけの術士も用意していたのだろう。


 新たに鳥から伝えられた情報に唇をかみ破りそうになった。

 魔術士たちの中に剣の勇者が混じっているのだ。

 今回は攻撃には加わらず、魔術を使う役目をしている。

 いや、バリアを張る役目を与えられているのか。

 敵が内部で争っていると決めつけていたのは俺の間違いだったのか。


 ついにデザートワームが砂漠の端に現れた。

 莫大な量の砂をまき散らしながら、砂漠から飛び出して空に舞う。

 撒餌として使われた鳥の死体、首を切られたブタやヒツジ、そして輸送部隊員。

 敵は味方の兵士までデザートワームを呼び寄せるためのエサにしやがった。

 あまりの非人情さに怒りを覚え、腹の中が煮えくり返る。


「「「「「エリアパーフェクトパペット」」」」」


 事前に練習していたのだろうか、魔術士たちが全く同時に詠唱を行う。

 完璧に同調しているのが伝わってくる。

 それにしても、個体に対する魔術ではなく、範囲に効果を及ぼす魔術を使うか。

 デザートワームの巨体を考えて、そうしなければ失敗すると考えたのだろうか。


 「「「「「エリアパーフェクトスレーブ」」」」」


 今度は魔術をかえて呪文詠唱をしやがった。

 1度ではデザートワームを完全に支配下に置けないと思っているのだろうか。

 それとも1種類の魔術では不安なのだろうか。

 できれば不安通りに失敗してくれ。

 せめて俺が現場にたどり着くまでは、解呪の呪文を成功させないでくれ。


「「「「「エリアパーフェクトパペット」」」」」


 よかった、1度では成功しなかったのだ。

 これなら間に合うかもしれない。

 魔術士たちもバタバタと倒れている。

 デザートワームを操り人形や奴隷にするにはとんでもない魔力が必要なのだ。

 それだけの魔力を剣の勇者と魔術士だけでは確保できなかったのだろう。


「「「「「エリアパーフェクトスレーブ」」」」」


 そう安心した矢先に、別方向からも魔術詠唱が聞こえてきた。

 3人の不良勇者が奴隷魔術を詠唱しやがった。

 これは明らかな俺の油断だった。

 不良勇者が操り人形や奴隷の魔術を使えるのは、剣の勇者を見て想像しておくべきだったのに、全く考えが及ばなかった。


 これ以上鳥やハチを殺したくないという想いから、攻撃を中止させたのは間違いだったのだ。

 食欲だけに支配されているはずのデザートワームが動きを止めている。

 完璧かどうかは分からないが、デザートワームを支配下に置いている。

 急がなくては、手遅れになってしまう、どうか間に合ってくれ。


「「「「「エリアパーフェクトステータスリカバリー」」」」」




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