第10話

「はぁー終わったー!」

「いやー疲れたよ!」

「お茶入れましょうか?お菓子もまだ余ってますし···」


はっ!!ダメだダメだ。

まだ少し違和感が残っているというのにこれ以上の追撃は!


「い、いやまだやることはありますから遠慮しますよ」

「そうだよ、」

「確かにそれもそうですね···ではこれはまた今度にしましょうか」

「え?」

「どうしたんですか?会長」

「い、いや?なんでもないけど?」


明らかになんでもないって顔はしてないけどな···

と、俺がそんな事を思っていると廊下からドタドタとした音が響いてくる。

凛が「なんだ騒がしい···」と言いながら扉の方へ向かうと扉は勝手に開くとそこには青山先生が必死の形相でいた。


「うわぁ!」

「凛ちゃん!ちょうど良かったよ!この前話したアルビノの子が授業に戻ってきてないの!!屋上とか探したけどいなくて!凛ちゃんも手伝ってくれない!?」

「と、冬子ちゃん、落ち着いて?それなら大丈夫だから···」

「全然大丈夫じゃないんだって!!」


青山先生はもう既に汗だくになっていた。

いったいどれだけ走り回ったのか···


「だからね?冬子ちゃん、その白愛ちゃんならここにいるから···」

「え!?嘘!あぁほんとだー良かったー!」


そう言って小鳥遊さんの方を見ると先生は安心したのか廊下にペタリと座り込む。


「あれ?てかなんで秋山くんもここにいるの?あ!てか秋山くん実行委員なんだからいてくれないと話進まないよ?」

「なんか扱い違くね?」

「そんなことより君たち何してるの?5限目は始まってるよ?」


今更かよ!ってか、そんなことって···


「予算の書類が間に合わなくてね、2人に手伝って貰ってたんだよ」

「もぅ、それならそうと連絡してくれたらいいじゃない···

とにかく白愛ちゃん、戻ろ?」

「あ、え?はい」


いきなり話を振られたからか彼女は驚く、いや前も思ったけど自分の事だったんだから····


「あぁ、冬子ちゃん、律はもうちょっと借りるから···」

「ん?そう、頑張ってね」


え、なにそれ軽!?いやまぁいいけどさぁ!?

この人先生だよね!?

そして、青山先生と小鳥遊さんはそのまま戻っていく。


「それじゃあ律は先に職員室に行っててくれ、私達も少し片付けたらそっちに行くから···」

「りょーかいー」


▢◇▢◇▢


「会長、聞いていいですか?」

「何を、と聞く工程はいらないかな?」

「さっきの青山先生の態度、絶対に普通じゃあないですよね?小鳥遊さんに何があるって言うんですか?」


さっきの青山先生の態度は明らかに異常と分かるものだ。

それに、どうやら会長も彼女のことを気にしていた様子だった。

私からすれば竹下くんを振った生意気な後輩····


「ねぇ、結愛はさ。身長が低いからって理由で殺されたらどう思う?」

「なんですか?それ、私をからかっているんですか?」

「いいから、答えて?」

「そんなの、嫌に決まってるじゃないですか」

「そりゃそうだよね」


そんなの誰でも嫌と答えるだろう。

むしろ良いなんて答えるヤツは頭がおかしい。


「でもね、世界では同じようなことが起きてるんだ

他の人よりすこし色素が少なく生まれたという理由だけで殺され、身体を切断されては闇市で売られたり、中にはアルビノと性行為をしたら性病が治るとも言われて襲われたりするんだ。

ただ少し、皆と違うだけでだ。

結愛だって他の人より少し背が低いだろ?そういった理由だけで自分の尊厳が奪われる···まったく、」


そう言って会長は一息置くと、普段の凛々しくてだらしない稲葉先輩とは似ても似つかない声と表情をする。


「人が人と違って何がおかしい?」


その顔は私には恐ろしくさえ感じてしまい尻もちを着いてしまう。


「少し話しすぎたな···これ以上は結愛が来年の生徒会長になったら話すかな」


そう言って、私を安心させるためだろう。

稲葉先輩はいつもの会長のような顔に戻る。

しかし、それでも。

1年近く、会長と副会長としての関係を築いてきた私だからこそ分かった。

会長はどこにも行き場のない怒りを心の中で必死に噛み殺している···

道を歩けばきっと人は彼女について行きたくなる。

私もその中の1人だ。

だが、彼女は自分の後ろについてきたものを振り返ることはないんだろう。

だって彼女は常に自分の後ろについてこれない人に手を伸ばし救っているから···

彼女は前だけを見ている。

そんな彼女だからこそ届かないと思う壁があるのだろう。


「さて、行こうか。律にだけ仕事させる訳にも行かないからな」


▢◇▢◇▢


「どうだ?律、プリントはして貰えたか?」

「今ちょうど終わったところです」

「そうかありがとう」


そう言って凛は俺の持っていた紙を3分の2ほど取ると木下先輩に半分に分けて渡す。

だが俺は木下先輩がどこか気落ちしているように感じてならなかった。


「じゃあ律が1年生を結愛が2年で私が3年だ。各クラスに配り終わったら授業に戻ってくれていい。

ご苦労だったな、ありがとう、2人とも」

「いえ、私は副会長なのでこれくらいは···」

「それでもだ。ありがとうな、律も助かったよ。良かったら生徒会にまた入らないか?」

「断固拒否します」

「ふふっ、そうか。じゃあ、今日のところは解散!律は小鳥遊さんにもう一度礼を言っておいてくれ」

「了解、」


さて、行きますか。

そして俺は4組を飛ばした1年の各クラスにプリントを分けて渡すと自分のクラスに戻って行った。


「それで?小鳥遊さん、どこまで進んだ?」

「一応、みんながやりたいのを募集はしました」


そう言われて黒板を見てみると1位がお化け屋敷で2位が演劇となっていた。

俺がやりたかった屋台は3位だ。

しかも票が3票しか入っていない···

まぁ、みんなが言うのであれば仕方ないか


「じゃあとりあえずこのプリントを回してもらっていいか?」


そう言い、先程作った予算の紙を後ろに回してもらう。


「あれ?なんか紙暖かいな」

「今作ったばっかだからな」

「だから居なかったのか?」

「そうだよ」

「さすが律パシられ上手」

「嬉しくねぇわ!」


そして俺は小鳥遊さんにもプリントを回し一通り読む、とは言っても少し例年と違うだけだしそんなの俺たち1年からすれば知ったことではない。

強いて言えるなら他の学校より予算が圧倒的に多いということぐらいか···


「まぁ、お化け屋敷ってことでいいか?」

「異議なしー」


敦也以外も大半が頷いているし大丈夫だろう。

しかし、お化け屋敷となると演劇とまでは行かなくても準備には色々と時間がかかるだろう。

仕掛けや、どんなお化けを登場させるかは来週までに決めとかないとな。

幸い3週間前である今週は午後の5時間目がロングホームルームになっているので時間はまだまだある。


「じゃあ、明日までにどんな仕掛けをしたいかとかどんなお化けを登場させるかとか、考えといてくれ」


これにもクラスの大半が頷く。

しかし、俺には懸念があった。

それはこのクラスにいるギャルのような奴らが一切盛り上がっていないことだ。

なにか不満があるのかいつもの騒がしさが無さすぎた。

そして俺は確信にも似た何かを感じていた。

はぁ、これはどこかで揉めるだろうな···

そんな不安を抱えたまま今日の授業の終わりを告げるチャイムが響く。

俺の席に座って成り行きを見守っていた青山先生はチャイムがなってすぐに帰りのホームルームを始める。

そして挨拶が終わると俺は教室を出るが下駄箱へは向かわない。


▢◇▢◇▢


やはり3年生の教室の前は少し緊張してしまう。

だが、それよりも聞きたいことがある。

そして、ノックもせずに扉を開くとホームルームが終わって帰り支度をしていた3年生達が俺の方を見る。


「凛!少しいいか?」


窓際で他の人たち同様に帰り支度していた凛はゆっくり立ち上がり近づいてくる。


「律····先輩をつけろと言ってるだろ?」

「小鳥遊さんのこと、何か知ってるのか?」


俺は凛の小言を無視して遠回りにすることも無くストレートに聞く。

凛は何かを知っていた。

俺にとって小鳥遊さんはただのクラスメイトでただのお隣さんだが、あの時の青山先生の表情をみて知らんぷりはできない。

すると、凛は俺が聞きに来ることが分かっていたかのように落ち着いたまま言う。


「少し場所を変えようか」

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