【7話】警戒
言葉が詰まって数秒の間固まっていた瑠樺だが、青年の放った言葉の意味を理解すると縛られた体の動く範囲で身を乗り出した。
「は、犯人を知っているんですか?! 私の家族を殺した、犯人を!」
「知ってるよ。まぁ、まだ不明な点ばかりだけどね」
瑠樺の様子を見た青年は、口から息を吐いて瑠樺の額に向けていた銃口を下ろす。
恐らく、瑠樺の反応は青年にとって望んでいたものだったのだろう。
「お願いします、犯人を教えてください――!」
「……じゃあ、一度俺のアジトまで来てもらおうか」
銃口を下ろされた事によって僅かな安堵を覚えると、瑠樺は縄が体に食い込むことも気にせずに叫びに近い声をあげる。
――長話になるだろうし。
青年はそう付け加えて話すと、ジャケットからもう片方のハンドガンを取り出すと二つのハンドガンを地面に置いた。
そして、ジャケットの裏からバタフライナイフを取り出すと刃を出して瑠樺に近づく。
「あの、その前にひとつ聞かせてください」
青年が縄を切って解こうとした時、瑠樺が口を開いたことによって青年は動きを止めてこちらの様子を伺う。
瑠樺は青年の黄金色の瞳の奥を覗き込むように、鋭い真剣な眼差しを青年へ向けた。
「あなたは、私の敵ですか? それとも、味方ですか――?」
それは、純粋な瑠樺の問いかけ。
青年の様子は、まるで瑠樺を助けてくれるようにも捉えられた。
けれど、その際に決して少なくない数の人間を殺したのだ。
青年の言う事を素直に信じる訳にもいかず、瑠樺は強い警戒心を見せる。
瑠樺の言葉を聞いた青年は、一瞬だけ瑠樺から視線を外す。
そして再び瑠樺に視線を合わせると、縄を切り解いた。
「少なくとも、今は君の敵ではないよ」
青年はそう言って瑠樺に自分の着ていたジャケットをそっと被せる。
その言葉を聞いた瑠樺は少しだけ目を見開くと、瑠樺は張り詰めていた緊張の糸が解けたのかその場でふらりと倒れた。
「えっ……ちょ、おい!?」
倒れる瑠樺を咄嗟に受け止める青年。
疲労が溜まっていたのだろう。目に隈を作っていた瑠樺は、青年の腕の中ですやすやと寝息を立てて眠っていた。
* * * * * * *
――ぱちっ。
心地よい感触に包まれながら、瑠樺は目を覚ます。
――あれ、ここどこ?
倉庫とは違う見慣れない天井に驚いた瑠樺は、跳ねるような勢いで上半身を起こした。
「お、やっと目が覚めたのか。良かった、二日も寝ていたんだぞ」
瑠樺は思いもしないその声に驚き、声のした方向へ視線を移す。
そこにいたのは、倉庫に誘拐された自分を助けてくれた黒いジャケットの青年だった。
青年は部屋の真ん中にある机で作業をしていたようで、瑠樺と視線が合うと同時にノートパソコンをそっと閉じる。
瑠樺は色々と聞きたいことがあったがそれよりも先に気になって仕方がなかったのは――ここが男の人の部屋ということだった。
その時、視界に入ったのは自分の服。
倉庫にいた時、確かにセーラー服を引き裂かれた。だが、今はしっかりと灰色のパーカーを着ている。
数秒の間考えたが、思い浮かんだのは服を着せられたという事。
男と女がひとつの部屋にいて、自分はベッドの上で寝ている。
服を着せられたという事は、つまり――
「きゃああああ!」
見知らぬ部屋ということもありただでさえ動揺していた瑠樺は、悲鳴と共に手元にあった枕を青年に投げつける。
次の瞬間――ばふっ。という効果音と共に枕は無事青年の顔へ直撃した。
「いってぇ! 何するんだ急に!」
あまりに咄嗟な出来事に声をあげる青年。
青年は少し驚いた様子で立ち上がると、瑠樺の方へ歩み寄る。
「み、見ましたよね?! 絶対見ましたよね?!」
「は?! 何をだよ!」
そんな青年に警戒してベッドの隅に逃げてうずくまる瑠樺。
青年は瑠樺の発言に対し、思わず問い返した。
「いや、だって……服が着せられてるから……」
語尾になればなるほど声量が小さくなる瑠樺。
そう言い終えると同時に、瑠樺はほんのりと頬を赤らめる。
「なっ、俺は子供に興味ねーよ!」
「失礼な! 私は子供じゃないです、もう十八歳なんです!」
「いや、俺から見たら十八歳とかまだ子供だし」
そこまで言うと、青年はわざとらしく咳払いをした。
そして少しの間を開けて口を開く。
「流石に下着姿のままじゃ困るから俺の服着せたんだよ。でも、後は本当に何もしてないからな」
「……そうだったんですね。って、やっぱり意識してるじゃないですか?!」
「いやその流れはおかしいだろ! だから子供には興味ないんだって!」
「そんなこと言われたって信用できないんです!」
まるできゃんきゃん吠える子犬のような瑠樺。
瑠樺は頬を赤らめたまま青年を睨みつけ、睨まれたままの青年は難しい顔をする。
そうして二人が見つめ合っていた時、ぎゅるるる。と瑠樺のお腹が音を立てた。
「っっ……!?」
二日も寝ていたのだ。流石にお腹が空いていたらしく、瑠樺はリンゴのように顔を真っ赤に染め上げる。
そんな瑠樺を見た青年は、溜息を吐くと何か思い出したように立ち上がった。
「少し待ってろ」
そう言い残して青年は一人キッチンへと向かう。
部屋に残された瑠樺は一人身を縮こませる。
その時、パーカーから漂う僅かな香りに少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。
――そういや、あの人は私をここまでわざわざ運んでくれたのかな。
瑠樺の記憶は、倉庫で助けられてから立ち上がった所で途切れている。
ということは、誰かがここまで運んでくれたという事だ。
だが、見ている限り先程の青年以外に人は見当たらない。
瑠樺は先程の青年に対する態度を反省する。
お礼、言わなきゃな。なんて思いながらパーカーの裾を握る瑠樺。
ほんわかと漂う青年の甘い香りに、瑠樺は表情を緩めた。
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