ヒカリノート
黒川 月
プロローグ
延々と続く暗闇の中を、僕はどれくらい歩いたのだろうか。
生い茂る木々は空を隠し、僅かな月明かりが僕の鼻先を照らしている。
僕は寝間着代わりに来ていたジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、画面を開く。そこから発する人工的な光はとても眩しくて、少し涙が出てきた。僕は現在の時刻を確認した。
以下、思考
--ここはどこ
森の中。とても暗く、足元がほとんど見えない--
--なぜここにきたのか
わからない。気がついたら森の中だった--
--どうするべきか
夜明けを待ちつつ、この森から抜け出す方法を探る--
現在の時刻はAM6:34:50
目覚めて最初に確認した時刻から30分ほどしか経過していない。時間が長く感じたのはやはり不安からだろうか。それとも単に僕の体力がないからそう感じてしまっただけだろうか。
「もうすぐ夜が明ける、ここで休憩しておこう」
なかば自分に命令でもするかのように、僕は独り言をつぶやきながら、近くの木にもたれかかり座り込んだ。別に歩くことに疲れたわけではないが、これ以上闇雲に歩き回ったとて無駄なことだろう。無駄なことはしたくない。
ふと空を見上げた。
空は相変わらず暗闇で、木々の枝葉がジグザグと絡まり月明かりだけが僅かに零れている。
こんな抽象画を見たことがある。
絵の具をキャンパスに向かって勢いよく飛ばしたような絵だった。
あれはもっとカラフルだったな。
今見えるのは、黒 紺 灰色 あとは青?
お世辞にも芸術とは程遠い、寂しい景色だ。
お腹が空いてきた。
今日はパンを食べようと思っていた。
昨日の夜、コンビニで買っておいたハムとチーズが挟まっているパンだ。
夢なら早く覚めてくれないかな。
貴重な土曜日が。
時計は現在AM7:02:31を刻んでいる。陽の光は未だ見えない。目の前の抽象画は僕の凡庸さをあざ笑うようにこちらを見つめ続けていた。
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