どうでもいい

 僕は卓球部が練習している体育館を後にする。

 次は水泳部だ。

 赤松さんと、悠斗と六角君に教えてもらった山名さんにホワイトデーのクッキーを渡しに水泳部の部室に行く。

 水泳部の部室は、プールの隣に立っている小さい建物にある。

 そして、体育館とプールはすぐ近く。1分もかからずに到着できる。


 途中、ふと考える。

 雑司が谷高校のプールは野外で、室内温水プールなんて豪華なものはない。

 今は3月でまだ寒い。野外のプールなんて寒中水泳になってしまう。

 なので、さすがに今日は泳いでないだろうな。

 しかし、水泳部ってプールが使えない間は、どういう活動をしているのだろう。

 活動してないのかも? と考えながらさらに進む。


 水泳部の部室は更衣室も兼ねているので、当然、男子水泳部と女子水泳部の部室は別となっている。

 ともかく、女子水泳部の部室の前に到着した。

 ラノベやマンガなら、ここで扉を開けたら女子たちが着替え中で、ラッキースケベ…、という展開なのだが。

 しかし、中に人がいるような気配はない。

 念のため、扉をノックをする。

 やはり返事はない。


 今日は活動をしていないのか…。

 諦めて、帰宅することにした。

 部室前を去る。


 そのまま校庭の横を通り抜けようとすると、サッカー部の部員たちが大勢たむろしていた。

 休憩中かな?

 悠斗がいたので、声を掛ける。

「やあ、悠斗」


「ああ、純也か? こんなところで、どうしたんだい?」


「今、水泳部の部室に行ったけど誰も居なかったんだ」


「え? 水泳部なら、校庭で練習してるよ」


「校庭? 練習? 水泳部が?」


「そうだよ。水泳部は冬の間は、ほとんど基礎練ばかりしているみたいだよ」


「そうなのか…」


「ほら。あそこにいるのが女子水泳部だな」

 悠斗は校庭の反対側を指さした。

 見ると、10名ほどの女子が走り込みをしているようだった。

 よく見ると、赤松さんもいる。水泳部なのは間違いなさそうだ。


「そうか…。ありがとう」

 僕は礼を言った。


「頑張れよ」

 悠斗はそう言って、僕を見送ってくれた。


 校庭をぐるりと大回りして、水泳部が練習をしているところにやって来た。

 水泳部の女子たちはすぐに僕に気が付いたようだ。

 走り込みを止めて、僕を指さしたりしてザワザワしている。

 なんか緊張する…。

 さらに赤松さんとは、告白を断るというイベントがあったからな。若干気まずい。

 それでも、勇気を振り絞って赤松さんに声を掛けた。

「練習中にゴメン。赤松さん、ちょっと良いかな?」


 赤松さんも緊張した様子で近づいてきた。

 やっぱりすごく可愛いな…。


 赤松さんの後ろから、小柄なポニーテールの女子が1人ついてきた。

 その女子が赤松さんよりも早く僕の側にやってきて、テンション高く話しかけて来た。

「武田氏! なんで来たの?」


 誰?


 僕は困惑しながら答える

「あ、いや、赤松さんに用があって」


「何の用?」


「1日早いけど、ホワイトデーのクッキーを…」


「じゃあ、私にもくれるの?」


「え? ということは…、山名さん?」


「そうだよ!」


 そうなのか。

 山名さんは、廊下かどこかで見たことあるような気がするが、話すのは初めてだな。

 丁度良い。僕はクッキーの入った袋を手渡した。

 山名さんは袋を受け取ると僕の腕をバシッと叩いた。


 痛いな。


「いやー。バレンタインのお返しをもらえるとは思っても見なかったよー! ありがとう!!」

 彼女はテンション高いまま礼を言ってくれた。


 赤松さんはその隣でおとなしくしている。

 僕は、赤松さんにもクッキーを渡した。


「あ、ありがとう…」

 赤松さんはちょっと顔を赤らめながら礼を言ってくれた。


「山名さん」

 僕は改めて山名さんのほうを向いた。

「どうして、バレンタインデーのチョコくれたの? 義理だよね?」


「うんうん!! 義理義理!!」


「で、なんで?」


「いやー。なんかマコっちゃんが告白するって言ってたからさー! 私も武田氏がどういうヤツか知りたくて、試しに下駄箱にチョコを入れてみたんだよねー!」


 “マコっちゃん”? 赤松さんのことか?


 それに義理チョコって、試しに送る物なのか?

「それで…、なんで僕のことを知りたいと?」


「マコっちゃんは親友だから。武田氏が変な男だったら止めないといけないからさー。なんか最近は評判良いけど、1学期のころはエロマンガを持ち込んだりしてたでしょ?」


「あれは、謀略に巻き込まれただけで」


「そうなんだー、そんなのどうでもいいけどね。それに、結局、武田氏はマコっちゃん振ったってことだから、もうどうでもいいけどね!」


 『どうでもいい』って、2回言ったな…。

 山名さん、よくわからない人だ。


 まあ、用は済んだから、撤収することにする。

「じゃあ、練習頑張って」

 僕はそう言ってその場を後にした。


「また来てねー!」

 山名さんは僕の背中にそう言ってきた。


 もう行かないと思うけど…。


 山名さん、なんで、あんなにテンション高いんだろう。

 雪乃もテンション高めだけどな


 そして、赤松さんと山名さんは対照的だな…。


 とりあえず、今日のクッキー配りは終了したので、帰宅することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る