統計学と中国語の研究
放課後。
1日早いが、ホワイトデーのクッキーを何人かに渡しに回ることにしている。
クッキーの包みが何個か入った紙袋を手に、校内を移動する。
まずは、新聞部の小梁川さんだ。
昨日、新聞部の部室には行ったばかりだが、まあ、良いだろう。
僕は新聞部の部室に到着すると、扉をノックして開ける。
すると、中には部長の片倉先輩と部員が2名いるだけだった。
他の部員は、取材に出ているのだろうか。
片倉先輩は僕が部室に入って来たのに気が付くと、声を掛けて来た。
「やあ、武田君、また来たのかい?」
「え、ええ。あの…、小梁川さんは?」
「ああ、彼女は今日、科学部の集まりがあって、理科室だよ」
「理科室?」
理科室は、歴史研究部が部室として使っている理科準備室の隣だ。
僕は片倉先輩に礼を言って新聞部を後にした。
そして、理科室に向かう。
普段は、科学部が活動をしている気配が全くしていないのにな。
といっても最近は僕が部室に行ってないので、知らないだけかもしれないけど。
科学部は、先日は屋上で天体観測をしていたし、不意に思い出したが去年の学園祭ではラムネ菓子を手作りしていたようだ。
理科室に到着すると、扉をノックして開けた。
中では、先日、屋上で見たメンバー数名がそろっていて、ワイワイ言いながら黒板に色々と何かの数式を書いている。
小梁川さんは僕に気が付くとちょっと驚いた様子で、話しかけて来た。
「あれ? 武田君、なにか用? 歴史研は隣でしょ?」
「いや、小梁川さんに用があるんだよ。ごめん、ちょっとだけ時間良いかな?」
僕は、そう言って小梁川さんに廊下に出る様に促した。
「なに?」
廊下に出ると小梁川さんは尋ねた。
「これ」
僕はクッキーの入った包みを渡す。
「1日早いけど、ホワイトデーの…。大したもんじゃあないけど」
小梁川さんは袋を受け取る。
「悪いわね。別に良かったのに」
「そういう訳にもいかないでしょ?」
小梁川さんは微笑んで礼を言った。
「でも、ありがとう」
僕は質問をする。
「でも、なんで義理チョコをくれたの?」
「義理チョコに理由なんかいるのかしら?」
「別になくても良いけど…」
「まあ、あえて言うなら、今後も仲良くしておきたいからね。武田君はネタを沢山提供してくれるから」
「ネタを提供しているつもりはないんだけど…」
僕は話題を変える。
「ところで、科学部って活動しているんだね。先日の天体観測と言い、全然知らなかったよ」
「まあ、理科室に集まることはあまりないし、野外活動も多いから」
「今日は何してるの?」
「数学オリンピックの過去の問題を解いたりしてるのよ」
「え? それ、面白いの?」
「面白いわよ。武田君もやってみる?」
「いや、遠慮しておく」
面白いというのは、僕には理解できん。
数学をやるのは、授業ぐらいで十分だ。
「でも、科学部って数学もやるんだね」
「そうね、数学が好きな人もいるし。それに科学部はずいぶん前に数学部も吸収合併したみたい。事実上の廃部だったらしいけど」
「それは、やっぱり少子化で?」
「いえ。聞いた話だと数学をやらずに、統計学と中国語の研究ばかりやってたみたい」
「統計学と中国語の研究? 統計学は数学じゃあないの? それに中国語? どういうこと?」
「統計学と中国語の研究ってのは “麻雀” のことよ」
「ああ…」
学校で麻雀ばかりやってたら廃部にさせられそうだよな。
僕らは会話は短めにして別れた。
隣の理科準備室では、伊達先輩、上杉先輩、毛利さんがいるかもしれないが、面倒なので、立ち寄らずに次の目的地へ向かう。
次は、卓球部の活動している体育館だ。
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