後継者指名

 翌日の放課後。

 帰宅しようと思って席を立つと、雪乃がテンション高めで話しかけて来た。


「純也! 今日、これから時間ある?!」


「えっ? あるけど…」


「じゃあ、久しぶりにお茶でもしない?」


「えっ!? 雪乃、撮影は?」


「連休に、もう終わったのよ。次は、純也が出る作品の撮影だよ。その話もしたいと思って」


「まあ、僕は暇だからいいけど」


「じゃあ、行こう」


 雪乃は僕の腕を組んで、引っ張っていく。

 僕は毛利さんに挨拶をして、雪乃と一緒に教室を出た。


「どこ行くの?」

 僕は尋ねた。


「どこにしようか…? 行きたいところある?」


 無いな。

「雪乃の行きたいところに合わせるよ」

 僕は答えた。


「じゃあ、サンシャインシティにでもいく?」


「いいよ」

 まあ、サンシャインシティは真帆と毎週、行ってるけどな。


 学校を後にして、サンシャインシティまで。

 そこの2階のカフェに入った。ここへは何度か来たことがある。

 僕と雪乃はカウンターでカフェオレを購入して席についた。

 いつもの座席で、通路に面していて通行人が良く見える場所。


「純也、週末は名古屋だったんでしょ?」


「良く知ってるね」


「だって、歩美と真帆から聞いたから」


 雪乃は毛利さんとは以前からLINEでよく連絡を取っているようだし、真帆は以前、僕が引き合わせたので、それ以来情報交換しているようだ…。

 というか、僕の監視が3人体制になったな。


「いいなー。また近いうちにお城巡りに行くんでしょ?」


「うん。次は多分春休みかな」


「私も行こうかなー」


「まあ、いいんじゃない。大阪にも一緒に行ったことがあるし」


「だよね。今度はどこに行くの?」


「伊達先輩からは、全然聞いていないな」


「そっか。聞いといてよ」


「OK。聞いておくよ」


 まだ、行っていないお城は57あるからな。

 北海道、北東北、北陸、四国、中国、九州のお城は全然いっていない。

 他にも関西あたりにもまだ、行ってないお城があったような…。

 併せて伊達先輩に聞いてみるか。


「ところで」

 僕は話題を変えた。

「ショートムービーだけど、3つも撮影して何に使うの?」


「言ってなかったけ?」


「聞いてないと思う」


「これまでに撮った2つは、来年の新入生募集のオリエンテーションの時に流すんだよ。演劇部用と映画研究部用の1つずつ」


「へー」


「これからとる1つは、映画コンテストに提出するんだよ」


「えっ?! 映画コンテスト?! 外部の?!」


「そうそう」


「そんな、大事な作品に出てもいいの? 今更だけど」


「いいんだって。みんなOKしてるんだから」


「そうか」

 ということは、どこかの知らない審査員に僕のヘタな演技を見られるのか。


 雪乃はカフェオレを2、3口飲んでから笑いかけて来た。

「来週末から撮影始めるからね。また、今週中にでも一緒に練習しとこうよ」


「いいよ」


 ということは、練習にかこつけて雪乃とキスを沢山することになるんだな。

 まあ、楽しんでやるとしようか。


 うん?

 ということは、キスシーンもどこかの知らない審査員に見られるという事なのか…。

 まあ、いいや。気にしないようにしよう。


 その後もしばらく世間話をしながらカフェオレを飲んでいると、知った声で名前を呼ばれた。


「あら、武田君じゃない?」


 声の方を振り向くと。そこには、神秘的な雰囲気の松前先輩が、彼女の恋人の蠣崎先輩と一緒に立っていた。


「あ、こんにちは」


「ちょっと、久しぶりね」


「そ、そうですね」


「織田さんも、こんにちは」


「こんにちは」


 雪乃は生徒会の役員でもあるので、同じく役員の松前先輩とも知った仲だ。


「デート?」

 松前先輩が尋ねた。


 僕が“違います”と言おうとする前に、

「そうですよ」

 と雪乃が返事をした。


「武田君、相変わらずモテモテね」

 松前先輩は笑いながら言う。


「別にそんなことないですよ」


「雑司が谷高校屈指のモテ男だもんね」


 その呼び方も、やめてくれないかな。

“エロマンガ伯爵”よりかは、マシだが…。


「そう言えば」

 松前先輩は話題を変えた。

「織田さん、来年の生徒会選挙に出るんでしょ」


「もちろん出ます!」


 そうなのだ、雪乃が演劇部の忙しい中、わざわざ生徒会役員に入ったのは、来年の生徒会選挙で、人気の高い現生徒会長=伊達先輩の後継者指名を受けるのが最大の目的。

 雪乃の生徒会の中での人間関係は良好そうだから、それは問題なく指名を受けることができそうだ。


 そういえば、かなり前だが、雪乃が僕に応援演説をやってほしいとか言ってたな。やっぱり、やらせようとするんだろうか?

 できれば、お断りしたいが。


 松前先輩と蠣崎先輩もカフェのコーヒーを買ってきて、僕らの隣の席に並んで座わり、しばらくの間生徒会長選挙の話などをして時間を過ごした。

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