タイル

 僕、片倉先輩、小梁川さん、毛利さん、成田さんは中庭までやってきた。

 風が冷たい。寒いので、さっさと終わらせたと思う。


 さて、中庭は校舎を挟むように長方形の形をしている。

 そこには、僕も利用したことがあるベンチが所々にある。

 そして、足元を見ると1辺30cmほどの正方形の石のタイルが敷き詰められている。

 タイルの色は濃さの違う茶色が数種類。色の濃さは法則性なく敷かれている。


「手紙には“中庭のタイル、一番端から”とありましたね…」

 僕は誰に聞かせるとなく、つぶやいた。


「ちょっと見てみようか」

 片倉先輩はそう言って、彼の足元にある中庭の端の一番近いタイルを見下ろした。

 片倉先輩はしゃがみこんでみるも、特に変哲は無い様だ。

 タイルを剥がそうとする。

「コンクリートで固定されている。ま、当然か」

 片倉先輩はそう言うと、諦めて立ち上がった。

 そこから手分けして、外周のタイルを5人で手分けして順番に調べてみる。

 数は多かったが5人いたので、30分程度で調べるのは完了した。

 幾つか、コンクリートが劣化で弱くなって、タイルが剥がせるところがあったがその下は土で何もなかった。


「何もなかったね」

 片倉先輩は残念そうにため息をついた。


「あの…」

 成田さんが片倉先輩に話しかける。

「桂馬がヒントにならないでしょうか?」


「と言うと?」


「このタイルを将棋盤と見立てるんです」


 なるほど、さすが成田さん。視点がなんでも将棋だ。


「ほほう。それで?」

 片倉先輩は尋ねた。


「将棋盤は9×9。なので…」

 成田さんは、中庭の端まで歩いて見せる。

「一番角からの81マスを将棋盤と見立てて、桂馬の最初の位置はここの4つ。2一、8一、2九、8九の4か所」


「なるほどね2九、8九にあたるタイルはさっき調べたから、2一、8一にあたるタイルを調べてみようか…」


 片倉先輩はしゃがんでタイルを調べる。

 どうやら、8一のタイルがコンクリートの劣化で、はがれそうだ。

 片倉先輩はタイルを裏返した。


「あっ!」

 僕らは声を上げた。

 石タイルの下に透明なビニール袋に包まれた封筒のようなものがあった。

 片倉先輩はそれを取り上げて、封筒を取り出した。


「あったね」

 片倉先輩は嬉しそうに笑う。

「部室に戻って確認してみようか」

 

 剥がした石タイルを元に戻して、僕らは再び新聞部の部室に戻って椅子に座った。

 早速、片倉先輩は、はさみで封筒を開けて中の手紙を机の上に置いた。


 その手紙には…


 ◇◇◇


 良く解明した。

 しかし、私が誰か当てるまでゲームは終わらない。

 次は、ホワイトデー。

 お楽しみに。

                 “P”

 ◇◇◇


「犯行予告だね。ホワイトデーに何かやらかすらしい」

 片倉先輩は言う。なんかちょっと嬉しそうだ。


「ホワイトデーにまた誰かの下駄箱に手紙を入れるということでしょうか?」

 成田さんは尋ねた。


「どうだろう。ホワイトデーにチョコのお返しを下駄箱に入れるというのは、あまりなさそうだから、人にまぎれてってことにはならない。なので、別の方法かもしれないな…。でもまあ、念のため当日は下駄箱を新聞部で張り込んでおくよ」


「張り込みですか?」

 僕はちょっと驚いて尋ねた。


「ああ、部員を動員するよ」

 片倉先輩は笑って言った。


 新聞部が謎の解明に乗り気なのは助かるな。


 推理の話が一段落して、唐突に片倉先輩が尋ねて来た。

「そう言えば、武田君。バレンタインデーのチョコはどうだった?」


「えっ?! “どう”、と言いますと?」


「何個もらえたのかなと思ってね」


「え? えーと、12個です」


「へー。やるなあ」

 片倉先輩はちょっとニヤついて見せた。

「まあ、それは新聞部でキミの良い評判を流しているからね」


「えっ?! 何でですか?」


「伊達さんから、依頼があったからだよ」


「ええっ?!」

 驚いた。

「な、なんで伊達先輩がそんな事を?!」


「なんでも、君が副会長に就任する時に【僕の昔の悪い噂を撤回させるよう尽力しろ】って言ったらしいじゃん? だから、君のいい話をある事ない事流しているよ」


「あっ!」

 思わず声が出た。

 そうだった。

 僕が副会長に就任するにあったって交換条件を出したのだった。

 すっかり忘れていたよ。

 確か4つ条件を出して、その内の1つが【僕の昔の悪い噂を撤回させるよう尽力しろ】だ。

“悪い噂”=“エロマンガ伯爵”というのを流されて、いい迷惑をしたからな。


 そして、ある事ない事って…。ない事はダメでしょ?


「そう言えば…」

 僕は小梁川さんに向き直った。

「チョコありがとう」


「ああ、あれは、義理チョコだからね」

 小梁川さんは笑って答えた。


「う、うん」

 まあ、義理だろうと思ったけど。


 小梁川さんは続ける。

「武田君とは、仲良くやっておきたいからね。いつも面白いネタを供給してくれるから」


 面白いネタを供給しているつもりはないんだけどな。


 その後、少しだけ話をして、今日のところは僕と毛利さん、成田さんは新聞部の部室を後にした。

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