顔合わせ

 水曜日の放課後。


「じゃあ行こう」

 雪乃は僕の席までやって来て言った。

 今日は、雪乃と真帆を引き合わせるという約束をしているのだ。


 僕と雪乃が2人で立ち去ろうとしているので、隣の席の毛利さんは不思議そうに尋ねた。

「2人でどこか行くの?」


 雪乃が答える。

「うん。純也がプロデュースしてるアイドルに会いに行くの」


「あれはプロデュースというより、ただの手伝いだけどね」

 僕は付け加えた。

 でも、毛利さんはちょっと不満そうにしている。


「じゃあね」

 雪乃は構わずに毛利さんに挨拶をして、僕の腕を引っ張って教室を出た。


 学校から雪乃と一緒にサンシャインシティに向かう。

 真帆との待ち合わせ場所はマックにしてあった。


 学校からの道中、雪乃は僕の腕を組んで歩いている。

 腕組みを拒否する理由もないので、そのままにしてあるが、側から見たら、完全に恋人同士だよなこれ。

 以前、新聞部のXで僕らが付き合い始めたと拡散されたが、別れたことは特に流されなかったようだから、僕らがまだ付き合っていると勘違いしている人も多そうだ。

 まあ、いいけど…。


 そんなこんなで、マックに到着。僕と雪乃は、120円ジュースをそれぞれ購入して、並んでテーブル席につく。

 真帆はまだ来ていないようだったが、数分ほどで彼女もドリンクを持ってやってきた。そして、僕らの前に座る。


「こんにちは、初めまして…、じゃなくて、前に会いましたよね」

 真帆は笑顔で挨拶した。


「こんにちは。そうね、前に会ったのは、12月だったかしら」

 雪乃も笑顔で挨拶をする。

 2人は、12月、僕と真帆が合コン帰りに一緒にいたところ、雪乃と会っている。


 早速、真帆はYouTubeで見た演劇部の舞台の感想や、雪乃の演劇部での活動について質問するなど、話しかけている。

 雪乃は丁寧にそれに答えている。

 僕は、その会話を横から聞いているだけだが、終始、和やかな雰囲気で会話が弾んでいるようだ。

 よかった。


 途中、真帆が話題の内容を白雪姫の舞台に変えてきた。

「そういえば、白雪姫で純ちゃんとキスしてたね」


 その話題かよ…。


 雪乃が答える。

「あれのお陰で、舞台は大評判になったのよ」


「あくまで、あれは演技だから」

 僕は注釈を入れる。


「まあ、演技でなくても私たちはキスするけど」

 雪乃はニヤニヤしながら言う。


 おいおい、雪乃、何を言い出すんだ。


「えっ?! そうなの? 2人は付き合っているの?」

 真帆は疑問をぶつけてくる。


「どうなの?」

 雪乃は僕に尋ねてきた。


「え? いや…。付き合ってないでしょ…?」


「実はそうなのよ。私たち、付き合ってないのよ。前は付き合ってたけど、私がフラれたのよ」


「そうなの?! 純ちゃん、なんでフッたの? こんな素敵なカノジョなのに」


「え? いや、えーと…。まあ、理由なんか、いいじゃないか」

 理由は、"お試しで付き合っていた"、“好きじゃなかったから”、だが、わざわざ答える必要ないだろう。


「純也はね、スペックの高い女じゃないとダメみたいなのよ」

 雪乃は意地悪っぽくいう。


「スペックが高いとは?」

 真帆が尋ねた。


「勉強ができて、性格良くて、美人で、可愛くて、胸が大きいとか」

 雪乃は僕の方を向いて答える。


「そんなこと言ってないだろ」

 僕は即座に否定した。


 しかし、真帆は聞いていない。

「勉強ができて、性格良くて、美人で、可愛くて、胸が大きい…。私は全然ダメだな」

 ちょっと、落胆したように言う。


「ま、真帆はアイドルだから、可愛いんじゃない?」

 僕は、フォローを入れておく。


「でも、織田さんだと、どうなの?」

 真帆は質問をした。


 雪乃が答える。

「私は、性格良くて、美人で、可愛くて、までかな?」


 雪乃、自分で言うか?


「ええっ?! 織田さんの胸の大きさでもダメなの?」


「ダメみたい」


「織田さん、胸、いくつ?」


「Dだよ」


「私、Cで…。Dでもダメとは…。純ちゃん、おっぱい星人だね」


「おいおい、勝手に話を進めて、そんな結論づけるなよ」


 僕は火消しにかかるが、真帆は聞いていない。


「Eとか、F? もっと大きいのがいいの?」


「待て待て。僕は、胸の大きさで女子を判断しないぞ」


「身体の相性だよね」

 雪乃がまた、訳のわからないことを言う。


「そうか、2人は付き合っていたんだよね…」

 真帆は、納得したように呟いた。


「いやいやいやいや。僕らは何もしてないよ」

 雪乃、わざと言ってるだろ。まったく。

「それに、僕の好みがどうだろうと、真帆には関係ないでしょ?」


 その後は話題は元に戻り、演劇の話を雪乃と真帆で熱心にしている。

 真帆は、演劇の勉強もして、いつか、雪乃と一緒に共演したいと言っている。


 それは、そんな遠い未来にことではないのでは?

 なんせ、ど素人の僕を舞台に立たせたり、ショートムービーに出演させようとするんだから。真帆だったら楽勝だろう、知らんけど。


 そんなこんなで、演劇以外では真帆のアイドル活動の話などしたりしている。

 雪乃はアイドル活動に興味があるようだ。


 結局3時間ぐらい話をしていた。

 雪乃と真帆はLINEのIDを交換する。

 後は、2人で勝手にやってもらおう。

 僕らは、時間もかなり遅くなってきたので、解散することにした。

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