お城巡り&遠征

 日曜日は、VRゲームやったりして平穏に過ごした。

 ゲームでは、最初の街の近くに出没する弱モンスターを倒して、ちまちまと経験値を稼いでいる。


 そして、空けて月曜日。

 いつものように登校した。


 校舎に入り、上履きに履き替えるために、げた箱を開けると何やら封筒が。

 表には“武田純也様へ”。裏に差出人は書いていない。

 しかし、ハートのシールで封がされていた。


 ラブレターか?!


 いや、ダマされない。

 以前、上杉先輩が、僕を呼びつけるのにラブレターを装ったことがあったからだ。

 これは、きっと、この前と同じように上杉先輩が仕組んだことだ。

 僕が、1週間ばかりLINEを無視しているので、 “部室に来い” という指令が書いてあるのだと思う。


 しばらく、その封筒を眺めていると、

「おはよう」

 登校してきた毛利さんが声を掛けてきた。


「おはよう」


「どうしたの?」

 毛利さんは、僕が手にしている封筒を見て尋ねた。


「上杉先輩からの手紙だと思う」


「でも、それって、ラブレターだよね?」

 毛利さんは、ハートのシールの封を指差して言う。


「いや。偽物だよ。以前も同じよう事をされたからね」


 僕は、封を開けて中に入っていた手紙を読む。

 案の定、

『今日、部室まで来てよ。上杉紗夜』

 と書いてあった。


 僕は、それを毛利さんに見せる。

「ほらね」


「そう、よかった」


 よかったって…。

 毛利さんは、これ以上ライバルが増えるのは嫌だということかな?

 まあ、毛利さんと雪乃の僕が2人から好かれていること自体すでに奇跡みたいなもんだから、3人目が出てくる可能性なんてないだろう。


 そして、今回の上杉先輩の呼び出しを無視するの良くないと判断して、今日は部室に行こうと思った。


 授業がすべて終わり、放課後。

 僕と毛利さんは、一緒に校舎の4階、端の端、理科準備室へ向かう。

 僕は、今年初めて部室に行くことになるな。


 部室の扉を開けると、いつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。


「いらっしゃい」

「やっと来たね!」


「「こんにちは」」


 早速、上杉先輩が絡んできた。

「LINE、早く治してよ。それで、なんで部室に来なかったのよ?」


 妹からLINEの調子がおかしいとウソの言い訳が伝わっているはず。

 本当は普通に使えるんだけど。

 上杉、伊達両先輩のメッセージを読みたくなかっただけだ。


 しかし、ここで“上杉先輩に会いたくない”、という言うとまた面倒なことになりそうだからな…。

 適当にはぐらかす。

「ええと…、ちょっと、いろいろ予定が立て込んで」


「ふーん…」

 上杉先輩、なんか疑っている様子。


「まあ、よかったわ来てくれて」

 伊達先輩が話し始める。

「土曜日に家庭教師で武田君の家に行ったのだけど、留守だったから」


 伊達先輩は妹の家庭教師で家に来てたのか。

 僕は、O.M.G.のライブに行っていたので、すれ違いになったようだ。

「ちょっと出かけてたので…」


「そうだったのね。今月のお城巡りの話がしたかったから」


「お城巡りって、いつですか?」


「月末よ」


「月末は、ちょっと予定がありまして…」

 そうなのだ、アイドルユニット“O.M.G.”の遠征の手伝いで郡山に行くのだ。

 ということで、今回のお城巡りは、ついに不参加になりそうだ。

 ざまーみろ。


「なんの用事よ?」

 上杉先輩がしかめっ面で尋ねた。


 本当の事情を話すことはないだろう。ここは誤魔化す。

「ちょっと、旅行に…」


「旅行? 誰と?」


 アイドルユニット3人と、とは言わない方が良いかな。女子と旅行なんて言うと、なんか言われそうだし。

 やっぱり誤魔化す。

「え…、えーと、友達と一緒に」


「キミ、友達いないじゃん」

 上杉先輩が再び突っ込む。


「最近できたんですよ」


「女?」


「え? 違いますよ」


「女かあ…」

 上杉先輩がニヤつく。

「毛利ちゃん、武田君、女の友達と旅行だって」


「女じゃないって言ってるじゃないですか? それに、なぜ、わざわざ毛利さんに報告するんですか?」


「で、どこに行くの?」 


「郡山に1泊2日で…」


「あら」

 伊達先輩の表情が明るくなった。

「お城巡りも、そのあたりに行くのよ」


「ええっ!?」

 滅茶苦茶驚いた。

「ど、ど、どういうことですか?」


「福島県の、白河小峰城、二本松城、鶴ヶ城の3つを回るのよ。ちょうど、郡山に宿泊しようと思っていたの」


「ちょうどいいじゃん! その友達も一緒にお城巡りしようよ」

 上杉先輩が嬉しそうに叫んだ。


「えっ?! いや…、僕らはスケジュール的には難しいと思います」


「キミらは、どこに行くのよ?」


 市街地のライブハウスなのだが、やはり誤魔化す。

「ええと…、郡山市内を…、あちこちと…」


「だったら、時間に余裕あるでしょ? お城巡りも行けばいいじゃん?」

 上杉先輩が嬉しそうに提案してきた。


 伊達先輩が付け加える。

「そうね、3つのお城の位置は、それぞれ郡山を中心にしてる感じだから、そちらのスケジュールとも、うまくやりくりすれば、一緒に回れそうね」


「いやいやいやいや。ちょっと待ってください。無理ですよ」


「まあ、もし良かったら、一緒に回りましょう。お友達に相談してみて」

 伊達先輩は、無理強いをすることはせずに、この場は一旦収拾した。


 その後は、部室で他愛ない会話をして過ごし、下校時間になったので帰宅した。


 自室で部屋着に着替えてベッドに寝転がる。

 今日、歴史研で話のあった城巡りについて、真帆に一応報告をしてみるか。

 真帆たちは、お城巡りには興味ないだろうからな。一緒に行くとは言わないだろう。

 LINEアプリを立ち上げて、メッセージを送る。


『僕らが福島に行く日に、歴史研究部も城巡りで福島に行くみたいなんだ』


 真帆からすぐに返事が来た。

『福島のお城ってどこ?』


『白河小峰城、二本松城、鶴ヶ城だって』


 その後、しばらく返事がなかったので、ちょっとマンガでも読んで時間をつぶしている。

 そして、30分ぐらい経って真帆の返事が来た。


『みんなで相談したんだけど、私たちもお城巡りに行く!』


 はあ?!

 この予想外のメッセージに、僕はかなり驚いた。


『ライブはどうするんだよ?』


『だって、ライブは土曜日は夜で、日曜日は夕方でしょ?』

『昼間は時間に余裕があるから回れるよ』

『お城の場所調べたけど、郡山から行って戻って来てもリハには間に合うよ』


 マジか…。

 真帆、お城巡りに行く気満々になっているようだ。

 余計なメッセージを、しなければよかったかな…。


 続けてメッセージが来た。

『純ちゃん、明後日の水曜日、暇?』


『放課後だったら暇』


『じゃあ、今週土曜日もライブがあるから、その打ち合わせしようよ』


『いいよ』


『じゃあ、明後日、いつものマックでね』


『了解』


 LINEのやり取りを終え、自分でも福島のお城の鉄道最寄り駅を確認する。


 二本松城:郡山~二本松は、20分と少し。

 白河小峰城:郡山~白河は、35分ほど。

 鶴ヶ城:郡山~会津若松は、1時間15分ほど。


 郡山から全然余裕で行けるな。

 それにしても真帆たちが、お城巡りに行く気になるとは全くの想定外だった。

 一体どういうことになるのやら。

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