添い寝

 旅館で睡眠中。


 僕は体に重さを感じたので目を開けた。

 

 えっ! 右側で誰か僕に寄りかかって寝てる?!

 いつもの夢か?

 いや。部屋は真っ暗で、誰が寝てるか分からなかったが、これは夢じゃあないぞ!

 僕は、顔をそちらに向けた。

 

 ほのかに髪からの香りがする…、この香りは…

「ええっ!? 雪乃?!」

 僕は驚いて声を上げた。


「(しっ! みんな起きちゃうよ)」

 この声は雪乃で間違いなかった。彼女は小声で僕を制する。


 それに合わせる様に、僕も小声で返事をする。

「(ゴメン…、ってか、なんで僕の布団に入って来てるの?!)」


「(えっ? えーと…、夜這い?)」


「(いやいやいやいや、付き合ってもいないのに、イカンでしょ?)」


「(冗談、冗談。添い寝だけだから)」


「(いや、だから、なんで添い寝を?)」


「(付き合ってるときには、こういう事ほとんどできなかったじゃん? だから)

 」


 まあ、付き合っている間のほうが、あまりいちゃついたりしなかったからな。

 それは、雪乃が演劇部で忙しかったからだ。

 正式に(いや(仮)だっだか…)付き合う前の方が、キスとかしてたよな。

 しかし、理由はともかく、一緒に寝てるのが歴史研のメンバーにばれると、いろいろ面倒なことになりそうなので、雪乃の自分の布団に戻ってほしいのだが…。


「(そうだけど…、みんな居るし、まずいよ)」


「(みんなが居ないところだと、いいの?)」


「(えっ…? いや、もう付き合ってないんだから、それも良くないのでしょ?)」 


「(まあまあ…。折角、純也の目が覚めたんだったら、少し話そうよ)」


「(話って、何を?)」


「(最近、歩美とはどうなの?)」


「(え? いや。べ、別に何もないよ…)」


「(ふーん。2人、なんか旅行の間、全然話してないから)」


 昨日、上杉先輩にも指摘されたが、確かにクリスマスイブの一件以来、気まずくてほとんど話をしていない。

 しかし、イブのことを話すこともないだろうと思い誤魔化す。

「(本当に、何もないって)」


「(そうなの? てっきり、歩美が告白したけど、純也が振ったのかと)」


「(ええっ!?)」

 エスパーかよ。


「(やっぱり、そうなんだ。歩美も純也のことが好きみたいだったから)」


「(なんで、わかるの?)」


「(見てればわかるじゃん。逆にわからなかったら、何でわからないの?って思うよ。この前、一緒に服を買いに行ったじゃん? あれ、純也に見せるために買ったみたいだし)」


 クリスマスイブに着てた、あのスカート丈の短いやつか。

「(そうか…)」


「(で、なんで、振ったの?)」


「(い、いや…、別に彼女に対して恋愛感情がなかったから)」


「(ふーん…。なんか、純也って、お堅いよね)」


「(それが、当たり前じゃあ?)」


「(私が以前、付き合ってた男どもは、そうじゃあなかったから)」


「(そうなの?)」

 うーん…? 僕がおかしいのか?


「(そうだよ)」


 会話が途切れた。

 これ以上、長話をしていると、小声といえども誰かに気付かれるかもしれないし、女子が横で寝てると落ち着いていられない。

 丁度良いので、僕は話をそろそろ切り上げたいと思った。

「(雪乃、そろそろ自分の布団にもどったら?)」


「(えーっ、まだいいじゃん。純也も、私と一緒に居たいんじゃないの?)」


「(そんなことないよ…)」

 まあ、みんなが居なかったら別にいいのだけど、今日のところはお引き取り願いたい。


「(純也、そんなこと言って…)」


 雪乃は布団のなかで、ごそごそし始めた。


「(そんなこと言って…、ガチガチになってるけど? お堅いのはここだけにすればいいのに)」


「(さ、さ、さわるなよ!)」

 女子が横に添い寝してて、平常心でいられるはずがない。


 僕は慌てて、雪乃に背を向ける様に横向きになった。

「(いいから、自分の布団に戻りなよ)」


「(うん、戻るけど、もう少しだけ…)」


 しょうがないなあ。

 付き合ってても、別れても、変わりなく雪乃のグイグイくる感じには困惑しかないな。毛利さんとは大違いだ。

 そんなことを思いつつ、目を閉じた。

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