クリスマスイブ~その3

 僕と毛利さんは再び合流する。

 場所はいつものサンシャインシティのカフェだ。

 そこで待ち合わせしたのは、プラネタリウムの開始の時間まで、しばらくあるので、時間つぶしも兼ねている。

 僕が先にカフェに着いたようなので、コーヒーを飲みながら少し待っていた。


 少し待つと、毛利さんがやって来て隣の席に座った。

 彼女は手に持っていたマグカップをテーブルに置いて、コートを再び脱ぐ。

 やはり、今日の毛利さんの服装=短いスカートが気になる。

 僕は、彼女の太ももを見て見ぬふりをしつつ、会話の話題を考えて、昨日もらった通知表の話などをする。

 毛利さんも、通知表は、まあまあ良い結果だったようだ。


 12月に入ってからは、週末に毛利さんは織田さんと会って何度か勉強を教えていたということだ。最近はよく会うらしい。それは、知らなかったな。

 それで、織田さんは理系の勉強を捨てて、文系を集中的にやっていたそうな。

 そう言う理由で織田さんは、期末試験の時には僕に教えてくれと、あまり言ってこなかったんだな。


 そんな話もほどほどに、プラネタリウムを見に移動をするためカフェを後にした。

 プラネタリムの入り口に来た。案の定、カップルでいっぱい。

 まあ、僕らも一応カップルか…。

 毛利さんがチケットの予約をしていてくれたので、料金を払って入場する。

 数日前から予約が取れるらしいが、クリスマスイブなのに予約がよくとれたもんだ。

 そう感心しつつ座席についた。しばらくするとプラネタリムが始まった。

 東池女子校の学園祭で見た、天文部の手作りプラネタリムとは当然出来が違う。当たり前だけど。

 上映時間は約40分。

 鑑賞終了。感想は、なかなか良かった。たまには星空を見るのも良いな。

 リアルな星空を見るには寒い時期だが、プラネタリウムなら、寒くないからいくらでもできそうだ。


 そして、プラネタリムを後にして、サンシャインシティから離れてさっきとは別のカフェに向かう。

 席について、プラネタリウムの感想などを話し合うなどしてしばらく時間を過ごす。


 そういえば、毛利さんにプレゼント買ってあったんだった。忘れるところだった。

 このタイミングで渡してしまおう。

 僕は持っていた紙袋から、プレゼントを取り出して手渡した。

 中は、妹と一緒に階に行った髪留め。買った時にプレゼント用ということでちょっといい包装してもらっていた。


「これ、クリスマスプレゼント」

 僕は毛利さんに手渡した。


「ありがとう」

 続いて、毛利さんも自分のカバンから、リボンのついた長方形の包みを手渡してきた。


 毛利さんも僕用にプレゼントを用意してくれてたんだな。

 手抜きして、プレゼント交換会のもので済ませないでよかった。


 毛利さんは、包みを開ける。


 毛利さんは出て来た髪留めを見て、ちょっと嬉しそうにしている。

 そういえば、毛利さん、髪がそんなに長くないのに髪留めって、良かったんだろうか。最近、伸ばしているようだけど…。

 まあ、嬉しそうにしているから、よかったんだろう。そう言うことにする。


 僕の包みを開ける。さらにケースを開けるとマフラーが入っていた。

 シンプルな水色のマフラー。


「武田君って、いつもマフラーしてないから」

 毛利さんが言う。


「まあ、学校には5分で着くからね。5分我慢すればいいから、いつもはしてないんだよ」

 さらに言うと、今日も、池袋まではそんなに遠くないし、すぐに室内に入るだろうと思っていたので、マフラーはしてないし、全体的に薄着だ。


「そう…。でも、よかったら、使ってね」


「うん、そうするよ」

 まあ、折角だから使うことにしよう。


 プレゼントも無事渡せたので、そろそろ帰ろうと提案したが、毛利さんが少し歩こうと言う。なので、遠回りになるが南池袋公園に向かうことにした。

 しかし、寒いので、なるべく時間を掛けずに行きたい。

 とりあえず、もらったばかりのマフラーを首に巻いてカフェを後にした。

 街中はどこもクリスマスのイルミネーションでギラギラしている。そして、人出も多いなあ。


 しばらく、歩いて南池袋公園に。

 ここは、昼間だと、家族連れとかがよく遊びに来ているスポット。夜の時間は家族連れはいない。冬の夜ということもあって、人はまばらだ。

 僕らは無言のまま、少し中を歩く。いつの間にか毛利さんは僕の腕を組んで、ぴったりと体を寄せて歩いていた。それは、ちょっと気になるが、気にならないふりをして歩く。

 寒いし、公園に居てもしょうがないなので、さっさと池袋駅に向かおうと足を向ける。


 すると公園の出口あたりで、毛利さんは僕の腕をグイと引っ張った。そして、相対するようになって立ち止った。


「武田君。あのね…」

 毛利さんは少しうつむいて話を始めた。


「うん」

 僕は、毛利さんを見つめた。


「好き」

 毛利さんは顔を上げるとはっきりと言った。

「武田君のことが、好き。付き合ってほしいのだけど…」


「えっ?!」

 僕は突然の毛利さんの告白に驚いた。


 待ってくれ、毛利さんは伊達先輩と付き合っているんだろ。

 僕は、浮気相手になるつもりはない。

 先日、松前先輩にお悩み相談の時にも『はっきり言った方が良い』とアドバイスされて、そう決断したので、そのようにする。


「あのさ…、伊達先輩はどうするの?」


「えっ? 伊達先輩?」

 毛利さんは驚いたように繰り返した。


「そう。付き合っているんでしょ?」


「えっ? どうして、私が伊達先輩と付き合うの?!」


「いや、見てしまったんだよね。9月…、学園祭の前、書庫で毛利さんと伊達先輩がキスしているところを…」


「えっ!? それ、違うよ!」

 毛利さんは少々大きな声になった。

「あれは…、あれは、以前、武田君が伊達先輩とキスしたっていうから、『武田君のことが好きなんですか?』って、伊達先輩に聞いたの。そしたら、あの人、『可愛い後輩にキスぐらいできるわよ』って、いきなりキスしてきたのよ」


「えっ?! えっ?! どういうこと…?」

 僕は毛利さんのいうことがすぐには理解できなかった。


 そう、あれは6月だったろうか、伊達先輩と映画を見に行った。その時、不意打ちで頬にキスされたのは間違いない事実だ。

 伊達先輩とはそれ以上の関係はない。

 毛利さんは、そのことを気にしていて、伊達先輩に確認したってこと?


「確か、毛利さんには、僕は伊達先輩とは付き合ってないって明確に言ったことがあるはずだけど…」


「そう聞いたけど、ずっと気になってて…。伊達先輩とはあの時、書庫で二人っきりになったから、思い切って聞いてみたの。そしたら、あんなことに…。武田君、見てたんだね…」


 僕はさらに考えを巡らせる。

 ということは、僕はあのキスシーンを見て、勝手に勘違いして毛利さんと伊達先輩が付き合っているって、思い込んでしまっていたってこと?

 そして、それを3か月以上も勘違いしていたわけ?

 だから、毛利さんのことも、僕のことを二股掛けようとしていると誤解していたということになる。


 なんと言うことだ…。

 伊達先輩、誰にでも簡単にキスなんかするんじゃないよ!


 あまりの衝撃に何も話すことができなかった。

 しばらく考え込んだままでいると、毛利さんが口を開いた。


「それで、どうかな?」


 え…?

 何か月も誤った考えをしていたことが衝撃で、毛利さんの言葉の意味をすぐには理解できなかったが、何とか思考をフル回転させて、現状を把握する。


 そうだ、今、僕は、毛利さんに告白されているんだ。

 毛利さんは僕を見つめていた。


 確かに書庫で、毛利さんと伊達先輩とのキス見るまでは、僕は毛利さんことが好きだった。しかし、あれからは、気持ちが完全に冷めてしまっている。

 今は、毛利さんのことはクラスメイトで部活の仲間と思っていて、それ以上の感情はない。


 気持ちが冷めていはいるが、伊達先輩とは僕の誤解だったということで、また好きになるかもしれないし、ならないかもしれない。

 ここで、告白に対してOKをしてしまって、好きな感情の無いまま付き合うことありかもしれない。

 しかし、結局は好きにならなくて、雪乃の時と同じように別れてしまうということも十分にありうる。

 雪乃の時の経験から、別れ話をするのは、ちょっと精神的にしんどいしな。

 ならば、今、ここで、断ってしまった方がまだ良い。嫌なことは、早めに終わらせたい。そう判断して、僕は何とか言葉を振り絞った。


「ごめん…。悪いけど、今は、誰とも付き合いたくないんだ…」


 僕の言葉を聞いて毛利さんは肩を落として、うつむいてしまった。

 しばらく僕らは無言のままだった。


 重い空気の中、

「寒いし、もう帰ろう」

 僕は何とかそう口にした。


 毛利さんは無言で小さく頷く。

 そして、ゆっくりと並んで池袋駅に向かった。


 池袋駅の地下鉄有楽町線の改札に来て、僕らは短く別れの言葉を交わして別れた。

 毛利さんはホームに降りる階段の人ごみの中に消えて行った。

 毛利さん、泣いてたな…。


 僕は副都心線のホームに向かう。

 そして、地下鉄を待ちながら考える。

 伊達先輩が余計なことをしてくれたおかげで、妙な誤解をしてしまっていた。

 あれが無かったら、きっと秋のうちに毛利さんと付き合い始めていたに違いない。

 それなのに、こんな事態になってしまうとは…。

 ちょっと、腹が立ってきた。

 伊達先輩には、いつか仕返しをしてやろう、と思いつつ地下鉄に乗り込んだ。

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