女帝

 そして、放課後。

 副会長に就任したので、特になにも言われてなかったが、生徒会室に寄ってみることにする。

 生徒会室に入ると、松前先輩ともう1人見たことのある女子生徒が椅子に座ってスマホを見ながら、世間話をしているようだった。

 その女子生徒は、たしか2人しかない占い研のもう1人の部員。

 占いメイドカフェで松前先輩と一緒に占いコーナーにいたので見覚えがあった。

 名前は確か、蠣崎先輩だったか。


「こんにちは」

 僕が挨拶をすると、松前先輩も挨拶を返す。

「あら、こんにちは。今日は?」


「ええと。副会長に就任したので、一応、顔を出しておこうかなと」


「今日は生徒会のスケジュールは無しだから、来なくてもよかったのに。武田君は、言ってみれば“いるだけ副会長”なんだから、これまでどおりPC入力があるときだけでいいわよ」


「そ、そうですか」


「まあ。どうしても仕事がしたいのなら、あげるけど」


「いや、結構です」


「今後、力仕事があるときはお願いしたいわね。女子ばかりだから」


「力仕事、あるんですか?」


「たまに。いらない書類を校舎裏のゴミ捨て場に持っていく時とか。紙は重たいから」


 それは遠慮したい。

「で、松前先輩は生徒会のスケジュールが無いのに、どうしてここにいるんですか?」


「私たち占い研は、2人だから部室が無いのよ、だから、生徒会の仕事が無い時は、ここにいるの」


「いいんですか?」


「まあ、恵梨香には許可を得てるけど。学校には無許可ね」


 だめじゃね?

 まあ、いいや。


「折角ここに来たんだし、良かったら、占ってあげましょうか? もし、悩み事でもあれば」

 松前先輩が椅子に座れと手招きする。


「タダですか?」


「もちろんよ」


 折角なので、やってもらうことにする。

 僕は椅子に座った。

 前、占ってもらった時は、なんか適当だったからな。

 僕には女難の相があって、それを治すために犬のぬいぐるみ買えとか。

 今回も期待しないでおく。


「何について占ってほしい?」


「ええと…。今、付き合っている人との行く末を」


「ああ、そういえば、織田さんと付き合い始めたって噂になってたわね」


「ええ、事実です」


「じゃあ、今日はタロット占いで」

 そう言うと松前先輩はカバンからタロットカードを取り出した。

 そして、カードをシャッフルして1枚を取り出した。


 出たカードは、「THE EMPRESS」(女帝)が上下逆さま。


「ああ…」

 松前先輩は残念そうな声を出した。


「これ良くないんですか?」


「女帝の逆位置。あまり良くないけど…、武田君が謙虚な姿勢で相手を気遣って付き合ってあげると、大丈夫だと思うわ」


「はあ…」

 占ってもらうんじゃなかった。

 まあ、元々、占いは信じないから、気にしないようにしよう。


「相手の気持ちをよく考えて接してあげてね」


「はい。わかりました」


「他にも悩みは無い?」


「悩みは沢山ありすぎて困っています」

 その1つは、生徒会に巻き込まれていることなんだけどね。


「聞いてあげようか? 私は心理カウンセラーになりたくて、心理学とか勉強してるからいつでもどうぞ」


「そうだったんですね」


「占いは、人から悩みを聞くきっかけになるでしょ? だから、占いを入り口として利用しているのよ」


「知りませんでした。機会があれば相談しますよ……。そろそろ、歴史研の部室に行きます」

 あまり接したことの無い松前先輩と一緒にいると、ちょっと緊張する。そして、話したことが無い蠣崎先輩もいるし。


「気が向いたら何時でもどうぞ」

 松前先輩は、そう言って僕を見送ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る