カップ麵再び
水曜日。
今日の試験も、あっと言う間に終わった。
昨日、織田さんに数学を教えたけど、ちゃんとできたんだろうか?
まあ、いいや、と思いつつ、帰宅しようと立ち上がった。
そこへ、また織田さんが声を掛けてきた。
「ねえ、武田君。明日の英語教えてよ」
「ええっ?! また?」
「今日も武田君ちで!」
「待って、待って、英語なら僕より毛利さんのほうが成績いいから、毛利さんに教えてもらったら?」
「そうなの?」
「毛利さん、どう?」
僕は隣の席の毛利さんに声を掛けた。
「…………」
毛利さんは、少し考えた様子で、しばらくしてから答えた。
「うん。いいよ」
「ふーん。じゃあ、行こ」
織田さんは、言って僕の腕をつかんだ。
僕と織田さん、毛利さんは連れ立って僕の家にやって来た。
そうだ、お昼ごはん、どうしようか…?
とりあえず、居間に2人を案内し、僕は台所に行って冷蔵庫を開ける。
よさげなものが無い。
カップ麺にするか。妹がセンスないとか言っていたが…。
まあ、織田さんと毛利さんに対してカッコつけることも無いだろう。
「お昼、カップ麺で良い?」
一応、尋ねる。
「何でもいいよ」
と、織田さん。
「うん」
と、毛利さん。
僕はカップ麺と箸を棚から取り出した。
そして、ティファールでお湯を沸かす。
毛利さんと織田さんはソファに座って話をしている。僕はそばでその会話を聞いている。
「毛利さんは武田君ちに良く来るの?」
織田さんがいつもの様に、グイグイ尋ねる。
「え? たまに」
毛利さんは、ちょっと困ったように返事をした。
「何回ぐらい?」
「5、6回かな?」
「結構来てるね。私は今日で3回目。それで、何しに来てるの?」
「勉強会とか」
「毛利さんも勉強できるんだっけ? 武田君と比べるとどうなの?」
「文系科目は私のほうができるけど、理系科目は武田君のほうが良いよ」
「そっか。私も昨日と一昨日で、物理と数学を教えてもらったのよ。武田君って、教えるのうまいよね」
「うん。そう思う」
「武田君さあ」
織田さんは唐突に僕に話を振る。
「学校の先生とか良いんじゃない?」
「え? 将来の話? 先生か…。なんか、大変そうじゃない?」
「そう? 夏休みとか冬休みとか、たくさん休みありそうじゃん?」
「いや、先生たちは夏休みとか冬休みも仕事あるでしょ? それに授業以外に部活の顧問とか、長時間労働みたいじゃない?」
あとは、不良とか、面倒くさい生徒の相手とかやりたくないな。
「そっか。じゃあ、予備校の先生とか?」
「それだと、少しマシなのかな…?」
いずれにせよ、教師になるつもりは全くないのだが。
お湯が沸いたので、カップ麺に注ぐ。
雑談していると、すぐに3分。
3人で、カップ麺を啜る。
そして、食べ終えて、勉強のために僕の部屋に向かった。
部屋では昨日と同じように勉強を開始する。
僕らは、ローテーブルに座り、英語の教科書を毛利さんに渡して、あとはお任せにする。
「どこがわからないの?」
毛利さんが尋ねる。
「全部」
毛利さんはちょっと困った表情をする。
でも、なんとか、教科書に沿って文法とか長文読解の解説をする。
僕は、自分の勉強をしながら、横で彼女たちのやり取りを聞いている。
織田さん、単語がわからないのがそれなりにあるようだ。
「単語は覚えないと」
毛利さんが指摘する。
「だよね。明日の試験までに、いくつ覚えられるかなー?」
織田さんは、また僕に話を振る。
「武田君は覚えてるの?」
「まあ、だいたいは」
「ふーん。じゃあ、ちょっとやってみてよ」
と言いつつ、織田さんは試験に出そうな英単語を教科書を見ながら読み上げる。
僕は、それに対して和訳を答える。
8~9割がたは正解できた。
「すごいね」
「そう? 毛利さんなら全問正解でしょ」
そんなこんなで、休憩を挟みつつ3時間ほど勉強した。
毛利さんは、なんとか試験範囲の解説を終えたようだ。
あとは、織田さんは、頑張って英単語を一夜漬けすれば、赤点回避ぐらいはできるだろう。多分。
「ありがとう」
織田さんは毛利さんに礼を言う。
そして2人は、ノートを鞄に入れて帰り支度をする。
そこで、織田さんは、突然、爆弾を投げ込んできた。
「ところでさあ。毛利さんって武田君のこと、どう思ってるの?」
毛利さんは固まってしまった。突然の質問に戸惑っているようだ。
横で聞いている僕も動揺する。
「え…? 別に…」
毛利さんは、答えに詰まる。
毛利さんが、かなり困っているようなので、僕は助け舟を出す。
「毛利さんと僕は、クラスメートで部活の仲間というだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「本当に?」
織田さんは毛利さんにグイと顔を近づけて再び質問をする。
「…うん…」
毛利さんは、小さく頷いた。
「そっか」
そこで織田さんは質問を止める。
勉強道具の片づけが終わると、僕は毛利さんと織田さんを玄関まで見送った。
なんなんだ、さっきの織田さんの質問は?
そして、毛利さんの回答が、もし『僕のことが好き』なら二股だ。
色々と困惑しつつも、その後、僕は居間のソファでくつろぐ。
しばらくすると妹が帰宅した。
「今日は、織田さん、来たの?」
「来たよ。毛利さんも来てた」
「ええっ? 3人で何してたの?」
「試験勉強だよ。他に何するんだよ?」
「そうかー。お昼ごはんどうしたの?」
「カップ麵」
「ええっ!? ダメって言ったじゃん!」
「あの2人はそういうの気にしないみたいだよ」
「顔に出さないだけだよ! 私なら、引くよ!」
「別に引かれてもいいよ」
「そんなんだから、お兄ちゃんは彼女できないんだよ! エッチな夢ばかり見てないで、リアルな彼女作りなよ!」
僕は妹の説教をこれ以上聞きたくなくて、自分の部屋に戻った。
自分の試験勉強を引き続きやることにする。
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