目撃
僕は司書の先生を捜して書庫へ向かった。
書庫のドアを開ける。
書庫は初めて入るが、部屋自体さほど広くないようだった。図書室より本棚の間隔が狭いので、蛍光灯の光が遮られているところもあって、少々薄暗い。部屋の中の見通しはかなり悪い。
奥の方で人の気配がする、まだ作業している人が居るのだろう。先生も居るかもしれない。
僕はそちらの方に向かう。そして、通路から本棚と本棚の間を曲がった。そこで全く予想をしなかった事態を目撃した。
奥で、伊達先輩と毛利さんが、なんと、キスをしていたのだ!
え? え? え?
僕は慌てて、素早く身を引いて本棚の影に隠れた。
予想外の事態に僕の思考は一時停止した。
落ち着いて考えろ。
あの二人、そういう関係だったの?
いや、女子同士が恋愛関係にあってもおかしくないのだが…。
しかし、毛利さんって、僕のことが好きなのではなかったのか?
毛利さん、異性、同性どちらもOKな人ってこと?
そして、僕と伊達先輩とで二股ってこと?
いやいや、落ち着け、僕と毛利さんは、正式には付き合っていない。
そういえば、先日、僕の部屋で、僕が彼女にキスしなかったことで、伊達先輩に乗り換えたとか?
でも、キスするのを躊躇したのは、たかが0.1秒ぐらいのはずだが。
そして、伊達先輩も以前、僕の頬にキスしたよね?
というと、伊達先輩も異性、同性どちらもOKってこと?
伊達先輩も謎な部分が多いから、実はそういう事だった、ということも考えられる。
しかし、あの真面目な二人が、さぼっていちゃついているというのも考えにくいが。
見間違いか? いや、薄暗かったが間違いない。確かにキスをしていた。
もしかして、僕は幻覚を見ていたのか? いや、むしろ幻覚であってほしかった。
僕の頭の中で色んな考えがグルグル巡って来る。
ふと、手に持っている2冊の本が目に入って、我に返った。
そうだ、司書先生を捜しているのだった。ここは一旦、書庫を出ようと思ったところで、伊達先輩の声がした。
「もう戻りましょう」
あ、まずい。二人がこちらに近づく足音がした。
思わず隠れてしまったが、覗いていたことがばれるのは問題ありそうだ、と考えて、先に平静を装って通路から本棚の間に進み出た。
「あ。だ、伊達先輩」
僕は、声が上ずりそうなのを何とか堪えながら話しかけた。
「この本が、机の上にあったのですが、書庫行きで良いですか?」
伊達先輩は僕が突然現れて少々驚いたようだったが、いつもの平静な感じに戻ると僕の手の中にある本を受け取ると質問に答えた。
「ああ、これは確か書庫行きのはずよ。私が棚にしまっておくから、二人は先に出てて」
そう言うと毛利さんを先に通した。
僕と毛利さんは書庫から図書室に出た。
他の作業をしていたメンバーも作業が完全に終わったようで、全員が椅子に座って自由にしていた。
僕は入力作業をしていたPCの置いてある席に戻って座った。毛利さんはその隣に座る。
毛利さん、さっきまでの授業の合間の休憩時間と雰囲気が違う。いつもなら、僕に話しかけて来ることが多いのに、今は黙ったままだった。
僕の方も、さっきのキスシーンが衝撃的すぎて何も話しかけることができなかった。
数分後、伊達先輩が書庫から出てきて、僕らの側にやって来た。
そして、それとほぼ同時に司書の先生も再び姿を現した。
先生が最後に皆に作業が完了したことの礼を言うと、その場は解散となった。
僕は毛利さんとの間の重苦しい空気が耐えきれないので、早く帰ろうと立ち上がると、そこへ伊達先輩が話しかけてきた。
「明日からの学園祭も頑張りましょう。カフェの方の準備は紗夜たちがやってるはずたから大丈夫よ。後、あなたたちは明日午前中に舞台があるから、カフェに来るのは、お昼過ぎからでもいいから」
「は、はい、そうします」
僕は早く帰りたいので言葉少なめにその場を去った。
書庫のあれは、一体何だったのか?
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