脱がさないで、上杉さん
パシッ!!
次の瞬間、背後でピンポン玉が床ではねる音が聞こえた。
「1-0」
審判役の伊達先輩が宣言した。
え!? 今、玉、見えなかったけど。
もう一回、島津先生のサーブ。
パシッ!!
やっぱり見えなかった…。
これが卓球部顧問の本気というやつか?
「2-0」
伊達先輩は情け容赦なく点数を読み上げる。
サーブ権が回って来た。
僕は気合を入れて、玉を打つ。
しかし、いとも簡単に返された。そして、その玉の軌道も見えなかった。
「3-0」
よし、台のヘリを狙ってサーブして、うまくイレギュラーになれば、さすがに返せないのでは?
正々堂々とこの卑怯な作戦を使えば、まだ勝機はあるかもしれん。
僕は台のヘリを狙ってサーブする。
そして、うまくヘリに当たった。しかし、先生は何とかそれを拾って返した。その玉の勢いは、さほど強くない。こちらのチャンスだ。
僕は帰って来た玉を強く弾いてスマッシュした。
しかし、先生はそれを何事もなかったようにスマッシュし返した。返された玉は見えないほどのスピードで台を跳ねて僕の脇を通過した。
「4-0」
「すいません。棄権します」
やるだけ時間の無駄だ。
「弱っ!」
上杉先輩が言った。
「しょうがないなあ」
僕は順番を変わろうと上杉先輩に近づいてラケット差し出した。
上杉先輩はラケット受け取りながら言う。
「キミ、先生に勝ったら、おっぱい見せろって言っておきながら、自分が負けたら何も無いのはフェアじゃなくない?」
「はあ?! それは先輩が勝手に言ったんじゃないですか?」
「何言ってるの、キミもノリノリで勝負してたじゃん」
「ノリノリでなくて、シブシブです」
僕は反論する。
「いいから、ちょっと見せてよ」
上杉先輩は、そう言いつつ、僕の浴衣の帯に手を掛けた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、止めてください!」
こんな公共の場で無理やり露出させるとか犯罪だぞ。
「まあまあ、そのぐらいにしておいてあげて」
島津先生が助け舟を出してくれた。
僕はほっと安堵のため息をつく。
「これは、『貸し』にしておきましょう」
と、島津先生。
助け舟じゃなかった。
「それに、教師が生徒を裸にしたっていう風に噂が流れると、大炎上しそうだし」
そして、島津先生は部屋の入り口にあたりを指さして続けた。
「あと、あそこから新聞部部長が覗いているし」
僕らは先生の指先の方向を見た。
食堂で見た、新聞部の片倉部長がこちらを除いてスマホを掲げていた。
写真か動画を取っているのか?!
「残念、『エロマンガ伯爵、今度は温泉旅館で露出』という記事を出そうと思ったのに」
そう言って片倉部長は立ち去った。
学校の新聞でそんなの書くなよ。
そして、僕以外の女子達は、もう少し卓球を楽しんでから、自分たちの部屋に戻った。
しかし、この合宿も散々だな。
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