伊達先輩の身体が好き

 僕と毛利さんは旅館に戻り、自分たちの部屋に到着した。

 部屋ではテーブルを端に寄せて、布団が敷いてあった。

 上杉先輩は布団に寝転がって、伊達先輩は窓ぎわの椅子に座ってテレビを見ていた。


「お待たせしました」

 僕はレジ袋を見える様に持ち上げた。


「待ってました!」

 上杉先輩は飛び起きた。


 僕は、テーブルの上に買って来たものを広げる。皆、テーブルの周りに集まって各自の注文の品を手取って食べ始めた。


 しばらく黙々と食事をして、ほとんど食べ終わった頃、伊達先輩が話しかけて来た。


「ところで、武田君は私の事が好きなんですって?」


「えっ?!」


 突然の質問とその内容に困惑して、それ以上何も言えず、しばらく固まっていた。すると、上杉先輩が続けた。


「美咲ちゃんが、キミが恵梨香の夢を見たって言ってたじゃん」


 上杉先輩が伊達先輩にそのことを言ったんだな! 余計なことを!

 それに、その話は、とっくに終了したと思っていた。


「いやいやいやいや。夢に出て来ただけで、好きというわけではありません!」


「ええと、何だっけ。この前、言ってたの。恵梨香の『身体は好きだけど、人間的には好きじゃない』だったっけ?」


「え?」

 伊達先輩の僕を見る目線が、ゴミを見る目線になった。


「な、な、な、な、何、言ってるんですか? 『人間的には好きだけど、恋愛的には好きじゃない』ですよ!」


「そうだったね」

 上杉先輩は笑いながら言った。


「ひどい間違いですよ」

 僕は抗議するも、

「ゴメン、ゴメン」

 と、上杉先輩は、まったく心のこもっていない謝罪をした。


 まったく。


「でも、気にならないと、夢に出てこないでしょ?」

 上杉先輩が畳みかける。


「それに、夢は“願望の充足”とも言うわね」

 伊達先輩が口を挟んできた。


「ちょっと、待ってください」

 この話を終息に持ち込むにはどうすれば…?


 そこへ、

「ちなみに、どんな夢だったの?」

 と、毛利さんが爆弾をぶち込んできた。


 内容は口が裂けても言えない。


「キミのことだから、エッチな夢だったんでしょう?」

 上杉先輩は、デザートのプリンの蓋を開けながら言う。


“僕のことだから”って、どういうことだ。まあ、当たってるけど。


「あー…、ノーコメントでお願いします」


 しかし、僕の『ノーコメント』の言葉で、女子3人の中でエッチな夢だったと確定とされてしまったようで、妙に納得したという雰囲気になった。

 さらに、毛利さんはちょっと不機嫌そうだ。毛利さんはエロ話には免疫がなさそうだからな。


 そんなこんなで、不本意な形だが嫌な話題が終了した。そして、食事も済んだ。


 少々早いが、明日も移動で体力を使うので、皆、洗面所に言って歯を磨いてから、もう寝ることになった。


 上杉先輩は僕が使う布団を指さして言ってきた。

「キミが劣情を催さないように、キミの布団は少し離しておいたからね」


「そうですか」

 その心遣い、涙が出るよ。

「上杉先輩も僕のこと、襲わないでくださいよ」

 そう言い返しておいて、横になった。

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