先輩がうざすぎる後輩の話

 火曜日。


 今日も学校を休んだ。

 僕は朝食を食べた後、昼過ぎまでベッドで横になっていた。

 共働きの両親には学校を休む理由を“体調が悪いから”と言っている。


 しかし、まだ精神的に参っているのは事実だ。金曜日に聞いた話が衝撃的過ぎた。折れた心が癒えるのはいつだろう。

 とは言え、寝てばかりもいられないので、少し参考書を開いて勉強をした。来週、期末試験があることを、昨日見舞いに来たクラスメートの足利悠斗に聞かなければ、すっかり忘れてしまうところだった。


 昼ごはんにはインスタントラーメンを食べ、そうこうしているうちに、夕方になった。

 また、ベッドに横になる。

 しばらくすると、廊下をバタバタと歩く足音が聞こえた。妹の美咲が中学から帰って来たのだろう。すると僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。


 美咲か?


 扉が開くと、現れたのは美咲と上杉先輩だった。


「お兄ちゃん、上杉さんだよ!」


 美咲が元気よく部屋に入って来た。


「体調どう?」


 続いて部屋に入って来た上杉先輩は、開口一番に尋ねて来た。


「え…、まあまあです」


 そう僕が返事をすると、上杉先輩は僕に近づいてきた。そして、顔を覗き込む。


「金曜よりは顔色は良さそうだね」


「そうですか? 妹と一緒だったんですか?」


「すぐそこで、ばったり出会っだんだよ」


「上杉さんて楽しい人ですよねー」

 美咲が笑いながら言った。

「じゃあ、ごゆっくりー」


 妹はそそくさと部屋を出て行った。

 それを見送った後、僕は上杉先輩に尋ねる。


「それで、何か用ですか?」


「ええっ? ひどいなー。お見舞いに来たんじゃん」

 上杉先輩はそう言うと、いつにない深刻そうな顔をして話をつづけた。

「あのね。金曜に話したことは、本当はキミに話してはいけなかったんだよ」


 僕もできれば聞きたくなかった。生徒会長選挙の策略の事は、知らなかったら心も折れることはなかっただろう。

 上杉先輩は話を続ける。


「それで、恵梨香とも喧嘩になっちゃってね。毛利さんに聞いたらキミが学校を休んでいると聞いて。とりあえず、私が謝りに来たのよ」


「それは、わざわざどうも」


「だから、ごめんね」


 僕は少し考えてから答えた。


「もう、良いですよ。済んだことだし」


「ありがとう」

 上杉先輩はいつにない真面目な顔で礼を言った。

「キミって、心が広いよね」


 いや、心が広いというより、この話はもうしたくないだけだ。


「じゃあ、お詫びのしるしに」


 上杉先輩はそう言うと、ベッドに横になっている僕の上に覆いかぶさるように、上がって来た。


 え? え? え? 何をするつもりだ?


「どう? エロい気分になってきた?」


 上杉先輩はニヤリと笑った。


「なりません!」


 僕は何とか理性を保つ。


「というのは、冗談で。ちょっと、脇によって」


 上杉先輩はそう言うと、僕の体を少し押しのけて、ベッドの壁の側で仰向けになった。

 なんだ冗談か? ちょっと期待したぞ。


 そして、上杉先輩はごそごそとベッドと壁の間を手でまさぐっている。

 おい、まさか?


「あった、あった」

 上杉先輩は嬉しそうに、隠してあったエロマンガを取りだした。

「まだ、ここに隠してあったのね。おっ! 前とは別のマンガだ!」


「もう、勘弁してくださいよ」


 その僕の言葉を無視するように、上杉先輩はエロマンガの熟読を始めた。

 先輩女子が横に添い寝で、エロマンガの熟読って、どんなシチュエーションだよ?

 もう、何しに来たんだこの人は?


 気持ちを落ち着かせるため、僕は起き上がって言った。


「飲み物でも取ってきます」


 僕は部屋を出て、1階の台所まで行く。妹が居て飲み物を用意していた。


「あっ、お兄ちゃん。ナイスタイミング。ちょうど、ジュースを持っていこうと思っていたところ」


「そうか、悪いね」


「上杉さんて、楽しい人だね」


「それは、さっき聞いた」


「さっき、家の前で会って、話をしたら気が合っちゃって。LINEの交換もしてもらったよ」


 美咲は僕と違って活発な方だから、ああいう性格の上杉先輩とは合うのかもしれんな。

 しばらく美咲と話をしてから、僕は、ジュースの入ったコップをトレイに乗せて、自分の部屋に戻った。


 部屋に戻ると、上杉先輩はエロマンガを腹のあたりにおいて眠っていた。

 本当に自由な人だな。

 テーブルの上にトレイをおいて、寝ている上杉先輩を見た。


 上杉先輩、胸、小ぶりだよな…。


 などと考えていると、突然、上杉先輩が起き上がった。


「わっ!」


 僕は驚いた。


「今、触ろうとした?」


「してませんよ!」


 見てただけ。


「じゃあ、そろそろ、帰るわ」


 上杉先輩はベッドから降りた。


「あっ、ジュース飲んで行って下さい」


「おっ! ありがとう」


 上杉先輩はコップのジュースを一気に飲み干して、一言。


「あー。沁みるねー」


 オッサンか?


「じゃあ、帰るね。これ、借りてくよ。ちゃんと、学校来てよ」


 そういってエロマンガをカバンに詰め込んで、部屋を出て行った。

 僕はそれを見送る。


 やれやれ。あの人、本当に何しに来たんだ??


 そういえば、エロマンガの用途は、女子も男子と同じだよな…??

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