部室で囲まれる

「ここが部室!」


 僕がギャルに腕を引っ張られて、ようやくたどり着いたのは、校舎の4階、端の端、理科準備室だった。


 ギャルは勢いよく扉を開ける。


 理科準備室の中にいたのは、色白、細い目で長い黒髪が印象的な女生徒が窓際に座っていた。彼女は紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら、ポテチをつまんでいた。


「あら、いらっしゃい」


 その黒髪の女生徒は、僕たちを見ると、あまり表情を変えずに挨拶した。


「連れてきましたよ、例のオトコです」


 ギャルは私の腕をぐっと引っ張って、黒髪の前に押し出した。


「どうぞ、座って。よかったら、これも食べて」


 黒髪はポテチの袋をこちらに向けた。うすしお味だった。僕はコンソメ味が好きなのだが、まあ、ご厚意はいただこう。

 椅子に座って、ポテチを1枚つかんで口に入れた。ギャルもその隣の椅子に座った。


「入部してくれるの?」


 黒髪は前のめりになって尋ねた。

 ギャルもぐっと体を近づけてくる。さっきからギャルは距離が近い。


「ええと…。幽霊でもいいということでしたら。あと、勉強も見てくれるとか」


「勉強を教えてもいいけど、部室に来てくれないと教えられないわね」


 まあ、それはそうだ。


「そういう事であれば、部室には来ますよ」


「部室に来るということは、幽霊じゃあないわね」


 黒髪はそういうと微笑んだ。別に幽霊かどうかは、もうどうでもよかった。僕の目的は成績優秀者に勉強を見てもらうということにシフトしている。


「先輩は成績優秀者と聞きました」


「さあ、どうでしょうね。大体、学年で5位以内にいるけど」


 それは優秀だ。僕なんかは、先日の中間試験は中の上ぐらいだった。


「じゃあ、入部します」


「そう、助かるわ」


 黒髪は紙を一枚差し出した。入部届だ。

 僕は入部届に名前を書く。

 その名前を見て黒髪が改めて挨拶をする。


「1年A組、武田純也君ね。これから、よろしく。私は伊達恵梨香。2年B組」。


 続いてギャルも自己紹介する。


「アタシは、2年B組、上杉紗夜さや


「部員はこれだけですか?」


「そう、君が入ってやっと3人」


 伊達先輩が答える。


「1年生が入ってくれて嬉しい」


 伊達先輩はあまり表情を変えないので、本当に嬉しいのか、よくわからないな。


「美女2人に囲まれて、うれしいでしょ?」


 上杉先輩が、からかうように言う。

 まあ、伊達先輩も上杉先輩も見ようによっては美人かもしれないな。


「ちなみに、普段はどういう活動をしているのですか?」


「平日はここでダベったり、ゲームしているだけね」


「ゲーム?」


「“イケメン天下布武”っていうゲーム」


「なんですか、それ?」


「イケメンの戦国武将に口説かれるってやつ」


「えええー」


 僕は思わず眉をひそめた。


「いわゆる、乙女ゲーってやつだよ。私達はこれで歴史に興味を持つようになったのよ」


「そうですか…」


 それに伊達先輩が付け加える。


「あと、土日は城めぐりをしているわ」


「城めぐり?」


「日本100名城っていうのがあって、その100のお城を回るのよ」


「100って多くないですか?」


「歴史研究部では、伝統的に1,2年生の2年間で100全部訪問することになっているのよ」。


「というと、1年間に50ずつですね」


 ん? 一カ月に4つ以上。ほぼ毎週1つ?!?!


「毎週どこかに行く計算になりますが…」


「夏休みとか冬休みに一挙に回るから、毎週ということは無いけど」


「どう、一緒に回って見ない?」


「それ、必須ですか?」


「必須じゃあないけど、せっかく入部したんだから、よかったら参加してね」


 いや、勉強を見てもらえるだけで十分です。

 まあ、これで伊達先輩に勉強を見てもらって、成績も上がる、と思う。


 その後、ポテチを食べながら、くだらない世間話をして解散となった。

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