第14話 作戦始動、一人目の刺客

「というわけで、彼が一人目の人材になる田中君」


「二年の田中です。よろしくお願いします」


 先日の喫茶店にて集合した俺、涼華、久遠さん。

 俺の対面に座る久遠さんの隣には、髪を一本に結んだ男子生徒の田中君。

 田中君は礼儀正しくお辞儀をする。俺も倣って会釈をする。

 名前からして覇気がないが、大丈夫だろうか。


「田中君は霊媒師なんだって」


「へ、へえ……」


 久遠さんの説明に、俺は苦笑するしかなかった。

 いやなんでもいいとは言ったけど、本当に霊媒師連れてくるやつがあるか?

 しかも同学年の高校生って。自分実は見えちゃうんです系の臭いがプンプンするんだが。

 俺の不安を知ってか知らずか、田中君は妙に自信ありげな顔で言う。


「ご安心を。ワタシは寺生まれです」


「ちょっと失礼。久遠さんも」


「はあ? なに」


 俺は席を立って久遠さんを化粧室前に連れて行く。

 田中君の相手は涼華に任せるとして、今は話し合いが重要だ。


「まず聞きたいんだけどさ。久遠さんは幽霊とか信じてるわけ?」


「いや別に」


「じゃあなんで呼んだの」


「なんかイケそうかなって」


「適当かよ」


「あんたが誰でもいいって言ったんでしょ!?」


 くそ、そう言われると一方的に非難できない。

 でもあんなの絶対地雷じゃん。田中君には悪いけども。


「試せそうなものはなんでも試した方がいいじゃん。一か八かとかじゃないんでしょ?」


「それは、そうだけど……」


 さっさと終わるならそれに越したことはないんだよな。

 考えてみれば、個人的にちょっと急いでいた気はする。

 今回は作戦の第一弾だ。久遠さんの言う通り試行せずして成長はない。

 問題点を見つけると言う意味でも霊媒師の実力を試させてもらおうか。


「わかったよ。わかったけどさ」


「なによ」


「寺生まれに安心する要素ある?」


「知らない。ご利益とかあるんじゃない」


 それ神社な。






 その後、俺たちは田中君を心から歓迎して仲間に迎えた。

 胡散臭かろうが仲間となれば信頼する他ない。

 田中君に事情を伝えると、すぐに作戦を練り上げた。

 田中君にやってもらうのは除霊だ。

 あかりがヤンデレになったのは悪霊に取り憑かれているせいなんじゃないかという仮説をここで確かめる。


 翌日の学校の休み時間。

 俺たちは作戦を決行した。

 廊下を歩くあかりを通せんぼするように仁王立ちする田中君。

 俺と久遠さんは物陰からその姿を見守る。


 あかりは足を止めて田中君と対峙する。

 まるでヒットマンの睨み合いだ。

 俺は固唾を飲む。


「なんですか?」


 あかりが不審そうに問う。


「……さん」


「え?」


「……退散」


「は?」


「悪霊退散! 悪霊退散!」


 始まった!

 田中君は両手に握る数珠をこれでもかと擦って声を張り上げる。

 あかりは俯いて固まる。

 もしかして効いてるのか。内に潜む悪霊が苦しみ呻いているのか。

 いいぞもっとやれ! このままあかりに取り憑く悪霊を消し去ってしまえ!


「悪霊退散! 悪霊退散! あくりょ――ゴベェ!?」


 その時、一瞬にして田中君に距離を詰めたあかりが見事な回し蹴りを放った。

 綺麗に足が腹に食い込んで、直後に田中君は吹っ飛んでいく。


「誰が悪霊よ! 失礼ね!」


 勝者、あかり。

 見たところ全く堪えた様子もない。ただただ腹が立っただけのようだ。

 蹴り飛ばされた田中君は廊下を転がって退散しましたとさ。


 日常で見ちゃいけない飛び方だった。たぶん死んだと思う。

 絶対に衝突しちゃいけない三大危険物にトラック、電車、全力疾走中のあかりと語られるだけはある。あの豪脚に直接やられて生きていられるはずがない。

 俺と久遠さんは静かに手を合わせて彼の成仏を祈る。


 しかし田中君の犠牲によって手に入ったものもある。

 あかりは別に悪霊に取り憑かれているわけではないらしいという情報だ。

 ありがとう田中君。


「……次の人材はもっとまともな奴にしてくれ」


「……うん」

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