026 同棲……?

「なんなんですか、この人たち……バケモノですか」


「あー、いや……俺の学園時代の先輩と後輩です」


「……やっぱり魔境なんですね、あそこ。こうも簡単にAランク冒険者が誕生するなんて……」

   


 俺の予想通り……というか、ホントに呆気なく適性試験を『Aランク』で終えたシャルルとエルメェスを見て、隣のサレン同様渋い顔を浮かべていた。



「――先輩っ! 見てください! デスっ! 先輩とペアルック! デスっ!」


「あーくん。これ売ったらどれくらいの食費になるのかな?」



 シャルルは嬉しそうに黄金色の冒険者カードを見せつけて、エルメェスは冒険者カードを売る算段を考えていた。



「二人ともお疲れ様。——先輩、それ売ったら無職に逆戻りですよ」


「ペアルック! デスっ! ――エル先輩、それ売ったら一年は食べ物に困りませんよ。デス」


「売らせようとするな。一年も食えンから」


「あーくん。就職したらお嫁さんにしてくれるって約束、おぼえてる?」


「約束してませンから」


「先輩、見てくださいっ! デスっ! 先輩の髪の毛でミサンガ作ったんデスっ!」


「……」



 どうしよう、心が折れそうだ。

 詰め寄ってくる先輩と後輩を押しのけて、俺はひとり優雅にコーヒーを啜るカティアのもとへ癒しを求めて逃げた。



「カティ、これでダンジョンに行けるぞ。早速行くか?」


「何をバカなことを言っているの。A級ダンジョンが、寄せ集めのパーティで攻略できるほど甘くないわ」


「まあ、確かに。言わんとしていることはわかる。連携が大切ってことだろ?」


「ええ。何度も言うようだけれど、あの二人に背中は預けられないわ。さっきの適性試験で、実力が相当のモノだということはわかった。けど、まだ信頼するに足りない」


「とは言ってもな……」



 期限を考えると、時間はあまり残されていない。



「どうすればいい? あいつらがおまえの信頼を得るには、どうすれば?」


「——アルマさま。シェアハウスとかはどうでしょう?」



 冒険者が出払ったばかりの昼前で暇なのか、サレンが私物のマグカップに注いだ紅茶を持ってカティアの隣に座った。



「いやサレン……女子だけのパーティならまだしも、俺は男だぞ?」


「当然アルマさま以外で、ですよ。何を言ってるんですか?」



 冒険者顔負けの厳しい視線で俺を見遣るサレン。

 そりゃそうだ。ちょっとカティアのバスタオル姿を想像した俺が憎い。



「仲を深めるための手段の一つに、同じ屋根の下で暮らすっていうのは常套手段ですよ。あまり男性の冒険者さまはやりませんが、若い女性冒険者さまはよくやっているんです」


「なるほど。それはいい案かもしれないな」


「軍人さまも全寮制ですし、日夜バディと一緒にいることで絆を深め、阿吽の呼吸を身につけるそうですよ。規律によって規則正しく、相棒バディを想いあって行動する結果、統率の取れた軍隊ができあがる――家族のような組織だからこそ、軍隊は強いんです」



 いつか師匠が言っていたのを思い出す。

 軍隊は全にして個。一人に手を出せば、全体に手を出したのも同義。

 故に執念深く、また屈せず、どれほど鉄槌を下そうが復讐しに来る。

 できることなら関わりたくない組織だ、と。



 ちなみに、師匠は軍階級でいう所の大尉である男の恋人と一夜を共にしたせいで、王国の軍隊から命を狙われているそうだ。



「時間もないし、少々荒治療な気はするが……手段は選ンでられないな」


「まあ、手っ取り早いといえばこれほどいい案はありませんよ。あとは、物件ですね。広い部屋ともなると高級宿しかありませんし……」


「まあ一ヶ月限定の臨時パーティだしな。そこは別に――」



「――先輩と……シェアハウス……デスっ!」



 俺から半径二メートルに近づけないシャルルが、サレンを挟んで俺を嬉々として見つめた。

 目の前のサレンが霞んで見えると言わんばかりに、いやそもそも、視界にすら入っていませんと、サレンの首あたりから俺を透視して、きらきら目を輝かせた。



 愛の前に障害物はく失せる――師匠の言葉が、俺の耳を掠めた。



「……いや待ってほしい。俺はシェアしないぞ?」


「お嫁さんの予行練習……賛成。きっと娘の独り立ちにお母様とお父様も喜ぶわ」


 

 そりゃあ、そうでしょうよ。いい歳して高学歴ニートなんですから。



「ってそうじゃなくって、先輩? 俺たちの話聞いてましたよね?」


「……この二人とアルマを、同じ屋根の下で暮らさせるわけにはいかないわ」


「おいおいおい、カティア!? おまえまで乗って来なくいていいからな? 俺をシェアハウスに組み込むな、同じ屋根の下で暮らすのはおまえら三人だけ――」



「――ちょうどいい物件があるんだけどぉ、ど~かしらぁ? 今から見に行ってみなぁい?」



 そして最悪なタイミングで、最悪な匙加減で現場をごちゃ混ぜにするであろう人間――否、エルフが現れた。



「え、エクセリーヌさん……ッ!! なんていうタイミングで……!」


「ま、マスター……どうしてここに!?」


「私が買った宿の一室なんだけどぉ、もう売りに出す予定だったからちょうどいいわぁ。ぜひ使ってあげてほしいのぉ」



 もちろん、お金はいらないわ――そう、不敵に笑って。

 長躯の美女は、同性すらも魅了する微笑をたたえて、俺たちの前に立ちはだかった。


 

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