【ゼットん】と呼ばれた漢
久世大地
第1章冒険の始まり
第1話 アーリー村
とある街道に面したなだらかに下る草原。
コロコロコロりん くるりんっパ
シュタッ ドカッ 痛っ
……
タッタカ タッタカ 「ヒヒーン」
ザザザ ザーン
「死にたいのか?このニャロー」
「どうしました?ニャンタさん」
幌馬車の後ろから一頭の馬に乗った護衛らしき男と、馬車から辺りを警戒しながらローブを着た女性が降りて来た。
「どうしたもこうしたもあるかい。道の真ん中で大の字になって寝てやがる」
「死んでるんじゃない?それとも盗賊の罠なのか?ヒルダ辺りを索敵してくれ」
ヒルダと呼ばれた女性は、三角座りをし俯せに倒れている人のお尻を、杖の先でツンツン突いていた。
「大丈夫よ。辺りに魔物も人の気配もないわ」
「杖でお尻をツンツン突いて、全くヒルダは呑気なもんよ。護衛は俺たち二人だけなのに」
「う〜ん。もう食べらませ〜ん、お腹いっぱいです」と寝ている男は呟いた。
「なんだ生きてるじゃないか。おいこらお前、一体どうしてこんな所で寝ている?」
護衛の男は剣を抜いてゆっくり近づいて行く。
倒れている男はゆっくりと目を擦りながら上半身を起こした。
「オイ坊主、魔物にでも襲われたのか?」
「え?俺お坊さんなの?とうとう髪の毛いっちゃったのか!?」
慌てて自分の髪の毛をワシャワシャ触ったけど大丈夫だった。
「何だよ、びっくりさせないで下さいよ。てか、その剣危ないからしまって下さい」
なんだか頭がズキズキしてクラクラしやがる。
そこへ幌馬車から、恰幅の良い口髭を蓄えたおじさんが降りて来た
「どうしたんだね?ギルバート君」
護衛の男「あ、ポルネコさん。
「とりあえず剣を仕舞いなさい。見たところ只の少年じゃないか。頭にデカイたん瘤まで作って痛そうじゃないか。ヒルダ君回復魔法をかけて上げておくれ」
ローブを着た女性は私のおでこに手を翳して何やら言葉を呟いた。
するとおでこに暖かいぬくもりを感じて頭の痛みが和らいだ。
「私は行商人のポルネコ。君名前は?歳は幾つだい?」
「え、名前ですか?う〜ん—分からない。何故こんな所で寝てたんだろう」
「困りましたね。頭を打った衝撃か何かで記憶が飛んでいるのかも知れませんね。もう直ぐアーリー村に着きますし、連れて行きますか。ギルバート君、危険な物持っているか身体検査をして下さい」
私は両手を上げて身体検査を受けた。
「ポルネコさん、大丈夫です。武器の類いは何も持っていません。てかお金も何も持っておりません。お前良く生きてたな」
ギルバートさんは再び馬に乗り幌馬車の後方を確認し、私はポルネコさんと女性と共に馬車に乗った
「先程は頭を治療して頂きありがとうございました」
「大した魔法じゃないし良いのよ。頭の具合はどう?よく見たら貴方変わった服装してるわね。黒い見た事ないような素材のジャケットにインナーのピンクのシャツと紺色の色褪せた感じのズボンに紺色のブーツ」
「え?魔法使えるんですか、お姉さんは」
「え、お姉さんって良い響きよね、ウフッ。当たり前じゃない。これでも冒険者で魔術士やってるんだから」
30分程馬車の中でポルネコさんとヒルダさんと他愛もない話しをしてたら馬車が停止した。
「ポルネコさん、アーリー村に到着しました」と御者台から小柄な猫顔の男が降りて告げて来た。
「私は村長の所に挨拶しに行き、この子の事を相談しに行く。皆んなは積荷を雑貨屋さんに下ろしてから宿屋で寛いでくれ。ニャンタは積荷のチェックをして伝票に記載しておくれ。君は私を後をついて来ておくれ」
ポルネコさんと一緒に村の一番奥にある大きな建物までトコトコ歩いて行った。
ドアをノックしながら「お〜い村長居るかい?品物運んで来たよ」
「こりゃこりゃポルネコさん。毎月ご苦労様です。道中魔物は大丈夫でしたか?」
「いやそれがねぇ。魔物は大丈夫だったけど、ちょいと問題が起きまして、ご相談に来た次第で。ほらこっちに来てご挨拶なさい」
ポルネコさんの後ろからおずおずと顔を出し、ゆっくりとお辞儀をして村長さんに挨拶をした。
「ど、ど、どうも初めまして」
緊張からか、ちょい吃ってしまった
「この子はアーリー村の直ぐ近くの街道で頭に怪我をして倒れていたんですよ。どうやらその怪我で記憶を失ってしまったようで名前すら覚えていない。武器もお金も持って居ないし、そのまま置いても危険なのでとりあえず村まで連れて来ました」
「それはそれは難儀な事ですな。う〜ん、記憶が戻るまでしばらく村に逗留させてみますかな!?君はどうしたい?」
「え、僕ですか?とりあえず何も分からないのですが、居させて貰えるならこの村で暮らしたいと思います」
「そうかそれは良かった。村長さんのご好意に感謝しなさい。それでは私は雑貨屋さんで取り引きをして、村の皆んなから商品を買い取り商売させて貰いますね。村長さん後をお任せしてよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。君は私に付いて宿屋に行きましょう」
「あの僕はお金持ってないんですが…」
「心配しなさんな。今日は私が出してあげますから、明日からギルドに行って仕事を貰って稼いで下さいね」
それから宿屋に連れて行かれ部屋を確保して一息ついた。
女将さんから案内された部屋は6畳程の大きさで机と椅子にクローゼットとベットがあった。
(ん?6畳って何だっけ??)
何となくそんな気がしただけだ。
とりあえずベッドに腰を下ろしあれこれ考えてたら寝てしまったようだ。
女将さんが部屋をノックをして起こされた。
「晩御飯出来たわよ。お腹空いてるだろうし今日はサービスして上げるから一階の食堂に下りて来なさい」
(この村の人達は優しい人ばかりだなぁ。こんな見ず知らずの人間に色々サービスしてくれて)
食堂には誰も居らず僕はカウンターに座った。
女将さんが「おまかせでいい?」と聞いて来たので「それでお願いします」と答えた。
しばらくするとパン2切れとシチューとサラダが運ばれて来た。
茶色いシチューの中には沢山の野菜と噛むとほろりと溶ける肉があり、空腹を満たしてくれた。
「美味しゅうございました」と礼を述べて部屋に戻り又考え事をした。
ズボンのポケットを弄ると
(ポケットの中にはビスケットが、ひとつも無かった)
何だろ?なんかメロディが頭の中に響いた。
相変わらず頭の中はもやもやしてスッキリしないが思い出した事があった。
僕は突如気が付いたら草原に飛び出し、坂道を転げ落ちるように前回転していた。
漸く勢いが収まり、ビシッと立ち上がり両手をYの字に決めポーズを取ったが、すっ転んで道端の岩に頭を打ちつけて気を失っていたのだった。
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