第5話 フクロウとネコは出会う
今日はくっきり三日月だ。お月さんはいつもおしゃれだな。
と思っていたら、急に雲が増えてきた。
そこに、黒猫の少年が木を登ってきた。
ひどく息を切らしている。
「まあ、慌てず、ここで少し休みなよ。」
「おじさんは、ここら辺に住んでるの?」
「ああ、この近くさ。君は、野良かい?」
「そうだよ。」
「なんだってそんなに忙しそうなんだ?」
「逃げてきたんだよ、魔王から。」
「魔王?」
「ああ、あの角の真っ黒い家にいるんだ。」
そう言いながら少年は、その家を鋭く睨んでいる。
「猫を数えきれないほど飼っているところか。」
「あれは飼っているなんて言わないさ。みんな閉じ込められてるんだ。」
彼は少年とは思えない表情をしている。
少年のこんな顔を見るのは心苦しい。
「君はなんで、その魔王の城に近づいたんだい?」
「この前、僕の幼馴染が捕まったんだ。」
「あの中はそんなに酷いのか。」
「そうだよ、狭いし食うもんもないらしい。」
「それは困ったな、君はその子を助けに行こうとしたのか。」
「ああ、ちょっとずつ抜け穴を作ってるんだ。絶対に助け出すよ。」
こんなにかっこいい少年を私は見たことがない。
それはさながら、人間の子供が思い描く、伝説の勇者だ。
「君はその子のことが大切なんだな。」
「んっ…。ま、まあな。」
「おっと、これは女の子だな。」
「か、かか関係ないだろ。」
「はっはっ。」
「なんだよ。なんで笑うんだよ。」
「もう少し大人になればわかるさ。」
黒猫の顔が少し赤く見えた。
伝説の勇者がたいてい少年なのは、こういう理由らしい。
「おじさんに手伝えることはあるかい?」
「…あったら、またここを訪ねるよ。」
「待ってるよ。」
少年は、暗闇に溶けて行ってしまった。
私は、さながら行き先に困った勇者が訪ねる情報屋のじじいと言ったところか。
それと同時に、雲が晴れて、鋭い眼をしたお月さんが、また顔を出した。
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