第12話 佐藤さん談義
母さんが出してきたケーキを食べ終えた俺たちはゲーム機を出し、電源を入れる。
「そう言えば、詩はどのくらい進んだんだ?」
俺は狩猟ゲームの進捗を詩に聞いてみた。前聞いたときは確か、まだ下位にいるって話だったか……
「ん、ああ、どうにか上位にはなれたよ。君のアドバイスのおかげでね」
詩がそう返事をする。そして、今思い出したという顔をした後、いたずらっ子のような顔をしながらこちらに話しかけてくる。
「それより、君の方はどうなのさ。佐藤さんとはうまくやってるの?」
その返事に俺は一瞬言葉に詰まる。別に喧嘩をしているわけではない。むしろ、仲良くやっている。
……ただ、何となく交換日記をしていることを友人に言うのが気恥ずかしかったのだ。
「……ま、まあな、そこそこ仲良くやってると思う。それに、その……」
「ん?どうかしたのかい」
「えっと、一応、交換日記を始めた……」
俺がそう言うと詩が目を見開き驚きをあらわにする。
「そ、そうか。思ったより進んでるね。君たちは初めての対面だと思っていたんだけど……」
「い、いや、それであってるぞ。あ、あと図書委員では割とそういうのやってる人が多いから別に変なことではない」
詩は俺の言葉に少し考え込む。そして恐る恐ると言った風に口を開く
「それは、つまり、図書委員の殆どはカップルで出来ているってことかい?」
「へっ?」
俺は素っ頓狂な声を出してしまった。しかし、そうか、確かに今の俺の言葉だと、詩が言ったような解釈になってもおかしくないか……
俺は詩の考えを否定する。
「いや、そういうんじゃなくて友達とかでも交換日記を普通にやるんだよ。」
「あ、ああ、成程、そういうことか……確かにそれならそれほど変なことではないか……」
「おう、佐藤さんも是非これから仲良くしていきましょうみたいな感じで渡してきたしな」
ま、まあ、俺としては全然、佐藤さんとお付き合いとかもその……あ、ありだけどね‼
俺がそんなことを考えているとまた詩が考え込み始める。因みにその際に小声で「……友達と交換日記か……」という声が聞こえた。
「……折角だし、湊、僕らも交換日記をやってみないか?」
「……いや、俺らスマホで連絡できるだろ?」
「あ、……ああ、確かに」
何故か詩が交換日記を持ち掛けてきたが、そもそも俺らの場合はどこにいてもスマホで連絡が取れる。
何より、図書室では雑談禁止だからこそ、図書委員では筆談や交換日記が流行っているのだ。
普通に話せるのなら、交換日記は必要ないだろう。
その後少しの沈黙の後、詩はこの微妙な空気を換えるためにか、話の先を促してきた。
「それで、どうなんだい。湊から見た佐藤さんは?」
詩の言葉に俺は少し考え込む。俺から見た佐藤さんか……
「引っ込み思案でそれでも他の人と仲良くしたい女の子、とか?そいういう詩はどうなんだ?」
俺が逆に質問する。俺よりも圧倒的に長い付き合いの詩から見て佐藤さんがどう映っているのか純粋に疑問に感じていたのだ。
「僕からかい?そうだな……人とのコミュニケーションが苦手なように見えて意外と得意みたいな感じかな。……いや、なんだろう。コミュニケーションが苦手なのに得意、かな?」
「なんだよそれ。矛盾してないか?」
俺は詩の佐藤さんへの印象に首を傾げる。俺の問いに詩も自分の言葉をもっとわかりやすく言語化しようとしているのか暫く黙り込む。
そして、言葉がまとまったのかこちらを向く。
「初めに言って置くと僕と佐藤さんは同じ文芸部だから割と話すんだけど。なんというか。コミュニケーションに対する苦手意識とかそいう言うのを持っている感じはするんだ。ただ、実際に文芸部の中でコミュニケーションが一番得意なのは佐藤さんだと思う。後、コミュニケーションに対する苦手意識はあるけど、みんなで楽しくやれる部活動になるように心がけてるのも、佐藤さんじゃないかな?確か、文芸部内でのハロウィン大会とかクリスマスパーティーとかを企画してたのも佐藤さんだったし。」
そう言えば、俺に交換日記のことを切り出した時の切り出し方も自然だったな。交換日記をしようって誘ったのは俺だけど、元々、佐藤さんは交換日記を用意してた。
つまり、図書委委員で交換日記や筆談が流行ってるって話題は交換日記を始めるための前振りってことだよな。苦手意識は持っているけどコミュニケーション自体は得意なのか?
詩の話だとハロウィン大会とクリスマスパーティーの企画もしてたっていうし
…………もしかしたら、佐藤さんは本来もっと明るい女の子だったとか?
…考えても意味はないか…………
………………結局俺たちがどれだけ考えても佐藤さんのことは佐藤さんにしかわからないんだから……
因みに狩猟ゲームの方は今日の一日で詩のランクを一つ上げることに成功した。
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