第3話・とりあえず、集まってみた
開催日時と場所が決まり、次は演奏者の選択だった。
野辺山がインターネットを通じての呼び掛けに応じて「演奏に参加してみたい」と、いう人は多かったが。
初めての試みということもあって、いくつかの参加条件を設定した。
①各種の災害に遭遇して復活した楽器、もしくは被災関係者。
②数回の演奏練習に参加可能な、距離に住んでいるもしくは宿泊している人か、数回の練習参加と演奏当日に会場に来れる人。
以上の二つの条件を提示して、それなりの演奏レベルがある人を、参加希望者の中から野辺山が選択した。
演奏レベルに関しては、顧問の青沼先生が。
「吹奏楽部の一年生、二年生が参加するんだから。同等かちょっとだけ演奏リードしてくれるくらいの人じゃないと……トランペットやユーフォニアと同じくらいの演奏レベルで」そう、助言してくれた。
演奏者選択の面接は公民館で行い。
青沼先生、牧村、野辺山、羽黒さん、そして提供野菜の農家代表として川上さんが加わった五人で行われた。
面接会場に最初に現れたのは、隣町の高校に通う『広瀬』と名乗る女子生徒だった。
メガネをした、少しおっとりした雰囲気の少女が言った。
「広瀬と言います、隣町の高校の吹奏楽部に所属しています……
あたしも楽器も直接の被災経験はありませんが、おばあちゃんが集中豪雨で土手が決壊した川の水害で消防団長だった、おじいちゃんを亡くしています……楽器は木管楽器の【オーボエ】ですけれど……演奏会の参加ダメですか?」
オーボエと聞いて、牧村の瞳が輝く。
「オーボエ奏者がいると、演奏前のチューニングが出来る! 参加決定!」
【オーボエ】広瀬、決定。
次に現れたのが『
「臼田です、二駅離れた町のコンビニに勤めています。以前いた町で台風災害と竜巻に遭遇して、プレハブ小屋の奥にあったドラムセットが、竜巻の進路から外れて奇跡的に無事でした──ぜひ、コンサートに参加させてください」
【ドラム】臼田、決定。
三人目は『松原』と名乗る男性で【コントラバス】奏者だった。
「震災で被災して、実家が津波被害にあって……コントラバスは、妻が安全な場所に持ち出してくれたので無事でした」
なんでも、松原さんの奥さんは出産間近らしい。
「妻の実家がこっちにあるので、妻と一緒に空気がきれいな高原の地に移住を……練習は、それほど多く参加できませんが。生まれてくる子供のためにも父親として何かを残したいんです」
【コントラバス】松原、決定。
だいたいの演奏人員が整って、これで面接を終了しようかとしていた時。
予想をしていなかった。面接希望者がドカドカと公民館の廊下に足音を響かせて現れた。
「コンサートの演奏者を募集している、面接会場ってのはココかい?」
頭にバンダナをハチマキのように巻いた、ラフな格好の男性だった。
公民館に現れた、ジーンズ生地のベストを着たバンダナ男は勝手にパイプ椅子に座ると『清里』と名乗った。
青沼先生が恐る恐る、清里さんに質問する。
「楽器はなんですか?」
清里さんは、ギターを掻き鳴らす仕種をしながら答える。
「これだよ、エレキだよ」
困り顔で青沼先生が言った。
「吹奏楽でエレキギターというのはちょっと……吹奏楽コンクールでは、エレキギターやエレキベースの使用は認められていないので、生徒たちもエレキの演奏に、どう合わせたらいいのか……わからないので」
「なんだよ、被災した人を励ますコンサートってのは建前かよ! オレだって子供のころに、積雪災害で倒壊した家から救助されて、九死に一生を経験しているんだぞ!」
清里さんが言うには、彼はラーメン屋の店主で災害ボランティアの経験もあり、キッチンカーも所有していて被災地に出向いて、ボランティアでラーメンの提供も行っているとのコトだった。
腕組みをして椅子に座った、清里さんが言った。
「とにかく、高原のコンサートにどんな形ででも、参加させてくれるまでは、オレはここから一歩も動かねぇ」
青沼先生と牧村が困り果てていると、横から野辺山がポツリと言った。
「本人が参加したいって言っているんだから参加してもらったら、参加条件は満たしているんだし。
本演奏の前にお客さんの気分を盛り上げるための、エレキギターの軽奏ライブなんてのも面白いと思うな……オレ、ラーメンも高原で食べたいし」
野辺山の言葉に清里は嬉しそうな顔をした。
「話せるじゃないか小僧、おまえ将来大物になるぞ」
野辺山と清里さんの会話を聞いていた川上さんが言った。
「確かに、食べ物の出店があれば。子供や家族連れを喜ばせるコトができますね……わたしが、町長の高岩さんに話して。キッチンカーの出店が高原で食べ物を売れるようにしましょう」
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