蝉の声

朝起きてカーテンを開けた時

ふと、蝉の声に気づく

あれ?いつから鳴いていたんだろう

梅雨明けはまだだよね

そんなことをぼんやり思ったりして


世界に不穏が拡がりだしてから

不要不急の外出を控えるようになり

窓のこちら側からばかり外を見ていたら

季節の移り変わりにすら

気がつけば置いていかれそう


そういえば少し前から

雑踏の音に紛れるように鳴いていた気もする

あの病院からの帰り道とかに

控えめだった鳴き声は

少しずつ力強くなっていたんだなあ


そして梅雨が明ければ

また高らかに

その生命いのちの声を響かせるだろう


季節は巡っていく

今年も蝉が鳴いている

その声に励まされるような気持ちで

いつかあの日々に戻れることを祈りながら

わたしは風に揺れるカーテンを見ている


風鈴が、ちりん、と鳴って


頬を微風そよかぜが撫でていった

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