第26話-① “脚色”され、“歪曲”させられた『不都合の塊』 ≪『緋鮮の記憶』本篇よりの抜粋≫
―――これよりの記述は、『緋鮮の記憶』の中でも特に盛り上がる展開を見せる“
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カルブンクリスが率いる叛乱軍は各地に於いて次々と魔王軍を撃破し、
そして眼前にて
「堅い、それに中々抜けんとはな。」 「それは当然だろう、魔界の王の居城がすぐに抜けられるとあっては、それはそれで大問題だからな。」
「コーデリア…だったらあんたならどうにか出来るって話しなのか。」 「容易い事、あなた達はただ単に“力”を頼みに突破しようと試みているだけ、それでは抜こうにも抜けませんよ。 けれど私は違う…私の様な『錬金術師』ならば、ね。」
実際的にニルヴァーナ達はその武力で
こうして城門を攻略してより3日、完全に叛乱軍は足止めをされましたがその間魔王軍の立て直しを始めようとしていた総参謀ベサリウスは―――
「なにィ?攻撃の手が緩んだとお。 ち…あのまま無駄な労力を費やしてくれりゃこちらとしての起死回生はなっただろうに、それに―――この感じ…あの
叛乱軍がここまで苦戦を強いられたのは〖昂魔〗は伏魔族出身の『魔王軍総参謀』ベサリウス…この男が魔王軍を掌握していたからでした。 しかもこの男の言にもある様に〖聖霊〗は神仙族の重鎮である竜吉公主ほどの実力者を中途退場まで追い込んだ…現に竜吉公主は最前線の地に顔を出してはおらず後方にての支援活動を強いられていたのです。
それにベサリウスも叛乱軍がこの段階で城門前に迫って来るのは時期的にもまだ後だと思っていた…しかしこの裏をかいた叛乱の主導者により叛乱軍の内部は一層に結束され魔王城攻略の機会は早められたのです。 そしてここを“潮時”と見たのかベサリウスは周囲にも告げずに行方を晦ませようとしていた―――
「(…ん?)誰だ―――」 「『魔王軍総参謀』ベサリウスとお見受けする、“
「な…なにィ?(バ…バカな!この脱出経路はこのオレが万が一の時にと備えていた、このオレしか知らないハズ―――なのに…このオレの前を行くヤツが叛乱軍にいたってのか!)」
魔王軍の“本陣”とも言える魔王城を棄て、野に下って機会を伺おうとしていたベサリウス―――でしたが、その彼の策を読んでいた者により阻まれてしまった。 〖昂魔〗は
「相手にとっちゃ不足があり過ぎだが、さっさと抜かせてもらうぜ。」
「うぬぅ、小癪な小娘がヒト族の分際で大言壮語するな!」
「いけねえなあ、他人を上辺だけで判断するってのは、まあ確かに私も産まれた時はヒト族ではあったんだけどな―――」
「(ぬ?)なんだその言い方は…ならば今はそうではないだと?!」
「察したようだな…だがそんな事は私にゃ関係ない―――」
「ぬぐおっ!?そ―――その太刀筋、まさかお前は!『
【清廉の騎士】であるリリアは自身が持つ
「どうやらあなたは斬り応えがありそうです、魔王との一戦前の露払いとしてはまたとない人身御供と言えるでしょう。」
「ぐぬぬぬう~~~このワシをそこまで嬲りおるか!覚悟は出来ているのだろうな…」
「―――フッ…なんとも捻りの無い言葉です、私の“煽り”への返しが それ とは多寡の知れている……」
【神威】であるホホヅキはリリアと親交が深い者、彼女と寝食を共にしこれまでにも行動を共にしてきた…そしてまた“運命”をも、彼女達2人は叛乱軍のさある要人を救出する際、死の一歩手前の重傷を負いましたが
それに…半分“鬼”と成ってしまった事により、“ヒト”の身では出来なかった
「“影”に潜み“影”と共に生きる…“人の影”である忍の私を捉える事は永遠に不可能…」
「ぬ…ぬううーーーちょこまかと!正々堂々と姿を現わせい!」
「おやおや気は確かですか?先程私はあなたに判り易いように説明をしてあげたはずなのに…そう『“人の影”』と、そんな私が『姿を現わす』等と……どうやら今の魔王軍は武ではなく芸事を磨いてきたようだ!」
【韋駄天】であるノエルは凄腕の忍―――そして忍本来の姿とは人知れずして敵状を探り内情を詳らかに探り出してくるのが
「最後に残るはそなただけか―――思えば私が目指した魔王軍の頂点四天王を下す事になろうとはな…感慨も一入と言った処だ。」
「“角ナシ《ホーンレス》”…
「その言葉…聞き飽きて慣れもしたものだ、私を侮ってその戦意を削ぎたければもう少しばかり気の利いたモノを用意すべきだろうな―――」
最後に、【緋鮮の
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そして四天王を破った彼女達は、愈々残すところの“あと一人”―――『暴君』ルベリウスを残す…の、み?
「(!)何者だそなたは。」
「控えおろう、この不作法者達が、神聖なる玉座の間の前を騒がすとは何事よ。」
あと残すはルベリウスただ一人―――だけかと思っていれば、玉座のある部屋の前でニルヴァーナ達を待ち構えていたのは妖艶な雰囲気を漂わせる一人の美姫でありました。 それにニルヴァーナ達もこの美姫の噂だけは聞き及んでいた…『絶世』『傾国』『傾城』とも言える美を誇りて魔王を誑しめさせた悪女―――
{なるほどのう―――この女が総ての元凶じゃったか。}
{公主殿、お気持ちは判りますが、もう動かれても大丈夫なのですか。}
{なに、大事ない。 今の
普段は波の立たない穏やかな湖面を思わせる表情であった方が、どこか引き攣り気味に怒りを禁じ得ている…それに絶対安静だったはずの竜吉公主が魔王城に来ているのは何故?
{フッ…その質問にはこう答えるしかないな。 総てはお前達の盟主であるカルブンクリスの指示だ。}
「な、なんと…我が盟友が―――」 「そーれにしても突飛もない事を考えるよなあ…この2人絶対引き合わせちゃならないって事は私にだって判るぜ。」 「それに、今気付きましたがルベリウスを含めるとあともう一人―――…『魔王軍総参謀』のベサリウスの姿は?」 「ヤツの仕事場である作戦会議室は
{(ベサリウス…)お主らは前を急ぎやれ、あの男の始末とこの不埒な女の始末―――その両方を片付けて
総てはカルブンクリスの手の内だった。 豹変した魔王の影に潜む不逞の女の影、その正体こそこの魔界出身ではない『ラプラスの魔』ニュクスなる者でした。 その事を知っておきながら敢えてカルブンクリスはニルヴァーナ達にも教えておかなかった、しかしこれが好機だとみたカルブンクリスは竜吉公主とウリエルとにその情報を開示し、ここにこうして現れた―――…
{こうしてお互い顔を見せるのは初めてじゃな…覚悟は好いかえ。}
「随分とお似合いですのね、竜吉公主―――普段は滅多と相好を崩さないあなた様がこのわたくしに向ける嫉妬とも取れるような表情…あなた様もどうやら―――」
{気は、済んだか…手負いとは言えうぬに後れを取るものと思うな!}
竜の体表を覆う“鱗”の中に、一つ“逆”向きに形成されているのがある。 それを『逆鱗』と呼び、それに障られた竜はご多聞に洩れず激しく怒り狂えると言う。 然してその時の竜吉公主も何が障ったものか―――“
{落ち着きを、公主殿…怒れる処は判りますが、怒りは我を失わせる―――あなたの供にと付いてきた私は、いわばそうしたあなたを引き留める役を担っているのです。}
「フ・ン―――こちら1人に対し2人がかりなんて…恥ずかしくないのかい。」
{普通の相手なら何も私も手出しをしようとは思わない、だが―――お前は魔王をも狂わせる権能を有している…と、思われなくもない。 それに公主殿は病み上がりなのだ、ただその怒りのみだけで戦場往来を果たした―――そうは思わんか。}
{ウリエルよ、お主は妾を戦力外とでも言いたいのか。}
{おや、違いましたか公主殿。 あの者達によって救い出された時に酷く衰弱なさっていたことを私は聞かされている、まあ、あなたの魔王憎しの感情を
{そうであったか……判った、ならば
〖聖霊〗の竜吉公主と〖神人〗のウリエル、この二者は所属している勢力は違わせていてもカルブンクリスが企てた叛乱に勢力間を越えての協力支援をしてきた同士でもありました。 だからこそ聞き分けられる事もある―――この時ウリエルが発した言葉もすんなりと受け入れられたのは、それまで彼女達が育んで来た“絆”があったからこそではなかったでしょうか。
{フッ―――公主殿より許可は得た、これから私が相手しよう。}
「くうぅ…あと少しの処で!」
{残念だが、お前のその願いも―――そしてお前を背後から操っていた者の野望も叶う事はない……≪雷帝の
「ぐうう…ま、まさか天使の力がこれほどとは!」
{ウリエルよ…よくやった。}
「(な)竜吉公主?な…なぜお前が―――」
{気付かなんだかニュクスよ、
≪結跏趺坐≫―――とは、〖聖霊〗に古くから伝わる秘技の一つであるとされており、結界を構築したりまた封印を施す際によく用いられるとされている…然してそう、この時竜吉公主がこの場にいたのはニュクスを封じるために神仙族でも“秘中の秘”とされている『封神術』を行使する為だったのです。
* * * * * * * * * *
そして
「む・ん?何者だキサマら…」
「魔王ルベリウスとお見受けする、その
「なんだと?!うぬう…それにしてもニュクスは何をしておる!ベサリウスは!?早うきてこの狼藉者共を排除せよ!」
「来やしねえよ…そいつらは、あの憎き総参謀は作戦会議室にはいなかった―――旗色が悪いとみてとっとと尻に帆を撒いて逃げ出したんだろうさ。」
「なに?!ううぬ―――折角余が目に掛けてやったというのに、あの恩知らずめが!」
「それにニュクスなる魔性の女は、この玉座の間の前で私達を待ち受けていたようでしたが…」 「そこへウリエル様と竜吉公主様とが駆けつけて下さって、今頃はあのお二人が相手をしている事でしょう。」
「何だと?『ウリエル』に『竜吉公主』―――おのれ忌々しい…それに竜吉公主と言う事は〖聖霊〗か! ええい…こう言う事になるなら徹底的に〖聖霊〗のシャングリラを叩いておくべきであったわ!」
「後悔した処でもう遅い、それに我等は私情によってこの度立ったわけではない!まだ気付かぬのかルベリウス……私達を立たせたのは民衆達がそうさせたのだ―――!」
『暴君』は荒ぶる…この世の総てが自分であり、自分がこの世の総てだ―――と言った曲解がそうさせたからなのか、反徒達に刃を手向けられたとしても何一つ省みる事をしなかった、そしてつい口から吐いて出る言葉…なにもニルヴァーナ達も政権に対して抗うつもりなど毛頭もなかった、なのに主導者により現状を見させられた。 地方では犯罪が横行しその取り締まりも苛烈を究めていた―――ある事案で空腹の余りにお供え物に手を出した
ならばこそ、誰かが立たねばならない―――そうしてカルブンクリスはニルヴァーナ達と共に叛旗を翻したのです。
≪
≪ファイナル・ストライク;オンスロート・カプリッツィオ≫
四人による同時での強力な“技”を受けて、魔王の体躯は地に沈みました…沈みました―――が…
「やったな!ニル、これで私達は大業の一つを成し遂げられたんだ。」 「ええ、これは誇るべき事、晴れて皆が幸せに平穏に暮らせる世が戻るのです。」
「「……。」」
「どうした?ノエル、何を警戒して―――」 「それにニルヴァーナ、あなたまでも…」
* * * * * * * * * *
{今頃はあの者達もルベリウスを
「ふっふっふ、めでたい人達だねぇ…」
{うぬ!公主様の術を以てしても未だ封じられぬとは。}
{心配をするでないウリエルよ、それだけ
「『魔王』てのは、そんじょそこいらの魔族とはちょいとワケが違う…あなた様方も忘れたのかい、『魔王』はその肉体が
{そんな情報を一体どこで…まさか本人からか!}
「フフフ…ご明察だ、よ天使様―――」
{うぬの
「ふふふっ…わたくしはザアンネンだよ、竜吉公主にウリエル。 わたくしは公主のこの術に抗うすべを知らない、だから行く行くはこのまま封じられるんだろうさ。 だがねようく覚えときな、こうした封印なんぞは経年劣化で朽ちる時が来る…そして封印が解けた時どう言った世の中になっているか、愉しみだねえ! 心してて置く事だね神仙様に天使様、あんた達が施した封印が解けた時、わたくしは世情がどうなっていようが必ずや“闇”から這い出て来よう…そうなる時を心待ちにしておくんだね。」
今の魔界の状況を創り出した
確かにニルヴァーナ達は渾身を込めての“技”を放ちました。 そしてそれら総てを受けて地に沈む魔王の体躯…これが普通ならば『魔王討伐』は完遂した事となるのですが……リリアとホホヅキはこの戦いが終わった―――とする反面、ノエルとニルヴァーナは。
「どうした?ノエル、何を警戒して―――」 「それにニルヴァーナ、あなたまでも…」
ノエルは忍―――故に“残心”を怠らなかった、忍はある意味標的を必ずや殺さなければならないこともあるから“万が一”の事が起きてはならない…自分が止めを刺したつもりでも、“万が一”が起きて復活してしまう危険性を考慮したのです、そしてそれはニルヴァーナでも…とは言えニルヴァーナはそうした技術を持っていないため“残心”の事は判らないでいたのですが、彼の自身感じてはいたのです、『果たして自分達で討ち果たせたのだろうか』と…。
すると―――
「(…)どうやら無事、肉体の破壊までは済ませたみたいだね。」
「カルブンクリス―――?なぜそなたが…」
なぜか、いつの間にか、この場に自分達の盟主もいた―――しかしながら、いただけならばまだしも耳を疑う様な事実が盟主の口から洩れてきたのです。
「聞いていた通りだったようだ。 『魔王』は、肉体を滅ぼすだけでは、
「カルブンクリスさん、あんた…何故そんな事を。」 「いえ、それよりそんな重要な事を私達に告げずに?」
「言えば果たして君達はこの大業を成し得てくれただろうか、重要な情報を伝えなかった私にも非はある、けれど肉体の滅亡を踏まえずに
「よせ―――そなたが敵うはずが……」 「そうですよ、あなたは本来後方に収まって私達を“駒”の様に手配して動かせるのを得意としていたはず…現場でもこの私達でさえ苦戦した相手を、どうしてあなたが!」
「確かに…私は今まで後方に収まって君達の戦果を待ち侘びている事しかしなかった…いや、出来なかったんだ。 何故だと思う?」
「まさかカルブンクリスさん…あんた、『魔王』を
「そうだともリリア―――私もただ君達の戦果を待ち侘びていただけじゃない、この時の為に色々準備をしてきたさ。」
「まさか―――アレを?!」 「なんだ?ニル…お前、何か知っているのか。」
「ああ知っている、盟友は『錬金術師』ゆえに様々な発明をしている、その内の一つがアレだ!」 「『指輪』?指輪…ではありませんか。」 「あの『指輪』に一体何が―――」
「私の種属は蝕神族だ、そう“神”をも“
こうして―――【
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カルブンクリスの集めた英雄達の働きにより、混迷と化したこの時代にも終わりが来ました、これからは魔界に暮らす民達の誰もが快活に笑い、差別が行われず、何にも束縛されない自由な行動が出来るようになるでしょう。
そしてこの物語の締め括りは―――…
『英雄達は数多の困難を切り抜け、終には諸悪の根源を断ち切り、世を低迷とさせた悪しき魔王の時代は終わりを告げました。 そして魔王を討伐した英雄達は、混迷から世を解き放ち、
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