第25話 “闇”の衣
【
「(……またか―――それにしてもこんな時に騒ぎ出してくるとはね、ここ最近は大人しかったと言うのに。 いや、こんな時だからこそ―――か…)」
カルブンクリスは、〖昂魔〗の蝕神族出身でした。 けれどこの種属は彼女の
しかしそれでは彼女以外の一族は…?戦乱や争乱の果て、果てまたは内紛の所為で彼女以外が全滅―――? いえ、そうではなく彼女だけが蝕神族なのです。
それがカルブンクリスが『魔界の
『蝕神族』―――『神』をも『
けれど彼女はそんな素振りは一向だになかった、すぐ側近くにいる無類の強者達を
けれど彼女はそうしなかった、なぜ?また……?
* * * * * * * * * *
それは、ある存在との邂逅により―――
その時一匹の蝕神族は非常に《とても》お腹を空かせていました。 目に映る―――肌身に感じる―――総ての者を捕えて
「ふむ…なにやら外が騒がしいと思っていたが―――何用かね、お客人。」
未だ、人格すら定着していない―――言わば
―――“少女”? ――――“老獪な男性”?
「ふむ……どうやら他人と言葉を交わすのは初めてと見受けられる。 だが、その様な事は些末な事だ、この
「(言ッテイル事ガ、判ル…何ヲ 言ワントシテイルカ 判ル……何者ダ、オ前、ハ―――)」
「フッ、この
明確な、言葉は発してはいない。 だのに“こちら”の思案している事を的確に捉えられてしまった…それは一匹の蝕神族にしては畏るるに足る出来事でした。
しかし、その“
「
「(【
その、“
『
あの頃の“私”はただ
「(ふむ…
ジィルガもその噂だけは耳に入れていました。 ここ〖昂魔〗の領域で
「―――いかが…かね?」
「ア゛……あ―――喋 レル? ナニを した?」
「なに、大したことではない。
その時“私”は衝撃を受けた。 今までは断片的に…いやそれですら叶わなかった事例により短慮を発せさせた“私”が
それから“私”は暫くその存在―――ジィルガに厄介になる事になった、それまでの“私”はまるで
「ふむ、こうしてみると既に一介の婦女子ではあるな。 それにこれからは『おい』とかでは相応しからぬであろう。 故に
「私如きの為に名前を与えて下されるとは…感謝の念に堪えません、我が師よ―――」
「
「ここ数百年間徹底的に扱かれましたからね、ええよく理解していますとも。 あなた様の教えにはいつも『飽くなき知への
「ふ・ふっ―――よくぞ言った我が高弟よ、ならば最早投げ掛ける言葉なぞ要るまい、疾く征け―――そして
* * * * * * * * * *
「(思えば、あの頃は蝕への渇望は噴出せずにいた―――それは私自身がそれで満足をしていたから…飢餓感を感じずに常に満腹感を感じていたから…だとしたらなぜ?なぜ今にして蝕への渇望が!?)」
『蝕への渇望』―――それは、カルブンクリスが
それは勿論『魔王』も例外ではなく―――…
「(はっ!な…なにを考えているんだ、私は! だ…だか確かに私の内にはあの方を―――『魔王』を
ソレニ―――アノオンナ ノ ナント オイシソウナ コトカ ……
その“味”を知っている―――からこそ、自身が敬愛して已まない魔王の側に侍る不祥な女の“味”を知っているかのようだった……
けれども、彼女のこの渇望について知っている者など仲間内にもいなかった。 それに今この事を知られでもしたらこれまで築き上げてきたものが“ご破算”になる可能性もある―――だからこそカルブンクリスはあらゆる可能性について手当たり次第求めました。 それはもう―――ありとあらゆる……
書物や文書に残されているものは“与太”であろうが“漫画”であろうが“都市伝説的”であろうが、手当たり次第お構いなく。 それはもう、『藁にも
「(で、出来た!? これは…何と言う奇蹟か、私も一縷の希望を託して研究に励んだ成果が、ここにこうしてあると言う―――これを奇蹟と言わずしてなんであろうか!)」
それこそが『指輪』―――彼女自身の、『蝕の渇望』を抑えさせる魔道具。 彼女自身が
なのに―――なのに…この指輪をしていても湧き上って来る『
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてニルヴァーナ達は―――『城門』を突破し、『中庭』…更には『大会議室』までを占拠するに至った。
そして待ち構えるのは【四天王】―――“
「これで―――終わりだな…ノエル大丈夫か。」 「(く…)この程度、問題にもなりませんよ。」 「私もそれなりには回復の祈祷を扱えますが、ここにきてローリエを失ったのが大きく響く事になろうとは。」
「ホホヅキ―――今ここにいないヤツの事を嘆いても始まらない。」 「リリア―――そんな言い方って!」
「事実は事実だろう!確かに王女サンの回復魔法には助けられてきたさ…これまで何度となくな!けど……」 「(リリア―――)すみません、私が…」 「もう、自分自身を責めるのはよしましょう。 なにより今一番自責の念に駆られているのは私自身なのですから。 それに―――…」
「ああ、これが最後なのではない。 我等が打倒すべき存在はあともう一人残っている。」
ここに来ると最早誰もが傷を負っていない―――と言う様な絵空事はありませんでした。 全員が満身創痍―――ノエルも『問題にもならない』と
けれどもこれで魔王の近侍は片付けた、あと残るは『魔王軍総参謀』と『魔王』―――のみ?
「(むっ?)あの女は―――…」
「おや、随分と遅かったようだねえ。 ここに辿り着くまでに道草でも食ってたとでも言うのかい。」
「お前……どこかで見た顔だな。」
「ああそうだろうさ、なにしろこの
「(…)そう言う事でしたか、私が以前見かけたと記憶しているのは魔王軍総参謀とあなたとが密会をしていた―――と言う事は、『魔王』は…魔王様はあなたに?!」
「どぉーうだろうねえ~?そこはあんた方の足りない脳を寄せ集めて考える事さ。」
「“否定”―――をしませんでしたね。 なれば限りなく“黒”に近しい“灰”と見るべきでしょう。 それになぜこのような事を…この
残るは2人、『魔王軍総参謀』と『魔王』を
「(フ・フ―――それにしても何て心地よい感覚だ…このお嬢ちゃん達誰もがわたくし憎しに燃えている、この
それが、“始まり”の合図でした。 その合図をきっかけに【緋鮮の覇王】が、【清廉の騎士】が、【神威】が【韋駄天】が打ち掛かって行く―――そこには当然一切の容赦はありませんでした。 ありませんでした……が―――
「(な……なんだ、こやつ―――)」
「(わ…私達の奥義が効いていない?)」
「(それどころか反撃を喰らってしまうなんて…ッ!)」
「(どうやら、只者ではないようですね。)」
叛乱軍の主戦力であるニルヴァーナ達が束になっても敵わなかった、それ程までにニュクスは強かったのです。 それにニュクスが発動させた≪
しかし―――ニュクスにしてみれば彼女自身の眼前に収めさせた光景は、彼女の願望には程遠く……
「(こ、これは―――なんて事だい…今まであの男の軍隊を退けさせてきた実力を持つ者達が、このわたくしの…このわたくしの権能で?)」
ニルヴァーナ達も手加減をした覚えはない、50年前から
「(…く!)ふざけんじゃないよ!人を散々期待させといて蓋を開けてみりゃこのわたくしにすら敵わないってかい! あんた達なら…わたくしの願いを―――わたくしの為に死んで逝った
「(何を…言っているのだ…一体。)」
「(私達に勝っときながら“涙”―――?)」
「(それに、あの女の為に散って逝った生命があると?)」
「(ならば私達の体たらくとは―――)」
彼女は―――ニュクスは
あと“一歩”―――あと“一歩”と言う処で強力な者の前に
「(な―――カルブンクリス?)」
「(い、いつの間に―――)」
「(一体いつから…それに、竜吉公主様やウリエル様までも。)」
「(わ、私達では
しかし、カルブンクリスは率先して戦場に出る手合いではない、これまではニルヴァーナ達を自分の手駒の様に動かせるために後方にて指示してきた…のに、ならばなぜ―――
「(な―――なんだ、この女は…このわたくしよりも、いやヤツよりもドス黒い情念…“闇”を抱えているなんて!?)」
ニュクスが発動させた
それにしても―――カルブンクリスが『“闇”の属性』?
「お前と直接対面するのはこれが初めてとなるね。」 「(…)ああ―――そうだね…。」
「私も、お前の事を調べていく内に色々な事が判って来た。 ルベリウス様の側に常に仕え、
この、発言を聞いてニルヴァーナは“ハッ!”としました。 いつもは自分達を『君』だとか『君達』としか言わなかった者が、その女に対してだけは『お前』と呼んだ―――些細な違いかもしれませんが、そこにはそれだけカルブンクリスの“
「フッ、随分な言われ様だねえ。 だが確かに、あんたの言うような事はしてきたさ、だけどね、あの男がしている事はあの男自身が選択した事さ。」
「なんだと!?そんっ―――…」
「―――と、わたくしが言ったら、あんたはどうするんだろうねえ。」
“問答”が始まった。 “問”いはあっても“答”え無き問答が―――それにカルブンクリスには、その“答”えまで導くだけの材料が足りていない。 だから―――つい…
「(な…なんっ、なのだ?アレは―――!)」
「(あの人から滲み出る…“闇”―――)」
「(あ…あれは、触手?みたいなものが何本も―――!)」
「(わ…私達が信じてついて来た人が、よもや―――得体の知れぬ者だったなんて!)」
“ぬるり”“ぬらり”とカルブンクリスより
「『私はどうする』?もういい…考えるのは止めだ―――このままお前を…」
―――しかし―――
「そこまでにしておき給え。」
また―――いつからそこにいたのか判らない存在が一人…けれど妙なのは。
「(何だ…あの存在は!)」
「(可愛い少女の様に視えるけれど…)」
「(声が渋い
「(な、なんと珍奇な―――)」
一見して少女に視えるのに、声は
「師―――しょう…」
「(『師匠』?そう言えば我が盟友は私と交流を始めた頃、盟友自身の師の事を伝えたことがあったが―――それまさかこの御仁…)そなた、〖昂魔〗は不死族の【
「ほう、紹介もせずに
突如として湧いて出てきた少女の身形をした者こそ、【
* * * * * * * * * *
では―――ジィルガはニルヴァーナやカルブンクリス達が去った後で何をしたのでしょうか。
「さて、異界よりのお客人―――少し話しを、いいかね?」 「(…)わたくしを、『ラプラス』と知って尚?何が目的なんだい。」
「
「『あの男』―――とは、ルベリウスの事か。 フッ…やはりあ奴は
「傍迷惑な話しだ…だが、同情してやる余地は残されておるようだな。 それで―――?」 「あの男―――ルベリウスって奴にもわたくしの事情を話したよ、そしたら奴さんなんて言ったと思う?」
「この状況を鑑みるに至っては聞きたくもない答えのようだな。」 「だろうねえ―――わたくしだって当事者の立場になけりゃ、あの
「だ、が―――
「なるほどな、概ね把握した。(それにしても溜っていたのであろうなあ…単なる
ジィルガにはある懸念がありました。 その懸念とは―――カルブンクリスの本性は、封じ込めていたわけではない事…
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