第15話 不祥な女の蔭
突如として
当初から神仙族を束ねる女媧は、魔界の現政権である魔王ルベリウスに対しては恭順な態度を示していました。 ―――で、あるのになぜか…
それに女媧も、このまま―――為すが
「(ここは抗うだけ抗ってみて、局面を見計らった上で講和に持ち込むのが次善じゃな……)」
後手に回ってしまったのは否めなくもない、しかしこのまま為す術もないままに蹂躙を受け入れてしまうのは余りにも利の無い話し―――しかし
とは言っても、相手は『魔界最強の軍団』―――魔界各地から選りすぐりの戦士達を寄せ集め、その構成を以てしても『
それに神仙族の戦況も思わしくなく、連日に
その事に対し遺憾を表明するも、このまま黙っている女媧ではありませんでした。 このまま“ずるずる”と戦局を長引かせていては、いずれ
果たして―――結果は“吉”と出ました。 二郎真君以下100の精鋭の反転攻勢のお蔭もあり、
しかし―――片や魔王軍としては面白くもない話し、今回の出師では力攻めだけで勝てるものと思ったからなのでしょうか、指揮官もまたそうした考えの持ち主だった…だからこそ無用な犠牲が増えるばかりだったのです。 だからこそ―――
「(
ベサリウスは、『戦の流れ』と言うものをよく理解していました。 確かに強軍を以て相手を殲滅するのは理想的な話しなのですが、今回の場合はそうではない―――言ってみれば今魔王軍が攻撃をしているのは同じ魔界に存在している勢力でもあるのです。 そう、大きな括りとしてみれば同じ世界に居る存在…魔界に住まう魔界人でもあるのです。 そうした者達を何故か今回魔王ルベリウスは攻撃するよう下命した―――当然のことながら現場も同じ魔界人と殺し合うのは善しとはしていない為、混乱が生じようとしていました。
けれど“現実”はそうではない―――…だとするならば、魔王軍に何が起こっていたのでしょうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回の〖聖霊〗―――神仙族の本拠シャングリラを攻めるように命令を受諾たのは、“
それを受けて到来したのが―――
「(む・ん?)何用だ―――女…ここは魔王軍、女独り身の存在が出入りしていいものではないぞ。」
「あら…これは―――流石に軍律には厳しい方であると、さある御方より聞かされておりますれば。」
見たこともない…女だった―――この
“妖艶”―――と、未来にそう伝えられる女の美貌…いつしかギャツビーも、その女の艶美に溺れ、酒にも呑まれてしまう始末…そして一度は断ったハズの命令も、唯々諾々として
「(フ・フ・フ―――
この時、その女は“
その事実を一部の情報提供によりベサリウスは知っていました。 それに彼にしてみればいい機会だった―――この度捕縛した叛乱軍の指揮官と見られる者が、よもや大恩ある人物だったとは…彼にしてみれば考えたくとも考えたくはない懸案事項だったのです。 だから過度な尋問や拷問などは行わずに『放置』を決め込んでいた、もし上層部が怪しみ出して虜囚に危害を加えようとするならば―――その事も織り込み済みで彼自身の部下にもよく言い含めさせた上で処置の方を済ませ、急遽この戦場へと駆け付けた…
「(ヤレヤレ―――正気の沙汰じゃねえ…旦那、あんた判ってんですかい?今魔王軍が攻め立てているのは、あんたの国民でもあるんですぜ、それに攻め立てるならそれだけの理由も用意しなくちゃならない…況してや神仙と言やあ、この
後詰として駆け付けた“軍師”や“参謀”がやる事は一つ、それは軍全体の状況の把握でした。 今自分達は“何”と戦っているのか―――それに“何”の為に戦っているのか…それを
「(ま―――なんて言っていいのか、連中何で自分達が神仙を攻めているのか判っちゃいねえ、ただ上からの命令を遂行してるだけだ。 んが…その事自体は間違っちゃいねえ、上官からの命令に従わないてのは軍律でも大きな罪になるって事だしな。 だけど、理解しちゃいるけど納得まではしちゃいねえ―――それが事態の進行を遅らせてるって事ですかい。 その事はいいとして…問題はこの軍の司令官であるギャツビーだ。 確か奴さんは愚直で知られちゃいるけど分別までは間違えちゃいない…報告ではルベリウスの旦那からの命令を一度蹴ったって言うしな。 しかし…その事を受けて旦那からの使者が到来した―――変調をきたしたのはその使者を受け入れた後となっちゃいるが…)」
そう、ギャツビーが今回ここまでの事をするのは考えにくい事とし、この出師前後の関係を洗い出したのです、すると浮上してきたのは魔王ルベリウスからの意向を受けてきた者を受け入れた時点でギャツビーが変わってきた事が判明したのです。
そしてギャツビーを聴取してみた処……
「一体何用だ。」
「初めてになりますかね、司令官殿。 オレはこの度魔王ルベリウス様より総参謀を拝命したベサリウスってもんです。」
「ふん…戦働きではなく
「そう言う訳にゃ行かないんですよ―――閣下。 一応こちらとしましてもですね、魔王様より閣下を手助けるよう仰せつけられたのです、ですので係る上は閣下の気の赴くままにオレの策略をお使いなさいませ。」
「う、むむう…“閣下”―――のう……あ、いや判った。 魔王様よりの命令とあらば聞かぬわけにもいくまい、それに神仙如きに時間を割いてばかりはいられまいて。」
「(ふっ…チョロいもんだ、ちょいと『閣下』と
もしここに自分の大恩ある方がいたらどうしただろう―――この最悪の状況の中に駆け付けた自分の意を汲み取り、いい具合に廻してくれたに違いはない…ただ惜しむらくは、自分の大恩ある方は自分のこの手で捕縛し、魔王軍に囚われている……ここは自分の裁量で切り抜けなければ、今後の魔王軍―――いや魔界の将来は見込めない。 そうした思いを胸に秘めベサリウスは軍議に挑みました。
* * * * * * * * * *
一方その頃、女媧は事態を把握しつつありました。 何故―――
それが―――…
「なんと、公主が?」
「はい―――公主様は現政権の余りの変わり映えに思う処がございまして、単身にて内偵を進めていた模様なのであります。」
「なんと……して、内偵自体は吾らにも内密の下に―――とな?教主よ。」
「然様で―――儂もここ最近公主の動向に目を向けませんでしたからな、それに…」
「むう―――あの者は
「あまり考えたくはありませんが…魔王様の手に落ち、尋問を受けたとすれば或いは。」
「それも考え難い事よ、あの者がそう簡単に口を割るとは思えぬ。」
「では、死を以て擬態が剥がれたものとでも?」
「それは、まずない―――ぬしら神仙が死せればどうなるか判っておるじゃろう。」
「そうでしたな…
「うむ、最悪
竜吉公主が単独行動に
そう―――神仙は、その長である女媧から産み出された…そしてそれぞれが与えられた役目を全うして行き、その上でもし死んだとしてもその魂魄は不滅であり、またその拠り所を求めて本来あるべき場所…それが女媧の胎内だと言うのです。 それから一度死した魂魄は女媧の胎内で洗浄され、また新たな神仙としての役目を
ただ、今回に限って言えば竜吉公主はまだ存命―――その事は女媧がよく心得ていたのです。
しかし判ったところでどうする事も出来ない、今は魔王軍からの猛攻をどうにか耐え凌ぎ、機会を伺うしかないのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話しは変わり、現在より10年ほど前―――ある不詳の女が魔王ルベリウスを訪ねてきました。
「何だ、お前は…我輩に用でもあるのか。」
「これはこれは、お初にお目にかかります魔王ルベリウス様。 わたくしはしがない女―――“
「そのことは判った、それで…?我輩もお前のような女に
「ですれば…このわたくしが魔王様の扶助の担い手になってご覧に入れましょう。」
「何が目的だ女……我輩の側に登用されたければちゃんとした手続きを踏め、それをせず我輩の側近くに侍ると言うのならば―――」
「ククク…フフフフ―――」
「何が可笑しい、女。」
「流石は―――と言った処か、この程度の
「ほう…この我輩を『
「『ようだ』―――じゃなく、敵そのものさ。 だけど勘違いするんじゃないよ、確かにわたくしはこの世界を侵攻するよう命令された…だがね、わたくしにはそんな意思はこれっぽっちもない。 だけど ―――“敵”…これがどう言う事だか、あんたには判るよね。」
その、ルベリウスの
「(この女…我輩が治めるこの地を侵略する意思がない―――と言うのに“敵”である事を否定しなかった…どう言う事だ、侵略する意思がないのに我輩を籠絡させようとしている。
…そう言えばジィルガが言っていた事があったな、『この世界を侵略しようと企てている不確の存在がいる』と…よもや―――この女が?)」
* * * * * * * * * *
この
それに『魔王軍』―――その存在自体も
何より悪い事にその事実はルベリウスが魔王に登極してからすぐに知れる処となりました。
「(我輩も永きに亘って軍の要職に就いておきながら、こんな重要な事を知らないでいたとは…)」
ルベリウスは自分を魔王に推挙してくれた恩はありながらも、すぐさま〖昂魔〗の長であるジイルガに問い
「ジィルガよ、我輩を魔王に推挙してくれた事、大変感謝しておる―――が…これは一体どう言う事だ。」
「ふ…どうやら知ってしまったようだな、『不都合な真実』と言うものを―――いかにも、この事実は事実であるが故に、民草に広く知られてしまえば混乱の
「ぬ…う―――我輩が何故魔王に強く推されたのか不思議に思っていたが、よもや先代は……」
「果たしてくれたよ、魔王としての責務を。 しかし、あやつの生命と引き換えに―――それが精一杯であった…さて、気分を害するようなモノさておき、ルベリウスよ汝はどうなのだ?『不都合な真実』を突き付けられて性根が挫けでもしたかね。」
「見くびられては困る、我輩も“
「頼もしい限りだ、ルベリウス…しかしだな、相手を侮ってはならぬぞ―――今でこそ『不確の存在』と銘打ってはあるが、どうやら彼の者共は多少の知恵が回るらしい…ワレらとはまた違う知識―――と言うべきか、故にこそ油断が大敵である事を知るがよいぞ。」
自分が抱いていた疑問をそのままぶつけてみた―――するとジィルガからは意外とも思える返答が。 臆面する事無く彼女自身5000年間ずっと見続けてきた事をありのままに話し始めたのです。
それこそが“
* * * * * * * * * *
話しを戻すとして、素性の知れぬ『不詳の女』と対峙しているルベリウスは、この女こそ〖昂魔〗の長が言っていた存在に違いはないと確信していました。
「なるほどな…お前がそうだと言うのか―――お前こそが、我輩が魔王登極以前から魔界を騒がしている『不確の存在』であると言うのだな。」
「…ふ、どうやら認識の差に違いがあるようだね。 ああ、確かにわたくしはあんたの言う様な『不確の存在』ではある…が、わたくしがこの世界に放り出されたのはここ最近の話しでねえ。」
「なんだと?」
「全く、割に合う話しじゃないってなもんさね。 こちとら、元の世界で悠々自適にやってたって言うのに、いきなり上の方から頭ごなしにある事ない事を吹っかけられて、それで反発して今やご覧の有り様さ。 “否”“応”なしにお前はこの世界に行け―――その際多少の犠牲は
確かに、
「よかろう、女よお前自身に思う処など何もないが、その心意気に免じ決闘を申し込む。」
「案外、お人好しな魔王もいたもんだねえ……」
「女よ、決闘の前にお前の名を名乗るがよい。 我が名は魔王ルベリウス―――」
「わたくしは…『ニュクス』―――こんな身でも元の世界じゃ【夜の世界を統べし女王】を張ってたものさね。」
その不祥の女の正体こそ、後世の歴史書などで『随一の悪女』として捉えられているあのニュクスなのでした。
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