【業務】 - 逝去による退職
訃報。
あまり目にしたくはない文字だ。
家族、親族、友人、知人。
それから、一方的に知っている、芸能人、有名人、スポーツ選手等。
悲しい、寂しい、辛い。
そんな感情とセットになっている文字。
ところが。
業務が絡むと、話が変わってくる。
異動してきたばかりの頃は、それでも、目にしたとたんに胸が重たくなるような感覚があった。
たとえそれが、他社の、話したことも会ったことも見た事もない、顔も知らない人だったとしても。
人が亡くなるというのは、そういう事だ。
そういう事だった。
「あー、また死んじゃったよ。」
「えー?今月2人目?多くない?」
J会社の社員が亡くなると、全社連絡の前に、第一報が人事部内に共有される。
それはなぜか。
ご遺族へのご案内の各種書類の作成や、各システムへの登録作業が発生する為だ。
月例外の業務の発生となる。
おまけに、各業務横断でとりまとめる必要もあり、作業はかなり煩雑だ。
業務を受注している我々は、即取り掛からなければならなくなる。
結果。
前述のような会話となってしまうのは、致し方ない。
ご遺族の立場に立ってみれば、言葉も出ない程の酷い話だろうとは思う。
それでも、だ。
我々業務受注側の社員としては、マニュアル通りにシステムへ登録し、マニュアル通りに書類を作成し、マニュアル通りにご遺族へ書類を発送する。
ご遺族から書類を受領した後は、やはりマニュアル通りに各種支払を行い、所定の手続きを行うのみ。
そこに、感情が入り込む余裕など、無い。
ある程度の規模の会社であれば、どこも同じようなものなのかもしれない。
でも時々、空しさを感じてしまう。
心に余裕がある時には、申し訳なさを感じる事もある。
自分も含めてだが、皆、悪気がある訳ではない。
ただ、粛々と己の業務をこなしているだけだ。
ご遺族から受領する書類の中には、特定の支払いに必要な書類のため、「死亡診断書」または「死体検案書」が含まれている。
私は、なるべく詳細については読まないようにしている。
異動して間もない頃、何気なく読んでしまった「死体検案書」の記載内容にショックを受け、その後しばらくの間、重たい気持ちが払拭できずにいたからだ。
生きている限り、死は常に側にあって、それは自分も例外ではない。
もしかしたら、1分後に死んでいる可能性だって、ある。
だからと言って、常に【死】に囚われたまま生活することなんてできない。
それこそ、精神を病んでしまう。
だから私は。
シャットアウトする。
J会社社員の訃報は、私および我ら業務受注側の社員にとって、単なる【逝去による退職】業務の始まりに過ぎない。
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