第2話 国外追放、そして



「グスッ……うぅ……グスン、ズズッ」



僕は今、吸血鬼と一緒に馬車に乗せられ、ちょうど国境線を出たところだった。夜の間に移動しなければならないということで、すぐ支度をして城から出た。



隣国との間には荒野が広がっており、吸血鬼曰く、自分の城がその奥に建っているらしい。そういう噂は聞いたことがあったが、貿易の際も荒野に立ち寄る人はいなかったので、伝説みたいなものだと思っていた。



「いつまで泣いているのだ。いい加減諦めないか」

「だって……僕……家に帰りたい」



18歳の男子がいつまでもメソメソ泣いているのはみっともない。重々承知だが、恥ずかしい気持ちなど起こらないほど僕は絶望していた。


馬車は王族お抱えの行者が操っている。僕たちを送り届けたらそのまま国まで戻るのだと、お父様を話しているのを聞いてしまった。僕は家族から、国から、本当に捨てられたのだ。吸血鬼の城に近づくほどそれが実感に変わる。これが泣かずにいられようか。



吸血鬼は僕の隣に座っている間、何をするでもなく、無言で外の景色を見ていた。しかしいつまでも泣く僕を煩わしく感じたのか、今はこちらを向いている。



「ウィリー、泣いたってどうにもならないぞ。私は取引をしたんだから」

「わかってるよ……どうにもならないってわかってるからこそ、泣いてるんじゃないか!!」



反抗したら殺されるかもしれない、と頭では思いながらも、ヤケクソの僕は吸血鬼に対してタメ口をきいている。怒られるかと思ったが、苦笑いを浮かべただけだった。



「……まあいい。存分に泣け。現実は何も変わらない」



その言葉の意味を理解するやいなや、僕はさらに激しくむせび泣いた。

この際、吸血鬼のことは二の次だ。できの悪い子供だからと言って、あっさりと姉の代わりに捨てられたことに、僕はひどく傷ついていた。





城は古びてはいたが立派な建物だった。僕たちが馬車を降りて地に足をつけると即、行者は挨拶もそこそこに国へ逃げ帰ってしまった。僕の目に再び涙がにじむ。



「みんなひどいよ……僕のことがいらないっていうのか」

「お前は何も悪くない。私が脅したから、仕方なく従ったまでのことだろう。理解してやれ」



隣に立つ背の高い吸血鬼が突然なぐさめるようなことを言うので、驚いてその顔を見上げた。



「なんだ、目を見開いて」

「いや……びっくりして。僕、あなたに殺されるんじゃないかと思いながらここに来たから」

「殺す? お前は広間での話を聞いてなかったのか?悪いようにはしない、と言っただろう」



危害を加えるなんて心外だというように顔をしかめるので、僕は少しだけ警戒心を解いた。そういえば確かにそう言っていた。なぐさめてくれるし、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。どうせ二人きりなこの状況では、僕はその事実に救いを見出すしかなかった。

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