第35話 35、川洲花国陥落
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雲のないある夜、航空母艦から燃料を補給しながらはるばる飛んで来た1000機の熱気球は5発の大型焼夷弾を積んで都市の高空に飛来し風上から5000個の焼夷弾を城壁の内側の町並みに沿って落として引き返した。
3時間後に1000機の熱気球は都市に再来し火災前線の手前1000mに沿って焼夷弾を5000個落として引き返した。
さらに3時間後に1000機の熱気球は再来し風下の城壁の内側の町並みに沿って5000個の焼夷弾を落とした。
この時間では既に火災旋風が起っており自然の風向きとは反対の城壁の外から城壁の内への風向きになっていた。
更に3時間後に1000機の熱気球は飛来したが投下する場所がなく引き返した。
城壁の内側の10㎞の領域は炎に包まれていた。
強烈な放射熱で近づくことができず、たとえ高空であっても熱気球では入り込むことはできなかった。
翌朝、偵察の熱気球は都市はなお火災に包まれていることを伝えた。
石造りの建物を除いて全ての家屋が焼失したようだった。
数カ所で爆発が起った跡も観測された。
火薬の貯蔵庫でもあったのかもしれなかった。
生き延びた住民は城壁の内側に逃れた者達らしかった。
城壁の上には兵士ではない住民で溢れていた。
都市中央の国王の城の建物は完全に燃え落ちていた。
広大な庭にあった樹木も焼けこげていた。
変らなかったのは庭に作られた人口の池と青々とした芝生であった。
水光は更なる攻撃を指示した。
1000機の熱気球に大型の爆弾を2発を搭載させ、2000個の爆弾で城壁を爆撃するように指示した。
城壁の長さはおよそ30㎞であったので、20m間隔で爆撃すれば爆弾は余るはずだった。
余った爆弾は城門と焼け残った石造りの建物を破壊するよう命じた。
2層の城壁は避難していた住民と共に崩れ落ちた。
城壁に並んでいた大砲も石と共に埋もれ、城門は通れなくなった。
水光は偵察の気球を残して気球を基地に戻し兵士に休息を取らした。
川洲花国の首都は住民と共にほぼ壊滅した。
残るは金鉱山と潜んでいるであろう軍勢であった。
少なくとも10万の騎兵部隊と戦車部隊が残っているはずであった。
水光は多くの偵察気球を広汎に飛ばせた。
そして金鉱山のある山の後ろ側の大河に接する地点に巨大な軍事基地があり、支流の上流の山裾にも大きな軍事基地があることがわかった。
二つの軍事基地は金鉱山を挟んであることになる。
金鉱山を守っているのであろう。
最前線の軍事基地には多量の弾薬と兵糧が運び込まれた。
弾薬は穂無洲国から新しく作られた広い道路を通って届けられ、兵糧は新たに属国となった国から供出された。
新たに属国となった国からは総勢3万の兵士が供出され穂無洲国の司令官の下に屯田兵部隊となった。
この屯田兵部隊は川洲花国の海岸線から軍事基地までの道路に沿って分散配置され道の周辺の町村を略奪襲撃して生き残る役目を与えられた。
部隊は自ら農作物を作り、食料や資金が必要となれば周辺の町村を襲撃した。
勿論、住民は皆殺しにした。
水光は2分隊を川洲花国の首都の調査に派遣した。
2部隊が互いに監視して行動するようにするためであった。
目的は豊かな町に眠っている金貨を奪うためであったからだ。
もちろん、生き残っている人間も殺すためでもあった。
国王の城跡からは多くの骨のかけらが見つかったが頭蓋骨も形を留めないほど完全に焼けて骨片となっていた。
夜間の攻撃であったので王を特定できる骨片は見つからなかった。
生き残って投降した大人も子供も乳児も少しずつ全員殺した。
子供と乳児は簡単に言葉を学ぶことはできるが生かしておけば後々の憂いになる。
殺害は城から離れた場所で密かに行われた。
城外に連行し、穴を掘らしてから殺した。
どんなに密かに行っても噂は広がるものだ。
しかし水光はそれでいいと思った。
抵抗すれば皆殺しになるという噂が広がる方が以後の侵攻が楽になる。
調査隊は驚く程の多量の金を見つけ出した。
金は火災には強い。
金貨はたとえ焼け溶けてもその価値は損なわれない。
それに金貨は一カ所に集められて保存されている場合が多い。
都市中央の国王の城からはほとんど変形していない大量の金貨が見つかったし、城の周辺の屋敷からも多量の金貨が見つかった。
大きな商家らしい家からも多量の金貨が見つかった。
小さな民家からも見つかった場合があった。
兵士達は必死に丁寧に調査した。
焼け溶けた金の小粒を隠しに隠すことができたからだった。
焼けこげた家々の木材は一カ所に集められ昼夜を問わず白い灰となるまで焼却された。
土器の破片も細かく砕かれ破片は城外に積み上げられた。
二十日間の調査で都市は更地に近くなった。
調査に加わった兵士は他の部隊の兵士から羨(うらや)まれた。
彼らは小金持になったからだった。
水光は集まった全ての金を国王の城の跡地に集め、大きく深い穴を掘って穴に埋め、埋め戻した後に水を引き込んで浅い池にし、金蔵池と名付けた。
それには多くの兵士達が動員され、皆が知ることとなった。
金を掘り出すのは簡単にはできなくなったし、身の周りにあらぬ疑いが生じないようにもなった。
一番利益を得たのは金の小粒をくすねた調査隊の兵士であったが、彼らは住民を皆殺しにすると言ういやな任務を遂行したのだった。
ともかく、城壁で囲まれた直径10㎞の井戸と排水溝のある更地ができた。
既に川洲花国は国としての体裁を成していなかった。
広大な国土に点在する町村の管理機構がなくなってしまった。
首都も国王も中央行政機構もなくなってしまった。
地方は独自で生きて行かねばならなかった。
それは巨大な富みを生み出す金坑組織と残存する軍隊も同じであった。
金を持っていても食料は得られない。
武器を持っていても糧食は供給されない。
水光は軍事基地を城壁内に移し、1㎞の巾を持つ城主の屋敷跡を中心に密集した基地を作った。
莫大な金を守らなければならなかったし、基地の周辺は平らな5㎞に亘って続く更地のために大砲攻撃以外は攻撃までに時間が稼げるはずだった。
この城の地形は良い。
将来的にホムスク共同体の首都になるのに適した位置だ。
城の周囲には広い土地が広がっている。
ホムスク共同体の言語を話す多数の人が住むようになればこの国の言葉も共同体の言葉になるであろう。
水光は城跡基地に機動隊の大部分を集結させた。
海戦軍の熱気球隊と陸戦軍の熱気球隊と戦車隊と野砲隊と銃騎兵と装甲歩兵だ。
晴天が数日は続くであろう日の早朝、戦車隊と銃騎兵を先頭に総勢1万の機動部隊は城を出た。
残りの1万の装甲歩兵は1100機の熱気球と共に城跡基地に残った。
攻撃隊は金鉱山への道を進み、鉱山の砦の前に展開した。
500の熱気球は3名の装甲歩兵を乗せて飛び立ち、鉱山のある山の尾根に1500名の兵士を降ろして城に引き返した。
それと同時に500機の熱気球が爆弾と狙撃手を乗せて出発した。
これらの動きの前に、50機の熱気球は鉱山の周囲に配置され、高空から状況を観測していた。
水光は熱気球に乗って機動隊の上から指揮した。
最初は熱気球が砦の中に散在する小屋を爆弾で破壊し、逃げる兵士を狙撃した。
兵士の多くは坑道内に逃げ込んだ。
次は柵を爆弾で破壊した。
鉱山の警備はもともと中で働く者を逃さないようになっている。
外から軍隊で攻められたら弱いものだ。
一時間もかからず戦車隊と銃騎兵は砦を制圧した。
山に逃げ出した兵は尾根に展開していた装甲歩兵の銃撃を受けた。
歩兵の銃撃から逃れて山中に入ることができた兵は幸せだった。
坑道内に逃れた兵は入口を土嚢(どのう)で塞がれた。
尾根の装甲歩兵は山を下りて鉱山砦に達し、柵の外側での一夜の警備を命令された。
熱気球2機と戦車1台と銃騎兵の一部がそれに加わった。
柵の中には精錬中の金が保管されていたからだった。
その他の兵士は城に戻った。
翌日、金鉱山砦の警備隊が組織され、2個分隊200名の兵士とが熱気球2機と戦車1台と銃騎兵20名の警備隊として金鉱山に配置され、昨夜の兵士達と交代した。
戦いとも言えない程のあっけない勝利であった。
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