第33話 33、世界侵攻開始
<< 33、世界侵攻開始 >>
穂無洲国の周囲が安定すると周平は言語統一のための世界征服の大事業に着手した。
言語の世界統一は侵攻布告状にも記載されていた侵攻の目的であった。
正確な世界地図は既に15年前に出来上がっていたが国の名前も国境の位置も使用されている言語もほとんどわからなかった。
世界地図作成組は熱気球で密かに山頂に降り、山々と海岸と町の位置を記録して陸地の地図を作成していっただけだった。
ホムスク星の地図(黎明期):https://27752.mitemin.net/i353129/
周平は多くの密偵を派遣し、言語と国境と、貨幣の鋳造元を調べさせた。
調査は困難を極めたらしい。
少しでも違う言葉を使う地域での偵察は難しい。
結局、調査はホムスク共同体に隣接する国の先の先の国までに限られてしまう。
金貨の鋳造国は少なくともホムスク共同体の隣国ではないことが分かった。
周平は武力で周囲国を少しずつ平定し、一国ずつ強制的に言語をホムスク語に統一して行くことにした。
それには時間がかかった。
周平は海岸線からの侵攻を計画した。
海からの侵攻と内陸からの侵攻は共に問題点がある。
海からの侵攻には兵士の数が限られてしまうし内陸からの侵攻には兵站(へいたん)の問題が生ずる。
その点、海岸線に沿っての侵攻は大兵の侵攻と安全な兵站線の確保が両立できる。
周平は海穂国に大規模な艦隊の設立を命じた。
それまでの造船所に加え、幾つかの軍艦製造のための造船所が作られ、周辺施設が整備された。
山穂国では良質な鉄鉱脈が発見されて粗鋼の製造が盛んになり、穂無洲国でも特殊鋼の製造が加速した。
軍艦の建造は国家共同体には産業の活性化をもたらしたが、それ単独ではいつまでも続くものではない。
人は食物を食べて、物を作る。
食物の供給無くして産業は発展しない。
併合した水穂国で作られる豊富な食料はホムスク共同体内の産業の発展の基礎となっていた。
ホムスク共同体の各国が養っていた兵士は他国への侵攻には好都合で且つ不可欠であった。
ホムスク共同体は安定し、自国が養う兵士を減少させても安全は保証されている。
ホムスク共同体の外側の国との国境にのみ軍が必要であった。
ホムスク共同体内での兵士の数は必要以上であり、遠征に派遣させるのには好都合な状況にあった。
各国は多くの兵士を提供し、遠征の費用を拠出した。
遠征軍は20万人の規模になった。
穂無洲国は機動部隊として2万の兵を派遣し、水光が指揮した。
機動部隊は熱気球隊と戦車隊と野砲隊と銃騎兵と装甲歩兵から成っていた。
海からの侵攻には荒波が指揮することになった。
戦艦の数は5隻と少なかったが広い甲板を持つ熱気球の航空母艦が3隻あった。
熱気球は収納場所がそれほど大きくない。
一隻で500機、総計1500機の熱気球を積載していた。。
それと補給船30隻が同行した。
戦艦と航空母艦と補給船は高く垂直な舷側を持っていた。
海穂国に入って来る外国からの大型帆船の舷側よりもずっと高かった。
侵攻の方法は決まっていた。
世界統一をしようとしているので遺恨を持たれる方法は極力避けた。
最初にホムスク語の文字で書いた侵攻布告状を送った。
無条件降伏すれば穂無洲国の属国とした。
無条件降伏しなければ攻撃した。
侵攻布告状が読めなければ攻撃した。
海穂国に国境を接する最初の国は直ぐさま無条件降伏を受け入れた。
漁業を中心にした海穂国より小さな国であったのだ。
海穂国の内情を良く知っており、ホムスク共同体の内容も良く知っていた。
生き延びるためにはホムスク共同体に入りたいとも思っていたのだった。
穂無洲国から直ちに官吏が派遣され、属国とするための一連の手続きがなされ、国主とその家族は穂無洲国に向かった。
陸を行く侵攻軍は抵抗無く通過し、次の国との国境に集結した。
そして、世界地図の地図帳には都市の名前と国境などが記録された。
次の国は2万の軍隊が国境を守っていたが上空からの攻撃で軍は壊滅された。
報告を受けた国主は敵の圧倒的な戦闘力を知り無条件降伏を選択した。
直ちに穂無洲国から官吏が派遣され無条件降伏を受けた処理を行った。
結果的には直ちに無条件降伏をした国との違いはほとんど無かった。
誰でも何所でも侵略に抵抗するのは当たり前だったからである。
漁港が多かった前の国との違いは水深の大きな港の一部を共同体共通の軍事基地として召し上げた程度であった。
次の国は広大な国であった。
どれほどの軍勢を持っているのかは分らなかった。
非常に豊かな国であることは上空からの偵察でわかった。
立派な家々が立ち並んでおり、道路も整備され、多くの人々が行き交っていた。
乗物は馬車であったが、港には大きな船が多数係留されており、少し離れた港には多数の軍艦が係留されていた。
鉄板で装甲した木造船ではあったが甲板には大砲が並んでおり、舷側にも多数の窓が並んでいた。
軍艦の動力は風と櫂(かい)であった。
荒波も水光も困難な戦いになるだろうと直感した。
侵攻布告状を持参した使者は殺された。
言葉も通じなかったし、使者は内陸部にある首都まで行けなかった。
この国は滅ぼさねばならなかった。
上空からの偵察でこの国が金貨の供給国であることが分った。
海岸から遠く離れた山間には多くの坑道の入口があり、運び出される石は金鉱石であった。
鉱夫の服装は監督官の服装と比べて著(いちじる)しく貧弱であったので奴隷を使っているようにも思われた。
1回の出撃で兵士1人が持つ弾の数は8連発の銃の弾倉が10個で88発。
1500機の熱気球の乗員が3名で弾の総数は396000発である。命中率が半分であればおよそ20万人を殺傷できる。
たとえ100回出撃したとしても2000万人しか殺せない。
そんな多くの弾薬は持って来ていない。
人口が一億人であれば全員を殺すことは不可能である。
荒波は熱気球を陸戦軍に飛ばし、水光を戦艦に呼んで相談した。
そしてこの国を壊滅するには時間が必要であることで一致した。
殺すのではなく死んでもらうようにしなければならない。
陸戦軍は国境を越えても内陸深くには入らないで海岸線に沿って拠点を作りながらゆっくり侵攻することにした。
侵攻軍は長い海岸線を完全に押さえることはできないが町と船を破壊することはできる。
海岸線に沿って布陣することになる陸戦軍は背水の陣を敷いているわけではない。
海には敵の後部を攻撃できる航空母艦と長射程の大砲を持つ戦艦と兵糧と弾薬を持つ補給船が控えていた。
荒波は最初に軍艦を攻撃した。
多くの偵察気球を見たのだろう。
敵の軍艦は既に港を離れ大きな船団を作っていた。
100機の熱気球は軍艦の真上の高空から爆弾を投下した。
正確に同じ箇所を狙うことで爆弾は船底まで達し、船は沈没した。
敵国の軍艦は上空からの攻撃を想定していなかったので大砲を使うことができなかった。
2時間の攻撃で全ての軍艦は沈没した。
第2波の100機の熱気球は軍港にあった全ての船を破壊した。
第3波の100機の熱気球は港の大部分の施設を破壊炎上させた。
第4波の100機の熱気球は町を炎上させた。
風向きを考えて町を囲むように焼夷弾を落とし、町全体が炎で包まれるようにした。
第5波の100機の熱気球は炎から逃れた人々を一人一人狙撃した。
第5波の攻撃が最も弾薬を消費した攻撃であった。
敵地を焦土化させる攻撃は多くの資産を灰燼に変えるが死体の処理をしなくてすむ。
後は焼死を免れた人が何とかする。
荒波は情報が広がる前に船団を進め、次の軍港を攻撃した。
港に停泊していた軍艦は港を出て船団を組もうとしていたところだった。
熱気球部隊は全ての軍艦を沈没させ、町全てを焦土化した。
荒波はこうして海岸線に沿って船団を進め、12カ所の軍港の軍艦と町を壊滅させた。
海岸線のその向こうにも港はあったが、それらは小さな漁港であり、住民の暮しぶりに豊かさは見られなかった。
おそらく国境線を越えたのであろう。
荒波は船団を引き返し、途中にあった港の船と町をことごとく破壊焦土化していった。
船団が陸戦軍の近くに帰った時には、敵国の船は砂浜に引き上げられた小舟を除けば敵国の船は全て破壊されていた。
残りは国外に出ていた船だけであった。
この一連の攻撃で消費した弾薬は少なかった。
どれほどの人が死んだのかもわからなかった。
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