第2話 ひとりごと -にゃん丸-

雨の日、

僕は空を見上げて、雨粒を顔や体全体に受ける。


あの頃はそんなことをしていた。

日の当たらない汚い深海の底のような、居場所のないものたちが、そこで生き抜くために喰い殺し合うような場所。


僕は、そこの汚れを身にまとっていたように思えたから。

だから、そこの雨には摩天楼の汚濁が混じっていて、透明でなくいやな臭いがしていても、

あの汚れた雨の冷たさは、身体や心に染み付いたおりを流してくれるように思えたんだ。


あの場所の空は狭かった。

空を覆い尽くす高層建築の壁に空いた、ちっぽけな穴のようだった。




宇宙港そらのみなと蒼空そらはどこまでも広く、青く澄んでいて、

バビロンの、薄汚れて暗い世界と同じところにあるとは、とても思えない。


明るく、そして美しい世界が、はてしなく広がっている。

青い青い、蒼空と海原は、どこまでもどこまでも続いているようだ。



ここにも雨が降る。

僕は今でも、ときどき雨粒を浴びることがあるけど、

前のように、汚れた僕自身を清めるためじゃない。


美しい世界を、この身体からだ全部で感じたいから。


少し塩を含んだ海風も海鳴りも、それに強い雨音や暗く垂れ込めた雲も。

やがて暗い空から現れる光の束、そして晴れ渡る蒼空と瑞々しい日の光と世界と。


僕は、僕がこの世界に居ることを感じる。

僕自身もこの世界の一部として、この中に居ると感じられるんだ。



僕は、僕の好きな人たちに手を引かれてここに来た。


この美しい世界は、

いま、僕の世界だ。

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