動画配信③

「お帰りお姉ちゃん。」

「おぉ……これが漫画によく出てくる幻の「お帰り」か。ほら、お姉ちゃんのほっぺに漫画のようにキスしてもいいんだぞ!!?ていうか、してくれ。」


ピンポンの音で目を覚まし、眠気を堪えながら扉を開けると、暴走気味の姉が帰ってきた。お母さんやかおりはまだ帰ってきていない。一番目に帰ってきた暴走気味の姉だが、アイドルのグループをやってそうな程美しく、意識が朦朧としていると歯止めが効かずに本当にキスとかやりかねない。まぁ、流石に姉弟だし自重するよ。うん。多分。


「………キスは無理だけど、こんなのはどう?」

「こっ、こここここれは、一狼と私の体が触れあっているぅぅ!!」


お姉ちゃんの優しい体をそっと自分の胸に引き寄せる。

引き寄せたお姉ちゃんからは、女性特有の甘い匂いが伝わってきて、自分の鼻が甘い香りに包まれる。今の俺はお姉ちゃんとハグをしていて、体と体が触れあっている状態。俺は一人っ子だった為、姉弟同士でのふざけ合いなどをするのに憧れていた。だから、俺は悪戯でお姉ちゃんを引き寄せてハグをした。お姉ちゃんのリアクションが面白いので、ついやりたくなってしまったのだ。


そんな一狼の悪戯で行われたハグ。

悪戯でされた姉にとっては、それはもう悪戯を越えてそれは変貌の一手となる。

女から男へハグを強制することはあるが、男からすることなど一切ない。

そんな中、男の中でもトップクラスに格好いい男からされたのだから、姉の頭の中は幸せの物質で溢れる。それに、今まで冷たかった弟が急に近寄ってくるようになったのだ。襲いたいという気持ちをコントロールしようとするも、欲望が勝ってしまう。


そんな姉は、ハグをしてきた一狼を欲望のままにがしっと掴んだ。


「お姉ちゃん……?」


抱き寄せたお姉ちゃんを見て、俺は何か違和感を感じる。

あれ?……自分的には、おどおどするのを予想してたんだけど、 気付けば服が物凄い力で捕まれて動けないんだけど。……って、本当に力強いな。可愛いくて美くしい見た目をしてるのに、こんな力あるのかよ。


一見細くて可憐な腕なのに、どこからそんな力が出るのかと不思議に思っていると、お姉ちゃんの顔が怖いくらい笑顔なことに気付く。俺にハグされたことが嬉しくて、そんな笑顔なのか?でも、ちょっとこれは感情が読み取れずらくて少し怖いな。


謎の寒気を感じた瞬間、お姉ちゃんは俺の体を押し倒した。


「えへぇ~お姉ちゃんと一つになりましょうねぇ~」

「!!?」


目を蕩けさせながら、甘撫で声で俺の上にお姉ちゃんは馬乗りになる。

ヤバイ。貞操の危機が──


目を蕩けさせるお姉ちゃんは、百人の男が見たら百人が惚れてしまうほど色気があり、美しい。俺も姉弟じゃなければ惚れているかもしれないが、俺はお姉ちゃんの弟であり姉弟だ。そこに、一つになるという考えはないし、このような恋人でもない関係でこのような行為をする気はない。


お姉ちゃんから逃げようとするも、俺のお腹の上辺りに馬乗りにお姉ちゃんがなっている為、身動きがとれず逃げようとすることが出来ない。別にお姉ちゃんが重いという訳ではなく、突然の出来事にあまり体が言うことを効かない。これはどうすれば──


そんなことを思っていると、俺はある一つの考えを思い付き、実践することにした。

こうなりゃやけだ──


「ふぁぁ//////」


お姉ちゃんは、俺の上でやらしい声を上げながら力無く横たわる。

豊かな胸の感触を感じないようにしながら、俺は心の中で胸に手を当てた。


「……最後の手段にとっておいたキスが成功してよかった。」


お姉ちゃんを一度俺の上から床に置き、俺は立ち上がる。

俺は、お姉ちゃんの頬に軽くキスをした。

唇ではない、頬にだ。

彼女なんて居なかったので、俺のファーストキスをお姉ちゃんに与えてしまったわけだが、後悔なんてしていない。あの場合、キスをしていなければ俺はお姉ちゃんに犯されていた可能性が高い訳だし、お姉ちゃんとはいえこんなアイドル並みの美女とのファーストキスをしたのだ。俺の唇も悪いものとは感じない。


俺はお姫様だっこでお姉ちゃんを持ち上げると、そっとソファーに優しく寝かせる。……にしても、可愛い寝顔だ。前世ならアイドルグループのリーダーにもなれそうな顔立ちをしている。


そんなことを思いながら、俺はあることを決める。

───もう、軽い気持ちで悪戯は止めよう。


俺はお姉ちゃんを置いたまま、自分の部屋で熱くなった体を涼ませた。

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