家族⑥
「えーっと、今は五時半か。」
布団に包まれながら、手だけを伸ばして時計を手に取ると、針の位置を確認する。
昨日リビングでお母さん達と夕食を終えた後、俺は膝にお母さんとお姉ちゃんを合わせて一時間半くらい乗せた。勿論、妹のかおりよりは重みを感じたが決して重いと思うことはなく、女性特有の甘い匂いを身近で感じながら、話を弾ませていた。
「………お腹空いてるし何か作るか。」
どうやら俺は学校に行っていないようで、起きるのも寝るのも何時でもいいらしいが、昔から続けてきた早寝早起きというルーティーンを崩したくないため、少し眠いが起きることにする。「早寝早起きするとかジジイかよ」と、 前の母に怒鳴られることも無いので、何も気にすることなく起きることが出来る。
洗面所で歯を磨き顔を洗うと、俺はキッチンへと向かった。
「そうだな。朝は汁系の暖かい飲み物が欲しいと思うし、味噌汁でも作るか。後は適当にご飯に合いそうなおかずを作ればいいし。」
炊飯器でご飯が既に炊けてあることを確認すると、冷蔵庫の中から味噌汁に使えそうな具材を探すことにする。冷蔵庫の中には、流石お金持ちというだけあって松茸やカニなどが普通に置かれていて探すのに苦労したが、俺は乾燥ワカメと豆腐と玉ねぎを入手することが出来た。
「それじゃあ、玉ねぎは味噌汁の熱で溶けるだろし少し大きめに切って………」
水を入れた鍋を火の付いたコンロの上に置いた後、俺は前世作った味噌汁のようにさっさと玉ねぎを切る。前世の親は俺に構おうとせず、日々喧嘩ばかりしていたので、料理など出てきたことなど記憶にない。だから、俺はこうして簡単に作れる味噌汁を作ったり、コンビニ飯や外食をしていた。
切った玉ねぎを水の中に入れ待つこと数分。
熱で玉ねぎのとろみが良さそうになってきたので、俺は火を弱めて味噌をとくことにする。
一回やっただけだと……やはり薄い。
前世と同じ塩梅で味噌をとくと、前世みた味噌汁と同じ色をしま味噌汁が出来ていた。
「それじゃあ、最後に乾燥ワカメと切った豆腐を入れて………出来上がりかな。」
お玉で小皿によそって軽く味見をすると、何かが足りないことを思い出す。
豆腐も入れたし、ワカメも入れたし………あぁ、だしか。
俺は冷蔵庫をまた漁ることにすると、前世とは違うがだしの出るパックが見付かったのでそのだしパックを使うことにする。初めての味のするだしということで少しずつだしを入れることにすると、少し前世とは味が違うが美味しい味噌汁を作ることが出来た。
「それじゃあ蓋をして………次は、野菜炒めでも作るか。」
自慢だが、俺は野菜炒めだけは誰よりも美味しく作ることが出来ると思っている。
なんせ、簡単に作れる料理の中で一番好きなのは野菜炒めであって、三桁では収まらないほど野菜炒めを作っているからだ。絶妙な塩加減に火加減、サイズや入れる順番。
俺は冷蔵庫から、もやしとにんじん、キャベツや挽き肉を入手すると、野菜を食べやすい手頃なサイズにカットして、熱したフライパンに挽き肉と共に油を敷いてぶちこむ。
やっぱり、野菜炒めは火力が大事だ。
最高火力で、早めに作るのがコツ。
火の通ってきた野菜に胡椒とオイスターソースを入れて、野菜に馴染むように絡める。炒める際にオイスターソースの匂い辺りに広がり、空腹感を増大させる。早く食べたい。
炒めること数分。
やはり得意料理なだけあって、一発で美味しいと思える物が作れた。
「これにも蓋をしてと………何か、やっぱり眠くなってきたし寝るか。」
時計を見ると、少し六時のところを針は通り越している。
さっきまでお腹が空いていたが、気付けば空腹よりも睡魔のほうがキツい。
この世界での生活にまだ慣れていないから、疲れやすいのだろうか。
とりあえず、寝よう。
俺は階段を登って、再び布団にくるまった。
■■■■■■■■■■
「あれ、こんなの作ったかしら?」
リビングの机に置いてある味噌汁と野菜炒めの入ったフライパンと鍋を見て、どうしてこんな物があるのか疑問に思う。昨日のことを思い出すが作った覚えなんてない。私以外が作ったとしたら誰が作ったんだ?
「お母さんおはよう。」
気付かないうちに作られていた料理に固まっていると、丁度いいタイミングで桜が起きてきた。桜は料理を作れないはずだが、聞いてみよう。
「うん、おはよう。ちょっといい?」
「どうしたのお母さん?」
「これって、桜が作ったの?」
「私が料理なんて出来る訳ないじゃん。何言ってるの?お母さんが作ったんじゃないの?」
「でも、これ作った覚えがないのよね。」
娘と戸惑うこと少し。
すると、桜が何かを思いついたのか口を開いた。
「もしかして、かおりが一狼に食べさせたくて作ったんじゃないの?」
「確かに。かおりならやりそうね。」
娘の意見に、ウンウンと頷く。
かおりなら一狼に褒められたくて、秘密裏に料理とか作りそうだ。
「それじゃあ、一狼に食べさせる前に私達で味見してみようぜ?」
「そうね。食べてみましょうか。」
お椀とお皿を持ってきて、少し装ってみる。
すると、その間にかおりが階段から下りてきた。
「おはよぉ~お母さん。」
「おはよう。……にしても、昨日は私のことを太ってるとか言ってたけど、可愛いとこあるじゃないの。」
「え?どういうこと?」
「照れるなってぇ?この野菜炒めと味噌汁は、一狼の為にかおりが作ったんだろ?」
「あぁ!!確かに、お兄に褒められる為に作っておけばよかった。」
「「……え?もしかして、かおり作ってないの(か)?」」
「うん。でも、明日から作っちゃおう。」
「「それじゃあ、これは誰が……?」」
かおりに、この料理を二つとも作っていないことを説明する。
すると、かおりも私達と同じように誰が作ったのか戸惑いに入った。
そんな中、一狼がいつもより早く起きてきた。
「おはよう。お母さんにかおりにお姉ちゃん。」
「「「おはよう一狼(お兄)」」」
すると、一狼は困った様子で私達を見つめてきた。
「もしかして、僕が作った料理美味しくなかった?」
え?
もしかして、この料理一狼が作ったの。
男が料理を作るなんて聞いたことが無いんだけど。
娘達を見ると、娘達も私と同じように固まっている。
やはり、私と同じで何が起こったか分かっていないようだ。
だけど、これから私とすることは同じだろう。
「「「全然大丈夫だよ一狼(お兄)」」」
すると、私達は争うようにして味噌汁や野菜炒めをお椀やお皿に乗せて、ご飯を進めることにした。一狼が今まで料理をしてくれたことなんて無かったし、この機会が無ければ食べることは出来ないかもしれない。そんなことが分かっている私達が、今残っている野菜炒めや味噌汁を巡って、一口でも多く一狼の手作りを争うのは必然だった。
他の二人に負けないように食べたが、一狼の作った料理ということで興奮のあまり 味は分からなかった。
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