家族②

「もしかすると、一狼君は記憶喪失の可能性や記憶障害の可能性が………」

「うぅ……一狼との今までの思い出が…………」


俺の母さんらしき美人さんに泣きつかれること数十分。

初めに鼻血を垂らして倒れたナースさんが目を覚ますと、俺達から軽く事情を聞いた結果、今の決断をした。


「……もしかしたら、何か思い出すかもしれないので、今までの僕について何か教えてくれません?」


今も軽くだが泣いているお母さんを前に 、このままじゃ何も進まないので話を聞くことにした。


「えーっと、一狼は最近はあまり甘えてこなくて、私から避けようと喋り掛けてこなかったり無視するけど、幼い頃は『お掃除出来たよ』とか埃まみれになりながら笑顔で言ってきたり、『ママ大好き』って飛びついてくる子で、とても可愛い子だよ。しかも、他の男の子に比べて無視はするけど暴言を吐いたり暴力は振るってこないとても優しくて格好いい子で、それに他の男の子みたいに太ってなくて細いし………」


惚気を出しながら熱く話す母さんを前に、俺は疑問が浮かぶ。

ん?

話を聞くと、男が暴言や暴力を振るうのが普通に聞こえるんだけど冗談だよな?それに、他の男が太っているみたいじゃないか。太っている男もいるが、それが別に社会に於いて常識という訳ではないよな?


レディーファーストという言葉や、女性専用列車を思い出す。

確か社会の常識として、基本かよわい女性に優しい社会だった気がするのだが、今の話を聞く限りそれが全く当てはまらない。母さんの言うとおりだと、男が暴言や暴力を振るうのが当たり前で、いかにもそれをしない俺が滅茶苦茶いい子的な扱いを受けているが、どういうことだ?


「ちょっと待って。男が女性に暴言や暴力を振るうのが普通に聞こえるんだけど、違うよね?」

「何言ってるの一狼?一狼は違うけど、男が暴言や暴力を振るうのか当たり前だよ。だって、数の少ない男だし。」

「え?どういうこと?数が少ないって」

「そこらの知識も忘れているようですね…………」

「えーっとね……」


どうやら話を聞くと、この世界の男子の出生率はとんでもない低いらしく、男女比率は1:2000らしい。これは、一人の男に対して女性が二千人もいるという計算で、百万人で表すと実に五百人の男性しか居ないことになる。実に考えるだけで実に恐ろしい数字だ。

だけど実はこれでも増えた方で、最近は精子バンクによって誰でも人口受精をすることが出来ることになったそうだが、人口受精が出来るまでは実に1:3000という比率だったらしい。

いくら比率がマシになったとしても、いずれ男性が極端に少ないことには限りない。だから、よく男性は襲われるらしく、誰か付き人が居ないと町も歩けないそうだ。

そんな少ない男性。

政府はそんな男性に物凄い支援をしている。

月に二十万円を支給したり、食費や家賃などの生活に関する費用を全額負担、それに受験無しで好きな学校に行けるようにしていたり、もの凄く世界は男に甘いらしい。


だからこそ、そんな甘やかされた環境で育てられた男は、傲慢になってしまっているようだ。暴力や暴言を女性に言うのは男性にとって当たり前。物を奪ったり、金を要求するのも日常でよく行われる。まるで、帝国主義が盛んだった頃の白人と黒人の関係だ。そんな男性に対して、女性は反撃などすることは出来ず、そのまま身に受けることしか出来ない。何故なら、男は希少だから。女性の代わりは沢山いるが、男性の代わりは居ない。だからこそ、政府も男性を全面的に支援しているらしく、女性が反撃でもしてしまうと、即刑務所行きらしい。


とりあえず、ここが異世界でこの世界の男は糞野郎で調子に乗っていることは分かった。

俺はどうするのだって?

俺はこの世界の男共みたいに暴言や暴力を振るう糞野郎にはならない。流石に、そんな最低なことをする精神は持っていない。

…………女子に迫られることが多かったから、今も苦手意識が強くて、避けることはあるかもしれないけど。


「説明ありがとうお母さん。」

「!!」


こんなにも長い説明をしてくれたお母さんに感謝の言葉を掛ける。俺だったら、こんなに長い説明をする気なんて起きない。俺が男で息子だからしてくれたのかもしれないが、俺は顔に満開の花を浮かべてはにかんだ。



今まで以上にモテてしまいそうな世界に

来てしまったがどうするか。


少し頭の中を整理してから、俺はこれからどう生きていくのか、考えることにした。

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