3.神楽草のあるじ
ふつり、と小さな音を立てて、脳味噌が死んだ。
「……お気遣いありがとうございます」
血のつながりが微塵も無い親戚の初老男性に愛想笑いして、頭を小さく下げる。先程まで心底鬱陶しかった彼の煙草臭さや濁声が、知覚から遠ざかってうやむやになる。男性はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らし、黒光りする革靴を乱暴に履いて玄関を出て行った。
がらんとした一軒家に、私一人だけが取り残される。
「ふぅ――――」
細く長く息を吐いて、冷房を効かせた居間に戻る。礼服から適当なブラウスとチノパンに着替え、張り替えたてで緑色の畳にごろりと寝そべった。頬がひんやりと冷やされる。い草の匂いに混ざって、線香の香りが鼻先を掠める。締め切った窓に音量を和らげられた蝉時雨が、クーラーの静かな駆動音と共に冷えた部屋を満たしていた。
今日は義父と夫の一周忌だった。
見合い婚でこの家に嫁いで来て早五年。早くに亡くなったという義母の写真に義父と夫が並んで、もう一年経つ。旅先での交通事故だった。むごたらしい遺体など知らない顔で、二人の遺影は穏やかに笑っている。
夫の親戚は、ほとんどが東京で生活している。片田舎の葬式に出てくるほど懇意にしていた人はそう多くなく、葬式の参列者は両手で足りるほどだった。唯一遺産相続に関わる夫の兄は私をよく思っておらず、私が雇った司法書士の説明に散々口を出して帰って行った。本来ここは夫方の土地と家であり、義兄の生家でもある。東京へ婿養子に出た義兄は地元嫌いで禄に帰省もしないが、土地の権利についてあからさまに揉めた。予想が付いていたので対策はしており、長引きはしなかったが激しく気疲れした。
極めつけが、義兄と連れ立って東京から来ていた冒頭の初老男性である。
――この家はもうアンタのなんだし、早いところいい人見つけて子供作ったらどうだ。老後が辛いぞ。
「余計なお世話だっての」
寝転がったままぽつりと呟く。思い出すだけで不快になりそうな言われ様だが、手足はしんと冷えて力を入れる気になれない。
眠れもしないのに目を閉じる。
自分の心を『戻す』為に、今は身体を休めたかった。
年に数回、そういう時がある。
身体から意識が遠ざかり、ロボットのように勝手に身体が仕事をこなしてくれる。五感が実感を伴わなくなる。心がカチコチに固まって、脳味噌が深い思考や情動を放棄する。泣いたり笑ったり怒ったりが上手いことできなくなる。
キャパオーバーで処理落ちして、脳味噌が死んでしまう。
一度死んだ脳味噌は、なかなか蘇生しない。酷いとき――夫を亡くした後なんかは、ひと月以上死にっぱなしだった。身体は最低限の水準を保って生活を続けるので、基本的には誰も気付かない。困るのは私と、一緒に困ってくれる親しい人達だけである。
そして更に困ったことに、親しい人達を困らせるのは本意で無かった。唯一簡単に蘇生させてくれる夫はもういない。
死んでいる時間が長いほど、息を吹き返した脳味噌はよく動く。感情が爆発する様に揺れ動き、ひとしきり泣いてリセットして初めて『戻る』のだ。
――くう。
とりとめのない思考と共に畳で身体を冷ましていたら、腹の虫が鳴った。重い瞼を持ち上げる。
ふと、ガラス張りのテーブルに乗った名刺大のカードが目に留まった。誰かの忘れ物だろうか。上体を起こして手を伸ばす。紺色の地に金色で『喫茶 神楽草 -kagurasou-』の文字と、細い線で描かれた小柄な花が箔押しされていた。裏面は簡単な地図になっており、住所も添えられている。到底交通の便が良いと言えない場所にあるらしい喫茶店のショップカードだった。
こんな山奥にある家の近所――田舎の文脈で言うところの近所――に、小洒落たショップカードを置くような喫茶店があるなんて知らなかった。
――ぐう。
腹の虫が音量を増して催促する。壁掛け時計を見上げると、一時半を少し回っていた。
普段の『死んでいる』私なら、適当に捨ててご近所スーパーのエネルギー系スパウトゼリーを箱買いしに行くところである。しかし、不思議と今日は「行ってみようかな」と言う気持ちになった。ぼんやりと違和感を覚えつつも、折角の小さな気力が消えないうちにと立ち上がる。
外は痛いほど日差しが強く一気に汗が噴き出したが、タオルを取りに戻る気にはなれなかった。早く喫茶店に行こう、という漠然とした気持ちだけで身体が動いている。奇妙だったが、死んだ脳味噌に疑問を掘り下げる余裕は無かった。
山道を車で十五分ほど走って辿り着いた喫茶店は、緑生い茂る庭にぐるりと囲まれた古民家の風体をしていた。夏の真っ昼間にも関わらず木陰で涼しい庭を抜けると、しっとりとした黒色の木造建築が現れる。
『OPEN』のプレートに従って玄関の引き戸を開けると、見た目に反して軽い手応えと共にカロンカロンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃい」
小さなインテリアや絵画が幾つも飾られた木調の店内の奥、カウンターから声がする。何となくその場に立ち尽くしていると、少し間を置いて若い男性が顔を出した。店員だろうか。ワイシャツにワインレッドのベストというドレッシーな服装だが、長い髪は無造作にポニーテールにされている。
「初めまして、ですね。誰かからのご紹介ですか?」
店員は柔和な表情で質問しつつ、手を広げてカウンターを示す。自然と足が向き、カウンター席の端に腰掛けた。
誰の紹介か、と問われたということは、一見の客はとらない店なのだろうか。
「……これを、たまたま拾って」
とりあえず、私はポケットに突っ込んであったショップカードをカウンターに置いて見せた。店員は覗き込むと、ああ、と小さく頷く。
「もしかして、赤川様でいらっしゃいますか?」
私の名字だった。
「はい、そうですが」
不審げな私の表情に気付いて尚、店員は穏やかに笑っている。
「失礼しました。この通り、年中閑古鳥が鳴いている小さい喫茶店です。広告も打っていないので、常連のお客様くらいしかいらっしゃらない。その中に一人、知人の赤川に紹介したいと言って、このカードを持っていった方がいましたので」
どうやら忘れ物では無かったらしい。参列者の顔を並べて目星を付けようにも、ほとんどが東京在住である。この店に通える場所に住んでいる親戚はいない。
「折角ですので、ごゆっくり。もしもご注文が決まりましたら、お声がけください」
お冷やとおしぼりをカウンター越しに置いて、店員は引っ込んでしまった。テーブルを見てもメニュー表らしき物は置かれていない。困惑していると、ほどなくして奥から水音や包丁の音が響き始めた。
(もしも、ご注文が決まりましたら……?)
どうやらこの店では注文を取らないらしい。そんな店があってたまるか、とか、一言説明があってもよくないか、とか思わないでも無いが、今はそこに口を出す気力も無かった。声を掛けて注文する気も無い。今どうしても食べたいものなんかありはしなかったし、考えるのも億劫だった。
手持ち無沙汰に店内を見回す。
壁には大きなモノトーンの絵が幾つも掛けられている。恐らく切り絵だ。モチーフは人物、動物、昆虫、植物とバラバラだが、どれも意匠が凝っていて恐ろしく細かかった。
カウンターテーブルにはガラス細工の水棲動物たちがひしめいていた。一つ一つがピンポン球ほどの大きさで、同じサイズのシロナガスクジラとヤドクガエルが並んでいる。ブロブフィッシュやデメニギスのような比較的グロテスクなものまであった。
店内はさほど広くない。四人がけのテーブルが四つあり、間仕切りの様に木製の棚が配置されている。本や雑誌が立てられた段もあれば、木彫りのフクロウが何体も置かれた段、事務用ファイルが隙間無く詰まった段、水槽がはめ込まれた段、何も置かれていない段など趣がバラバラだ。棚の上にはやはりガラス細工の動物が所狭しと並んでいるが、その合間を縫って樹木や植物のミニチュアが置かれている。ゾウやキリン、ダチョウなんかが並んだ棚にはサバンナ風の植物。隣の棚には色鮮やかな鳥類やヒョウが、生い茂る熱帯雨林のような柄のスタンドに載せられている。どうやら、生息地に即した植物が配置されている様子だった。
「綺麗でしょう」
振り返ると、料理をしていたはずの店員が銀盤を持って立っていた。
「知人にガラス職人がいて、遊びで作った品を来る度に置いていくんです。一応売り物として置いてあるので、気に入った物があれば是非」
そう言って、銀盤から紙ナプキンと二本のスプーン、アイスコーヒー、大きなトレー皿を順に並べる。
(……あ)
中身はティラミスだった。
「お通しです」
にこりと笑って、店員は再び奥に引っ込んだ。
お通し、と言うよりは、デザートの方がしっくりくる。昼食前の空きっ腹にこんな重たいスイーツを丸ごと入れろというのか。普通ここから四等分とかに切って出す物ではないのか。そもそもお通しは『ご注文承りました』の意味で出すものではなかったか。文句を付けようと思えばいくらでも付けられそうだった。
しかし、ティラミスである。
自然とスプーンを手に取っていた。大きめに掬って、ぱくりと咥える。
懐かしい風味がした。
上にかかったパウダーは、ココアでは無くコーヒーだ。それもインスタントの、私が常飲している銘柄の。ベースのビスキュイも同じコーヒーが染みている。ひんやり冷たいマスカルポーネクリームはさらりとした口溶けで、大きめに掬ったのにすぐ溶け消えてしまった。飲み込む時に、ささやかなバニラの風味がコーヒーに混ざって抜けていく。
この味を知っていた。
夫が作ってくれたティラミスだ。
酷く落ち込んで、脳味噌が死んでしまった時に、夫が必ず作ってくれたティラミスだ。
――ティラミスの由来が『私を元気づけて』だって聞いたことあってさ。
そう言って、得意でも無い菓子作りをしてくれたのが最初だった。器用な人だったから最初から美味しかったが、出される度にどんどん私好みに美味しくなっていった。確か、五回目にはもうこの味だった気がする。
――『私を元気づけて』より、直訳の『私を引っ張り上げて』の方が、夕子にはハマってるな。
そう言って、泣いている私に笑ってくれた。
気がついたら、私は泣きながら巨大ティラミスを頬張っていた。大きなトレー皿が空になっても、私は泣き続けた。
涙が落ち着いてきた頃合いで、店員がティッシュボックスをカウンターに置いた。ありがたく使わせて貰う。
「ゴミ箱は足下に」
言葉に釣られて下を見ると、透明なビニールが掛けられた竹籠があった。竹籠がいっぱいになって私の顔面がさっぱりするまでに、時間はかからなかった。ティラミスの空き皿はいつの間にか下げられていた。
「濡れタオル、使いますか」
「ありがとうございます」
普通の声音で返事ができた事にほっとする。濡れタオルは冷やされていて、泣き腫らした目に心地よかった。
「お待たせいたしました」
泣き出して待たせたのはこちらだが、店員はそう言ってカウンター越しに皿を出した。ごろごろと大きな肉が入ったカレーだった。
「牡丹肉のカレーライスです。スプーンは大きな方がカレー用だったのですが、新しく出しますか?」
手元の紙ナプキンに余った小さなスプーンへ目をやる。カレー用のスプーンをティラミスに使ってしまったらしい。
「大丈夫です」
私の返事を受け、店員は満足げに頷いてから一礼して奥に戻った。遠く、カチャカチャと皿を洗う音が聞こえてくる。
「おし」
私は小さく呟き、気合いを入れてスプーンを握り直す。
「いただきます!」
見られていないのを良いことに、カレーを思い切りがっついた。牡丹肉は角切りにされていて、柔らかく煮えているが食べ出がある。臭みもほとんど感じない。ルーはさらっとしていて、歯応えの良い五穀米とよく絡む。強めの香辛料に当てられて汗が幾筋も顔を伝ったが、手の甲で乱暴に拭って構わず食べ続ける。
カレーにしては時間が掛かったものの、あっという間に食べ終わってしまった。最初に出されたアイスコーヒーを煽ってから手を合わせる。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした」
驚いて声のする方を見遣ると、カウンターからギリギリ見える位置に店員が座っていた。膝に文庫本とマグカップを乗せている。マグカップの中身が見えないほど減っているので、もしかしたらかなり前から座っていたのかも知れない。ちょっと恥ずかしい。
「美味しかったですか?」
穏やかに目を細めて店員が問う。
「はい、とても」
私も、にかっと笑って返事をした。
色々疑問はあったが、質問する気にはならなかった。私はさっさと立ち上がってガラス細工を一つ手に取り、お会計を済ませて店を出た。
「また、引っ張り上げられたくなったらお越し下さい」
そう言ってにこやかに送り出してくれた店員に思いを馳せながら車を走らせる。結局名前も聞かなかったが、また店に行けば会えるだろう。
「……いい人見つけろ、か」
綺麗な顔の人だった。物腰柔らかで優しそうで、夫のティラミスが作れる人。
「でも、なんか違うんだよなぁ」
あの店員には、妙な親しみを感じるのだ。同性の友達に覚える様な、絶妙な距離感と居心地の良さ。どこかで会った様な気さえする。
何というか。
「誰かに、似ている様な――」
ダッシュボードで、ガラス細工の狐がきらりと光った。
◇ ◇ ◇
折角店を開いたので時間を掛けてだらだら掃除をしていると、カロンカロン、とドアベルが鳴った。
「よお、久方ぶりで」
ひょいと手を上げて挨拶したのは、近所のご住職だった。
このご住職は意外にも私服のセンスが良い。体型に合ったネイビーのサマーニットの裾から白シャツを覗かせ、黒いテーパードパンツに革靴、頭にはツバが狭いグレーの中折れ帽が乗っている。会う度微妙に違う帽子を被っているので、ご住職のファッションチェックは私の密かな楽しみとなっていた。結構なお歳で坊主頭なのに、さらりと着こなせているのが凄い。姿勢が良いからだろうか。
「こんばんは。今回はお世話になりました」
軽く頭を下げる。ご住職はハハハと笑ってカウンター席に腰掛けた。
「ワイン、いつものやつで」
「はぁい」
気の抜けた返事に、再びハハハと笑い声がする。チーズを切ってジュブレ・シャンベルタンをグラスに直で注ぐ。私はソムリエでも何でも無いのでワインに詳しくないが、ご住職いわく、このワインは『デキャンタージュしない方が美味しい』らしい。そして『必要ならスワリングする』らしい。一応デキャンタとワイングラス一式は揃えてあるが、そこら辺は割とルーズにやっている。お客さんの方が詳しいのだ。
「お婆さん、元気にやってる?」
「今、朝ドラで子役やってます」
「へぇ、あの子がコンさんだったか。いやに綺麗な子だと思ったら……海ちゃんも、今日はだいぶイケメンさんに化けとるな」
「この身体に合わせてキッチン作ってあるんで」
「顔の話だよ。まあ、いつも整った顔に化けちゃあいるが」
「イケメンはお嫌い?」
ワインとチーズを出すついでにしなを作ってウインクしてみる。
「好きも嫌いも無いな。元の海ちゃんは可愛いが」
ご住職はそう言って、出されたワインを照明に透かした。
「ご住職は狐顔がお好みかぁ」
そう言ってチーズをつまみ食いする。癖が強くて塩辛い。だがこれが良い。ご住職は三度笑った。
私の祖母は化け狐である。
かなり長生きらしく、百歳だの千歳だの言われているが定かでは無い。茶目っ気を含んだ声で「卑弥呼は動物アレルギーで私に触れなかったんだよ」などと言う人で、真偽を確かめる術が無い以上どのくらい本当かわからないのだ。ちなみに私は全部信じている。こういう話は信じた方が、ロマンがあって面白い。
祖母は不思議な力を幾つか使えるらしいが、化け術がひときわ得意だ。芸事を極め、人々に名前を轟かせながら人間らしい一生を演じるのが趣味だという祖母は、売れたり売れなかったりしながらずっと芸能界にいる。前は大道芸人で、その前は歌手だった。今度は女優として頑張るらしい。
私もその血を受け継いでおり、化けるのが得意である。実子の父より得意だったので、隔世遺伝という言葉を早々に覚えた。
「手紙が来て、驚いたよ」
チーズを囓りながら、ご住職がぽつりと言う。
ショップカードを同封して『赤川家の法事で夕子ちゃんに渡して欲しい』とお願いの手紙を出したのは、ちょうど一週間前のことだ。
「ありがたいことに、今回はティラミスのレシピがあったので」
一年前、旦那を亡くした時の夕子ちゃんは目も当てられなかった。様子を見に家を訪ねても大丈夫の一点張り、目の下のクマを厚化粧で隠した顔で心配しないでと笑って見せられては、それ以上踏み込むのが難しかった。
そんな折、ご住職が声を掛けてくれたのだ。ご住職は元々この店の常連で、彼が幽霊と話せることは知っていた。赤川が幽霊になっているのだと察するのに時間は掛からなかった。
夕子ちゃんの旦那、赤川は中学からの友人だった。夕子ちゃんとは二人の結婚以来の付き合いだが、馬が合って頻繁に遊んでいた。腹を割った話も出来る仲だったので、偶に脳味噌が死ぬという話も、引っ張り上げるティラミスの話も聞いたことがあった。
赤川はほぼ感覚でティラミスを作っていたらしく、再現にはかなり手間取った。ご住職は短時間ならイタコもできるというので、味見だけは本人にして貰った。そんなことができるなら夕子ちゃんと直接話せば良い、と最初は思ったが、ご住職は既に夕子ちゃんにも声を掛けていたらしい。凄い形相で睨まれてしまい、それ以来嫌われてしまったのだとしょんぼりしていた。脳味噌の死んだ夕子ちゃんは、色々なことに対して否定的になる。きっとからかわれたと思ったのだろう。このときばかりはご住職が気の毒だった。
ティラミスを完璧に作れる様になった頃には、夕子ちゃんは自力で立ち直っていた。それを見て安心した赤川も、無事に成仏できたらしい。その際、次があったらティラミスを作ってやってくれと頼まれた。私はそれを請け負った。
夕子ちゃんとは先述の通り定期的に会っており、話す機会も多い。次があるとしたら一周忌だろうとアタリをつけつつ、いつ彼女の脳味噌が死んでも対応できる様に準備はしていた。ティラミスの材料を常備しておいたり、彼女の好きな食べ物をリサーチしたり、簡単なまじないを使える知人に頼んでショップカードに細工をしたり。趣味で始めた喫茶店がいつの間にか訳アリ人間の巣窟になっていたので、その手の知人には困らなかった。
「赤川との約束がきちんと果たせて良かったです。そのうち、ティラミスのレシピも教えてあげようと思います」
「赤川の奥さん、お菓子作りは苦手なんじゃなかったかい?」
「彼女から私が、飯塚海としてレシピを受け取れば、自然に作ってあげられる様になるでしょう?」
「そんな回りくどいことしなくても」
「要るんですよ、この回りくどさは」
夕子ちゃんは赤川が心底好きだった。二人だけの特別なティラミスのレシピを私が知っていたら、夕子ちゃんはきっとショックだろう。見知らぬ不思議なお兄さんの方がマシである。
それに、折角、懐かしい味との再会なのだから。
「回りくどい方が、ロマンがあって面白いでしょう?」
「違いねぇな」
私はご住職と声を揃えて、ハハハと笑った。
◇ ◇ ◇
神楽草
植物名。カグラソウ。キツネノマゴの別称。(Weblio辞書より引用)
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