少年兵は挑まれる ③

年齢的に言えば『兄』にあたるのだろうが、ロエン的には『父』のような感覚で頭を撫でられていると、先ほどの声援とは違う騒ぎが起こった。

バタバタと賑やかな足音と共に、ロエンに挑戦を叩きつける声が大きく響く。

「おいっ!ようやく戻ってきたな!今日こそお前と俺、どっちがここを纏めるか勝負だ!」

「……マジかよ……」

ウンザリしたような顔でロエンが呟くと、エブランは何だという顔で突然現れたもう一人の少年を見つめた。

「聞いてんのか?!ロエン…っつーか!誰だよ、おっさん!」

「おっさん……」

ロエンよりも体の大きな少年はズカズカとファゴット家の中庭に侵入してきて、エブランを睨みつけた。

エブランにとってはそんな目付きなどまったく怖くなかったが、さすがに『おっさん』呼ばわりには愕然とする。

最年少とはいかないまでも、ターランド領都兵の中でもまだ若い部類に入るのだから、さすがにロエンから見て『おにいさん』だと自負していたのだ。

「なあ、俺っておっさん?」

「うん」

躊躇いもなくロエンに頷かれ、エブランはさらにガクッと首を折る。

「……まあいいわ。で?お前はいったいどこの坊ちゃんだよ?」

「坊ちゃんっていうな!!」

人のことをおっさん呼ばわりしておいて、自分が子供扱いされるのは腹が立つらしい。

「んで」

「坊ちゃんじゃねぇよ!俺はミエブだ!おいおっさん、そいつをこっちに寄こせ」

「お前はまだおっさん呼ばわりかよ……そこは形式美的に『お前は誰だ?』って聞くべきだろうが」

「何だよ、けいしきびって?」

「言葉も知らんのか……」

まあいいわと繰り返すと、エブランはロエンの頭から手を離してグッと前に押し出した。

商会のための荷馬車が出入りするため広く取られた中庭は『庭』というよりも広場みたいに石畳が敷かれているため、ケンカをするにもちょうどいい。

「決着着けて来いよ」

「言われなくても!」

ダンッと一歩踏み出したロエンはバチンと握ったこぶしを反対の手のひらに叩きつけた。



結果は──ロエンの圧勝だった。


驚くほどすんなりと相手を叩きのめしたが、その早さに驚いたのは地面に伏せているミエブという名の少年も、わあわあと騒がしかった子供たちも、そして木刀で自分より身体の大きな少年を地面に縫い付けたロエンもだった。

「嘘…だろ……?」

同じような言葉が誰かから、皆から、そしてミエブとロエンからも漏れる。

意外に思わなかったのはエブランだただひとりだった。



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