少年は疑いの目で見られる ①

日も暮れて蝋燭やオイルランプだけが光源のこの小屋を背にすると、星空がよく見えた。

図書室にある投影できる図鑑で室内に現れる星を見てアーウェンもエレノアも満足していたが、あれでは表現しきれない無数の星々に魅了され、一所懸命に目を凝らす。

もしここに家庭教師のクレファーがいたならば、本に書かれていた『星座』という星の並びがどれかということを教えてくれたかもしれない。

しかし今はそんな学問的なことは考えることなく、子供たちはただただ目に映しきれない星々を見るのに忙しくしている。

それは幼いふたりだけでなく、リグレももちろんそうで──何せ貴族学園の寮では消灯時間が決まっていて、羽目を外して規則破りの夜更かしをするほど、彼はまだ擦れてはいなかった。

いずれリグレがターランド伯爵家直属の兵を率いる大隊長の地位になるのだから、その前には一兵士と同じように隠密行動の訓練も行うはずで、その際には今見ているような星空や月の明かり、そしてその位置から様々に情報を取り出すための行動をしなければならない。


だから今は──



そうして夜が更け、魔力で光源を得る魔灯を持つ者を先頭に、本邸へ一行が戻ったのはかなり遅い時間だった。

先頭は護衛の者だったが、子供たちはそれぞれ大人の腕の中で眠りの中にいる。

エレノアは女性の護衛役の者が、リグレはラウドが、そしてアーウェンは本邸から迎えに来たギンダーに抱きかかえられていた。

最初は何故かリグレを受けとろうとそちらに腕を伸ばしてきたが、ラウドは頑として譲らず、代わりに義息子を運ぶようにと言いつけると、家令代理のギンダーは一瞬顔を顰めた。

しかしすぐに表情を穏やかなものに変えたため、ラウドはそのことは心に留めただけで今は問題にしないことにした。


確かに王都邸の者たちはすぐにアーウェンを受け入れたが、それが普通のことだとは思わない。

本来ならばもう少しその素性や性格に疑いや不信感を持ち、時間をかけてゆっくりと打ち解けていくものだろう──ある意味、ギンダーの用心深さこそが普通であり、上級使用人としても間違った感性だとは思えなかった。



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