少年は義家族に褒められる ②

しかしアーウェンの感じた恐怖はただの杞憂にしかすぎず、むしろ義両親も義妹も眩しい物を見るかのように、新しい家族の新しい姿を好ましく迎えてくれたのである。

アーウェンが普通に・・・育てられていれば、義家族の皆だけでなく、食堂に控えている使用人たちも笑みを浮かべつつ目には労し気な色を浮かべているのに気がついたかもしれない。

だが『誰もアーウェンが髪を整えてもらった』ということを咎めなかった事実に安心してしまって、またジワリと涙を浮かべていた。

「アーウェン様、少しお顔に汚れがあるようです……はい、よろしいですよ。どうぞ」

カラが丁寧な手つきでアーウェンの目元を軽く拭い、その手を引いてラウドが示した椅子に座らせる。

アーウェンの左手には義父がおり、向かいには義母と義妹が──その動きが流れるように優雅で、ラウドとヴィーシャムの後ろに控えていたロフェナがふっと笑った。

その姿勢は完璧というわけではないが付け焼刃というほどの簡単なものでなく、ここまでくる間に習得したにしてはなかなかのものである。

そのカラの仕込みはロフェナが直々に教えた──それはターランド伯爵家の家令でありラウドの専属執事も兼ねた父直伝。

「ふむ……さすが、フェンティスはなかなか男前に仕上げてくれる。もっと早く会わせて整えてもらうべきだったな」

「そうですわね。では近いうちに本邸に呼び寄せねば」

「ああ、いや…だがなぁ……フェンティスはこの邸と町を離れたがらぬから。いずれこちらにまた来ることもあるだろう」

「ふふ…きっとその時は『誰が整えたのか』と厳しく問い詰められましてよ?」

ラウドがアーウェンの頭を撫でようと手を伸ばすとビクッと首を竦められ、一瞬ラウドは痛ましげな目付きになった。

それはヴィーシャムも同じで、しかしそれを悟られないようにと快活に声を上げる。

両親のやり取りを聞いていないエレノアはまだキラキラと眩しそうに義兄を見つめ、可愛らしく片頬に手を添えてほぉっと溜息をつきながら大人びた口調で呟いた。

「あーにーしゃま…しゅてきねぇ……ねぇ、てぃしゅ、しょうおもわないこと?」

「ふふっ…左様でございますね、エレノアお嬢様」

ロフェナと違いエレノアの食事の手伝いをするために同席しているラリティスが、小さな令嬢の言葉に相槌を打つ。

それは間違いなく、母が開いたお茶会でどこかのご夫人が言っていた台詞の真似だ。

こんな小さな子が大人の真似をするというだけでも可愛らしいのに、うっとりとアーウェンを見つめるエレノアも愛おしく、幼いふたりを見守る目はとても優しかった。


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