少年は思い出すことを受け入れる ①

詳しいことは領地に帰ってから──そう言いながらも、ラウドはアーウェンにターランドの歴史を紐解くように話した。

「ターランド伯爵家は魔力の強い一族のひとつだ。だがその分というか……なかなか剣の立つ者が産まれることが少ない。ほぼ無い。だから時折りアーウェンのように剣の才能がある者を家に迎えるのだが、いずれまたその子の血筋は絶えてしまう」

「……じゃあ、どうして?」

「どうしてかな……ただ、アーウェンはまだ感じていないと思うが、実はアーウェンにもわずかだが魔力の流れる気配がちゃんとあり、きちんと訓練すればターランド直系ほどではないとしても、ある程度魔力を増やすことが可能なはずなのだ。そうして魔力を持つ剣士のことを『魔剣士』という」

「ま…けん……」

「まあ、実際剣に魔力を纏わされるかどうかは、アーウェンの持つ魔力がどの系統なのかがわかるまで待たないといけないが、どんな力でも面白いことになるだろうな」

ラウドは楽しそうに笑ったが、アーウェンにはどこら辺が『面白い』のかはまだわからない。

「うん。まだわからないだろうな……今はまだカラやエレノアが作ってくれるスープやご飯やお菓子をしっかり食べて、もっと丈夫に大きくなるんだ。そうしたら次はちゃんと領地で訓練しよう。王都の邸でやっていたのより、もっと厳しく私が指導するからな!ああ…楽しみだなぁ。リグレは本当に剣術には興味がないからな。あいつが帰ってくるまでに、アーウェン、一緒にたくさん訓練や稽古をして驚かせてやろう!」

「……はいっ!」

さっきまでとは違い、アーウェンはちゃんと義父の話したことを理解して、目をキラキラさせて元気良く返事をした。


結局アーウェンが見た『悪夢から成長したエレノアが現れて解放した』ということは話し合うことはなかったが、それを聞き出すのは領地の方にいる潜在意識を探る魔術に長けている者に託そうと決め、ラウドは努めて明るく次の目的地までの時間を過ごす。

その地は王家直轄地に一番近い比較的大きな市であったが、そこに辿り着くまでは二泊の野営をすることとなった。

初めての野営ではアーウェンはほぼ気絶していたから記憶がないが、翌日辿り着いた野営用地ではサウラス領地の村で止むを得ず野外で寝ることとなったのとは違う、まるで家のような野営用天幕にエレノアと共にはしゃいでしまった。

しかしそのことを咎める者はなく、アーウェンも自然とそのことを受け入れている様子に、ヴィーシャムがそっと涙を浮かべながら微笑むと、ラウドがその細い肩を抱き寄せる。

「あなた………」

「ああ……よくわからないが、やはり王都を離れたことで何か解呪が進んでいる気がするな……そうであれば、男爵領でも同じことが起こっていてもおかしくはないのだが、そんなことはなかったようであるし……うぅむ……もう少し調べることが必要だな」

「あの子が幸せになれるのならば、私もあの子に必要な愛情をいくらでも注ぎますわ。いっそのこと……」

「ダメだよ、愛しい人」

ヴィーシャムが言おうとしていることを先回りし、ラウドは釘を刺した。

「アーウェンには必ず広い世界を見せる。そのためには、私たちの保護の下だけで成長させてはいけない。大丈夫。あの子はリグレやエレノアとは違う成長の過程を経ても、私たちターランド家との繋がりを解消することはないよ」

「ふふ……あなたに『予見』の力があるとは知りませんでしたわ」

「うん……君やアーウェンが夢で見たという『成長したエレノア』を予見することはできていないのだが、何故かアーウェンは必ず私たちの下に帰ってくると信じられるんだ。よくはわからないのだが……」

キッパリと言い切る夫を揶揄うように楽し気に話しかけたが、返ってきた答えはヴィーシャムの予想よりももっとまじめな顔つきで、『よくわからない』というのは余計な気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る