第120話ターニャの気持ち

「お待たせ」


シモンが戻ってくると廊下にはターニャだけが待っていた。


「あれ?リナちゃんは?」


シモンは少し気を使ってターニャから少し離れて声をかける。


「外の…ラキさんに女装の必要はないって伝えに……」


ターニャは外を眺めていたが声をかけると振り返ってこちらを見ると固まってしまった。


「あれ?ターニャどうした?」


何かあったのかと近づいて手を伸ばすと…


ビクッ!


ターニャが顔を赤くして肩を震わせた。


あれ?この反応…


なんだか身に覚えのある反応にまさかと浮かんだ考えを否定する。


街の女の子にすると恥ずかしそうにしながらも喜ぶ反応に似てる…


いや、ターニャは男が嫌いなはずだからこれは怖がっている反応なのか?


でも顔も赤い…


シモンは少しだけ伸ばした手を引っ込める。


「顔…赤いけど大丈夫?」


チラッと顔を覗き込むと更に顔を赤くしてコクコクと高速で頷いている。


嫌がっている様子はうかがえなかった。


「ターニャ…」


シモンは何と声をかけようかと迷っていると…


「あっ!シモンさん完全に化粧落としちゃいましたね」


いいタイミングでリナちゃんが戻ってきた。


「あ、ああ」


シモンはターニャから一歩下がってリナの方に近づいていく。


「ラキさんの方も問題無いみたいです。やっぱりみんなラキさんが男性だと気がついていたみたいで…」


リナが苦笑して話している。


「あれ?シモンさん聞いてます?二人とも…何かありました?」


リナちゃんが返事を返さない俺の様子に怪訝な顔をすると後ろで黙ってるターニャをちらっと見つめる。


「べ、別に…私みんなのパン作り手伝ってくる!」


ターニャは走って部屋へと行ってしまった。


「シモンさん…何があったんですか!?」


ターニャの様子にリナちゃんに詰め寄られる。


「い、いや!何もしてないよ…普通に近づいたら固まっちゃって…あれってもしかして…俺の事…」


シモンは言いきくそうに言葉を選んで話すが上手い言葉が見つからない。


「私からは何も言えません…では…」


リナちゃんはペコッと頭を下げてターニャの後を追ってしまった。


「ええぇ~」


シモンはモヤモヤした気持ちでリナの後ろ姿を見つめた。




バタン!


「リナさん!」


急いで部屋に入るなりターニャが顔を赤くして駆け寄ってきた!


「ターニャ!あなたシモンさんに何か言ったの!?」


「え?な、なんで」


ターニャはアワアワと慌てている。


「なんかシモンさんの様子が…おかしかったから…」


まさか気持ちに気がついてるとも言えない…


「な、なんにも言ってない!でも…」


「でもなに?」


「化粧落としたらあんなにかっこいいなんて…知らなかった!」


「えっ…シモンさんかっこいいの?」


「確かに綺麗な顔だったけど…」


パンを作っていた二人も気になるのか話に入ってきた。


「べ、別にそんなにかっこよく無いよ!普通!全然普通!」


ターニャは恥ずかしい気持ちを隠すように大声で否定する。


「そんなにハッキリ言わなくてもわかってるよ」


後から遅れて入ってきたシモンさんは居た堪れない気持ちで扉を閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る