第53話ノック

「リナ、アリス、今日もお疲れ様!」


ルーカスは医務室の扉をノックすること無く入っていった。


その様子に先生は呆れると…


「ルーカスさん、扉はノックしようね」


ため息をつきながら注意する。


「いや、すみません。ついみんなに早く会いたくて…それで…リナ達は?」


ルーカスは部屋のなかをキョロキョロと眺めるが二人の姿が見えない事に顔をしかめた。


「えっと、二人には買い物を頼んでいてね。少しかかると思うから今日は先に帰ってくれと言っていたよ」


「リナ達が買い物ですか…大丈夫かな…」


ルーカスの心配そうな顔に先生は少し慌てる。


今にも探しに行きそうに見えた。


「リナは子供じゃないんだよ、いつも買い物くらい行くだろ?朝も会ったんだし今日は真っ直ぐに帰りなさい!」


「そうですね…わかりました。リナ達によろしく言っておいて下さい」


先生はわかったわかったと手を振ると渋るルーカスを部屋から追い出した。


とぼとぼと帰る後ろ姿を見送ると…


「全く早く帰れは彼女達が待っていると言うのに…」


しかしあの調子で帰ったら二人に会えた時に暴走しないか心配だな…


「アリスちゃんもいるから大丈夫かな、騎士だしそれくらいの分別はあるだろう」


先生は笑って自分も帰る支度をする事にした。





ルーカスは二人に挨拶が出来ずにとぼとぼと歩いていると…


「おう!ルーカスさん今日は豪勢でよかったな!」


店のオヤジが声をかけてきた。


「やぁ…豪勢って何かな?」


「そりゃリナちゃんにアリスちゃんの料理さー!今日はたくさん買い込んで行ったぞ」


「えっ!?買い物っていつ来たんですか!?」


「ん?もう随分前だぞ」


オヤジが首を傾げると…


「バカあんた!それは内緒だろ!リナちゃん達はルーカスさんを驚かすんだよ!」


すると隣の女将さんが持っていたはたきでオヤジの頭を叩いた。


「なに!?秘密だったのか…そりゃ悪いことしたなぁ…すまないルーカスさん」


オヤジがルーカスさんに謝ろうとすると…


「あれ?」


そこにはルーカスの姿はなかった。


「どこ行ったんだ?」


「もう話を聞いた途端に家の方に走り出したよ」


女将さんは笑ってルーカスさんが走り去った方を指さした。


「ベタ惚れだな」


「そのようだね」


二人は顔を見合わせ笑い合った。



ルーカスは人を避けながら真っ直ぐに自分の家へと向かった!


さっき先生の様子がおかしかったのはこれを秘密にしていたからなんだ。


二人が家に戻ってる!


そう思うと足が前へ前へと走り出す。


冷めきった家が今日は暖かいかもしれない、そう思うと扉を早く開けたかった。


家が見えてノブを掴むと勢いよく扉を開けた!


「ただいま!」


おかえりなさい!


ん!


笑顔のリナに顔を輝かせて駆け寄るアリス!


そう思うと顔が緩んだ。




「あれ…」


部屋は片付けられていて、作りかけの料理がある。


しかしそこにはそれよりもお目当ての二人が居なかった。


寝室か?


ルーカスは他の部屋にも行くが二人の姿は何処にもない…


なんかおかしい…


料理は作りかけで扉に鍵もかかってなかった。


しっかり者のリナにはありえない事だった。


「あれは…」


そして扉の近くにはアリスのお気に入りのエプロンが無造作に床に落ちていた。


ルーカスはそれを拾う。


「アリス…リナ…」


エプロンは何も答えてくれなかった。

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