第26話ルーカス視点 怒り

「どうしたんだ?」


団長はそう言いながら籠に手を伸ばした、そして中身をみてぐちゃぐちゃにされた料理を見つめた。


「これは…」


「どこかの令嬢がリナ達にちょっかいを出したようです…しかも身分の差から不敬で罰したと…今怪我をしたので医務室で見てもらっています…」


俺がもう少し早く駆けつけていればと不甲斐なく拳を握りしめた。


「何だと…どこの馬鹿だ?」


団長の低く冷たい声がした、団長も怒りを覚えているようだ。


「名前を聞いたのですが名乗らず馬車に乗り込み走り去りましたが、その紋章はロズワール伯爵のものでした。私の事も知っているようでしたが俺には全く覚えがなく…」


「ロズワール伯爵だと?それならよくここにそこの令嬢が見学に来ていた…キャーキャーと騒ぐし勝手に動き回って迷惑だからここにはしばらく来ないように忠告したはずだが…」


「門を少し過ぎたところにいたようです…」


「それでリナさんやアリスちゃんの怪我の様子は?」


「今は治療中なので私は外に…しかしリナは背中を怪我したようで血が…アリスは特に目立った怪我は無いようでしたが怯えておりました」


あの姿を思い出すだけで怒りがふつふつと湧き上がる。


「そうか…傷が残らないといいが…」


「傷が?」


その心配はしてなかった…


俺が口を覆う。


「リナさんはまだ婚姻前だろ…体に傷でも出来たら…」


「それなら俺が貰いますから!」


そんな事は心配ないとすぐに答えると団長が驚いた顔をする。


「あっ…すみません…リナが良ければですが…」


「それは俺でなく、リナさんに言うように…あと傷が残ったら…だろ?」


傷がなければ?


そう考えるがもうリナやアリスが居ない生活は考えられなかった。


「まぁとりあえずその令嬢の方は任せておけ…しっかりと俺が話をつけてきてやる。リナさんやアリスちゃんはこの騎士団にとっても妹や娘のように可愛がっているんだからな…」


「よろしくお願いします…あとアリスの事なんですが…」


「ああ、それも知ってる。アリスちゃんはお姉さんの娘だったな…確か義兄のグリス様は侯爵家だったよな」


「はい」


「なら話は早い、その令嬢は侯爵家の令嬢を守ろうとした娘を罰したと言う事だ…どちらが不敬かわからせてやろう」


団長はニヤリと笑うと部屋を出て行った。


俺はその令嬢の事は団長に任せることにした…もしもう一度あの顔を見たら…自分を抑える自信が今はなかった。


あの…醜く笑う顔を見たら拳を顔に突きつけてしまうかもしれない。


気持ちを抑えながら医務室のそばで待とうと歩いていると…


「ルーカス、家政婦さんの治療が終わったぞ」


ちょうど先生と行きあった。


「先生!リナの様子は?」


「ありゃ鞭の傷だな…相当な力で打ったようだ、とりあえず血止めを塗って包帯を巻いておいた。毎日きちんと消毒と薬を塗ればまぁ…大丈夫だろ」


一瞬先生の顔が曇った。


「そうですか…」


俺はその言葉に少しほっとした。


「では傷は残らないと言う事ですね?」


「それは…なんとも言えんな。あんなに若い娘さんには酷な事だろうな…」


先生が残念そうに顔を顰めた。


ギリッ!!


俺は奥歯を噛み締めると音がなった…リナに一生消えない傷を作ったあの女が許せなかった。


そうして先生と医務室に戻ると先生がもしかしたら着替えているかもしれないと言うのでノックをする。

するとどうぞと声が返ってきたので部屋に入った。


そしてリナの姿をみてピシッと固まる…


そこには先生の白衣を羽織り服のように着ているリナが立っていた…真っ白い服がドレスのように俺の目には映った。


しかし先生の服と言う事に胸がザワついた、先生といえど男だ、リナが他の男の服を着ていることがどうしても嫌だった…そしてそう思うと体が勝手に部屋を飛び出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る