第22話令嬢登場
この日もいつもの通りに門で許可を貰い騎士団の所に向かおうと中へと入ろうとすると…
「ちょっとあなたお待ちになって」
声をかけられ振り返ると見た事もないご令嬢が従者達を引き連れこちらを睨みつけていた。
人違いか?
あまりにも立場が違いそうなので周りを伺いキョロキョロすると…
「あなたに言っているのよ!答えもしないなんてなんて人なの!」
目を釣りあげていきなり怒り出した。
「失礼致しました」
私は慌てて膝を付いて謝った、どう見ても身分が上の方だったからだ。
「庶民のあなたがここに何のようかしら?」
私の姿を上から下までみて、クスッと笑う。
「ご主人様にお昼を届けに伺うところです」
別に隠すことも無いので本当の事を伝えた。
「ご主人様?誰の事かしら?」
「王宮騎士のルーカス様です。私ルーカス様に仕える家政婦のリナと申します」
「ルーカス様の!?しかも家政婦…ぶっ!」
その方は私の顔をみて吹き出した。
「ルーカス様も言ってくだされば私がもっとちゃんとした方を紹介致しましたのに…そうだ!あなたはもう首でいいですよ、これからは私の従者達がルーカス様のお世話をしますから…」
は?
私は突然の事に顔を上げて、この人の顔を見つめてしまった。
この人何言ってるんだ?
しかし彼女は自信満々に笑っている…冗談を言っているようではないらしい…
「すみません…ありがたいお言葉ですがルーカス様から頼まれておりますので、これは届けたいと思います。もし貴方様の言う通りになるとしてもルーカス様からその旨は伝えていただきますので…それでは失礼致します」
私は頭をもう一度下げるとその場を去ろうとお昼ご飯の入った籠を持ち上げた。
「な!なんて無礼な女なの!?まだ話は終わって無いわよ!」
彼女は私の籠を掴むと行かせまいとグイッと引っ張った!
「きゃ!」
突然引かれてバランスを崩すとその場に倒れ込む。
「あら、ごめんなさい…まさかこれがお昼?そんな質素な物をルーカス様に食べさせているの?」
籠からこぼれ落ちた食事をその女性は足で踏み潰した。
「ひどい…」
キッと倒れたまま思わず下から睨みつける。
「何よその顔は…」
女性はさらに不機嫌そうに私を見下ろした。
「!!」
するとアリスちゃんが突然走り出してその女性の足に向かって体当たりした。
「きゃあ!なによこの子は!」
女性は突然足に引っ付いて来たアリスちゃんに驚き足を蹴りあげる。
「アリスちゃん!」
アリスちゃんはその女性に足を振り回されて地面に倒れ込んだ。
私は慌ててアリスちゃんを引き寄せ抱き上げる。
するとアリスちゃんの手には潰されたパンが握られていた。
「アリスちゃん…料理を踏まれたことが許せなかったんだね」
アリスちゃんの気持ちが嬉しくなる。怪我がないか確認するが目立った傷などは無いようでほっとした。
「なんて無礼で躾のなってない子供なの!?いくら子供でも許されないわ!こちらに寄越しなさい!罰を与えます!」
アリスちゃんを寄越せと手を差し出してきた。
「嫌です!この子に何かするつもりなら私が罰を受けます。この子の保護者は私ですから責任は私にあります!」
アリスちゃんを後ろに庇うと女性の目がキラッと光った。
「ならば、この場で百叩きで許しますわ…」
そしてニコニコと笑いながら従者にやれとばかりに目を向ける。
「百叩き…」
するとアリスちゃんが心配そうに私の服をギュッと掴んだ。
「大丈夫だよ、こんなのなんでも無いよ。さっさと終わらせてみんなでご飯食べようね。でもきっと気持ちよくないものだからアリスちゃんは目を閉じてじっと耳を塞いでて…」
アリスちゃんの手をそっと掴むとその手を耳に当てさせた。
子供にそんな場面は見せたくなかった。
目に手を当ててその大きな瞳を閉じさせる、最後に安心させるように笑ってみせた。
「早くここにひざまづきなさい!そうね…まずは背中から行きましょうか?」
「お嬢様…本当によろしいのですか?」
従者の人は鞭を持って躊躇していた。
「何してるの!あなたがしないのなら私がやるわ!」
彼女は鞭をひったくると私の背中に一発思いっきり振り下ろした!
ビシッ!
鞭の音が響いた。
いったぁ~!!
これは思ったよりも痛い…全身に電気が走ったような衝撃が走る。
百回持つかな…
叩かれた場所が熱を持って熱かった。
耐えるようにグッと体に力を込めた。
「何をしている!!」
すると慌てた様子の知った声が聞こえてきた。
「リナ!アリス!」
ルーカスさんは真っ先に私達のところに駆け寄ってきた。
「遅いから心配になってきてみれば…一体うちの者に何をしているのですか?」
ルーカスさんの大きな体にアリスちゃんと私はすっぽりと守られるように抱きしめられた。
「ルーカス様!!違うんですぅ~その人達が私に不敬を働いて…ルーカス様の為にもその人達首にした方がいいですよ!私の家から家政婦でもメイドでも従者でもお貸ししますからぁ~」
彼女はルーカスさんを見るなり先程よりも甲高い声で甘えるように擦り寄った。
「リナ達が不敬?」
ルーカスさんの怪訝な声が頭の上で聞こえる。
「そうなんです!特にその子供!私の足に掴みかかって来たんですよ!だから罰を与えようとしたらその女の方が代わりにやると言うので…貴族と庶民ですよ?この罰は当然だと思います」
「アリスちゃんは悪くありません!あの方が籠を引っ張って料理をこぼしてそれを踏みつけたのをアリスちゃんは止めてくれたんです」
「なんだって…」
ルーカスさんが見ると地面には私達が作った料理が無惨な姿になっていた。
「私はちょっと手をかけたらその人が勝手に転んだんです~そしたら料理が地面に…わざと踏んだわけじゃないんですよ!ただそのみすぼらしいご飯が私の足元に転がってきたんですぅ~ねぇあなた達?」
そう言って自分の連れてる従者達の方を振り返った。
従者達は渋々頷いている。
ここにいたのは私とアリスちゃんに彼女の従者達だけ…本当の事を言っても信じてもらえないかもしれない。
何よりルーカスさんにそう思われるのが嫌だった…
「そんなわけない、リナ達が嘘を言うわけないからな…」
しかしルーカスさんは険しい顔で彼女の言葉を否定した。
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