第11話 学生服姿のリーゼ

 鳥の鳴き声でようやく気付く。

 すでに朝になっていたようだ。

 リーゼはまだ眠っている。

 

 僕は彼女の可愛い寝顔を見て、徹夜をした眠気からあくびをする。

 何故徹夜したかって?

 それは……料理の研究をしていたからだ。


 どうも一度やり出すと止まらない達で、気が付けば徹夜をしていた。

 後悔はないが眠気がある。

 リーゼが気持ちよさそうに眠っている姿を見て、眠気が加速する。


「ん……」


 寝返りを打つリーゼ。

 今日は学校だけど……休もうかな。

 僕はそう考え、自分の布団で眠りにつこうとする。

 しかし、そこでリーゼが眠りから覚め、ボーッと僕を見上げた。


「……おはよ」

「おはよう、リーゼ」


 僕は寝ぼけ眼のリーゼを見つめ続ける。

 うん。可愛い。

 目覚めた彼女を見ていると胸が高鳴り、眠気が飛んでいく。


「どうした? 私の寝顔に見惚れているのか?」

「まぁ……はい」


 恥ずかしいことを直接聞いてくるリーゼ。

 当然僕は恥ずかしくなり、サッと視線を逸らす。

 リーゼは楽しそうにクスクス笑い、起き上がる。


「じゃあシャワーを浴びてくるよ」

「うん……って、こんな早くに起きてどこか行くの?」

「ああ。学校だ」

「ふーん。学校に行くんだ」


 リーゼは大きく伸びをし、シャワーを浴びに行こうとする。

 そこで僕は彼女の放った言葉のおかしさにようやく気付いた。


「学校!? なんでリーゼが学校に行くんだよ?」

「ん? だってお前も学校に行ってるんだろ? だったら私も行ってみようかと思ってな」

「思ってなって思って行けるような所じゃないから。手続きとか、色々あるし無理でしょ」


 リーゼはあくびをして、まだ眠そうな瞳で僕を見つめる。

 

「その点は問題ないよ。昨日知り合いに頼んでおいたから」

「何を?」

「問題なく学校に行けるように手配してくれたみたいだよ」

「……どんな知り合いなんだよ」


 僕は顔を青くし、彼女の不敵な笑みを見る。

 リーゼはそのままシャワーを浴びに行ってしまう。


 徹夜だというのに、眠気は完全に飛んでしまっていた。

 僕はため息をつき、彼女のために朝食を用意することにした。


 キッチンに立っていると、リーゼがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。


「…………」


 なんだかこれ、慣れないな……

 想像が掻き立てられる。

 彼女の細い腰のラインが、頭の中で描かれていた。

 

 僕はゴクリと息を呑み込み、首をブンブン振る。

 妄想も大事だけど、彼女に美味しい物を提供しないと。


 僕は妄想を我慢し、調理に集中する。


 雪のように白い粉に卵を落とす。

 そこに牛乳を入れて、かき混ぜる。

 粉にドンドン粘りっ気が出てきたので、フライパンに投入する。


 弱火でそれを焼いていると、甘い香りがキッチンに充満していき、僕はそれをかいで首を縦に振った。

 ここまでは問題なさそうだ。

 問題は次だ……


 フライパンで焼いていたそれを、コテでくるりとひっくり返す。

 僕は安堵のため息を吐き、黄金色に焼けたそれを優しく見下ろしていた。


「いい匂いがするな」

「うん。朝食の用意をしてたころだった……って、裸だよね!?」


 リーゼの声と共に、背後でガチャッと扉の開く音がする。

 彼女はクスクス笑いながら、僕の後ろで体を拭いているようだ。


 爆発しそうな心臓を押させ、僕は一度奥の部屋に退避する。


「き、着替え終わったら言って!」

「なんだ、別に見てもいいんだぞ?」


 僕だってみたい!

 リーゼの裸を見てみたい!

 だけど……女性の裸を見るなんて、良くないだろ!


「…………」


 しかしここで僕はある事実に気づく。

 僕たちは夫婦だから……見てもいい?


 ゴクリと息を呑み込み、僕はソッと後ろを振り向こうとする。


「じ、じゃあ、遠慮なく……」


 僕の目の前には――すでに着替え終えたリーゼの姿があった。

 着替えるの早すぎでしょ。

 僕はガッカリしていると、リーゼはニヤリと笑いながら言う。


「スケベだな、私の旦那さんは」

「ス、スケベですよ! リーゼのことは隅々まで見てみたいんだよ!」

「そっ。まぁ……いずれな」


 少し照れている様子のリーゼ。

 僕はそこで、リーゼが学生服を着ていることに気づく。

 彼女の学生服姿は……控えめに言って奇跡のようなものだった。


 超美女に学生服の組み合わせ……神々しいにも程がある。

 僕が呆然としていると、リーゼはキョトンとしてるようだった。


「どうした?」

「あ、いや……学生服姿が、凄く可愛いからさ……」

「そうか……」


 リーゼはクルリと踵を返し、テレビの方に視線を向ける。

 後ろから見える彼女のとがった耳。

 その耳は、驚くほどに赤く染まっていた。


 あ、照れてる。

 そう思うとまたより一層彼女のことが可愛く思え、抱きしめたい衝動に駆られた。

 夫婦だし……抱きしめるぐらいいいよな?


 僕はドキドキしながら、彼女に近づく。

 そして深呼吸し、リーゼを抱きしめようとした。


 しかし――


 ピーンポーン。

 と、来客が尋ねるチャイムの音が響く。


「なんだ、この音は?」

「誰かが来たんだよ」


 誰だ……こんな朝っぱらから。

 って、大体予想はつくけど。


 僕は二つの意味でため息をつく。

 一つはリーゼを抱きしめらなかったことに。

 そしてもう一つは――


「おはよう、耕太」


 幼馴染である、楓が登場したことにだ。

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